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猫と彼女のサファイアブルー

「――ソフィー!?」


 娘の予想外な行動に驚いた領主さまの叫びが聞こえ、召喚が終わったことに気づいた。どうやら時間経過はないみたいだな。


 舞い上がる肉球スタンプと、床に展開された肉球陣の残照が消えて行き、目の前にはソフィーさま。そして俺は、その手を握ったまま……。


「にゃーう」


 ハスキーな猫の鳴き声にふと足元をみると、ソフィーさまの足に頭から身体ごと擦り寄せ、しっぽまで絡めているシャム猫の姿。


「ちゃんと召喚できてるな、よかった!」


「はい! 素敵なブルーの瞳ですね」


 え、ソフィーさまの目が……って手を握ったままなのに気づいて、慌てて離したけど、ソフィーさまの目も治っちゃってるよ、猫神さまの加護なのか!?

  加護半端ないっす!


 ソフィーさまは足元の猫をそっと抱き上げ、領主さまに向き合う。


「お父様は少しお痩せになりましたね? 見てください、猫ですよ。とっても温かくて可愛らしいの!」


「ソ……フィー……、呪いが解けたのか!」


 呪いだったんかい! そりゃ加護が仕事するわな。


「みたいです、ずっとあった嫌な感――!?」


「――ソフィー!」


「な、にゃーう」


 領主さま感極まって、猫ごとソフィーさまを抱き締めたもんだから、猫がビックリして抱っこから逃げちゃったよ。

 ちゃんと着地して、またソフィーさまの足元に擦り寄ってるから、かなり甘えん坊さん猫か。


「ソフィー……良かった!」

「ご心配をおかけしましたお父様、わたしくはきっともう大丈夫です」

 そう言ってソフィーさまは、猫を抱いていたその手で父親をしっかりと抱き締めていた。

 元おっさんの涙腺はいつのまにか決壊寸前! 親子二人の涙腺は大決壊!


 そしてしばらく温かな時間が緩やかに流れていたが、ヘンリーさまの呟きが時間を現実に戻すきっかけになった。


「もう、私には何が何やら……ソフィーお嬢様の目が治ったのは分かるし、喜ばしいものだが」


 ヘンリーさま、途中から空気でしたもんね。ごめんなさい、俺が暴走したからです、反省はしません!


「すまないな、恥ずかしいところを見せてしまった」

「はは、構わないよ。今だけは家族として言わせてくれ。良かったな兄さん、ソフィー」

 お二人さん、兄弟かよ!


「今だけじゃなくていいんだがな」

「そうですよ、叔父様」

「立場はしっかりと分けておかなくてはね。幼いころの美しい瞳のままだねソフィー」

「お揃いなんですよ、ほら!」

「にゃーう」


 四つのサファイアブルーの瞳は本当にお揃いで綺麗だよ。これも運命ってやつかね。


「本当に私にも何がどうなっているのか、さっぱり解らないのだが……タケル君、最後までちゃんと話を聞くから説明してくれないか?」


 と領主さまが説明を求めてきたので、今度は熱くならずにちゃんと説明するぞ。


 変に隠すと辻褄遇わせるのが面倒なので、ある程度は隠さずに話すことにした。


 俺がこことは違う世界からやってきた、転生者だと言うこと。

 転生する条件として、俺がいた世界で困っている猫を、こちらの世界で保護することになったこと。

 猫を求めている人が、なんとなく分かること。

 髪飾りを拾ったのは偶然だが、この屋敷にその対象がいたのは知っていたので、強引に縁を繋いでしまったこと。

 猫と飼い主とその周辺には猫の加護が働き、害意や悪意から守ってくれること。

 偶然の事故なんかには加護は働かないこと。

 ソフィーさまの場合は呪いだったので加護が働き、呪いが解けたのではないかということ。

 普通の欠損や、病なんかに、加護が働くかは確認できてないが、予想では無理だろうということ。


「という訳です」


 ずっと説明してたら喉乾いちゃったよ。猫さんは途中で飽きてソフィーさまの横で丸まって寝てる。かわいいなやっぱり! モフりてぇ! 家に帰ったら、楓と紅葉を思う存分モフるぞ! モフらせてくれるかな?


「目の前で起こっていなければやはり、信じられるような話ではないが、現実に猫が現れ、ソフィーの呪いも解けているからには、信じるしかあるまいな」


「わたくしは最初から信じていましたわ。屋敷の外に神聖で温かな気配をずっと感じていましたから。そしてこの部屋にタケル君が来てくださって、手を握られ、お顔に触れたときに確信しましたもの」


 俺の猫愛が溢れだしてしまっていたんだね!


「それで、猫についてなのですが、飼うにあたって色々と注意しなければならないこともあります。が、とりあえず名前を付けてあげてください。猫はとても賢い生き物なので、人の言葉はある程度理解できます」


 召喚されてその辺はさらに強化されてる気がするしな。きっとたぶん、メイビー!


「名前ですか? うーん、昔、お母様に読んでもらった絵本に出てきた天使のお名前、ミカエルはいかがでしょう?」


 その名前に反応するかのように、猫の耳がピクピクしてる。って、ミカエルさま、こっちでも天使やってらっしゃるんですか!


「あなたのお名前はミカエルですよ? いいかしらミカエル?」

「にゃーう」

 気だるそうに顔をあげて一声鳴いて、猫はもう一度寝てしまった。


「あとは基本的な習性とか、食べ物や、トイレの場所や世話、おもちゃや、猫用の遊び場とか色々あるので、とりあえずミカエルで慣れてください」


「まだ沢山の猫さんたちがわたくしを待ってるの! お父様! ミカエル以外にも沢山飼うことを、許していただけませんか?」


「一匹でも大変そうだが、屋敷は広いしなんとでもなるだろう。使用人たちにも、もちろん世話をさせないと無理だろうが」


「猫は基本単独で行動する生き物で、高いところや狭い空間が好きであったりします、広いお屋敷であってもあれだけの数を飼うとなれば、色々と整備しなければ猫がストレスを溜めてしまいます、無論人間も」


「そうなのですね……」


「私も知識で知っているだけで、実際には二匹しか同時に飼ったことがないので多少手探りになります。まずは自分で店を作って、色々と試してみようと思っています。沢山の猫と触れあえる、猫カフェと言うものを作ろうかなと」


「『かふぇ』とは何かね?」


 店の話になったらヘンリーさま反応してきたよ、さすが商業ギルドマスター!


「飲み物や甘味、軽い食事などを提供する空間です。そこに更に猫が加わるのが猫カフェです」


「甘味と猫ですか! 素晴らしい組み合わせだと思います、タケル君!」

 さすが女の子、甘いものに反応してきたよ!


「具体的には何か決まっているのかね、手伝えることなどあれば支援はするが」


「正直、この世界に来て一年ほどはずっと猫と遊んで暮らしていて、今日初めて街に来たばかりなので、具体的には何も決まっていません」


 仕方ないよね、猫は可愛いし、子猫だったし!


「あと二人、猫との縁がある反応があるのでそれを解決しつつ、お店のことも考えていこうかと思っています」


「ギルドに来たときもそうだったが、君はちゃんと考えてるのか、考えてないのか、よく解らない子だな」


「猫のことはちゃんと考えてますよ! それで領主さまにちょっとお願いがあるのですが……」


「何だね、言ってみたまえ」


「ちょっとそこの庭に、家を建ててもいいですか?」


 ふふふ、俺の猫計画はまだまだ始まったばかりさ!


お読みいただきありがとうございます。

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