そして出会う少女と猫
「これはまた大きく出たねタケル君。とりあえず話は聞くから、落ち着きたまえ」
猫のことなので思わず興奮しちゃったよ、領主様の声で冷静になれたので、再びプレゼン開始だ!
「私はこの世界の皆様に、『猫』という動物をぜひ紹介したいのです。人類と、ともに暮らすパートナーとしてです」
「貴族の道楽で飼っている、小鳥のようなペットのことかい?」
「ペットと言えばそうですが、例えるなら騎士とともに戦場を駆ける軍馬のような存在です、まさにパートナーです。軍馬と違うところは、その存在は人と比べると、か弱いものではありますが、もともとは単独で狩りをするような四足歩行の小動物です、強かで賢く、誇り高く、それでいて愛らしい、とても素晴らしい生き物です」
飾った言葉で語るより、一目見てもらえば理解してもらえるだろう、俺は言葉を続ける。
「万の言葉を並べるより、その目で見ていただくのが一番かと思います。ぜひソフィーお嬢様のパートナーとして、この場にてご紹介させて貰えないでしょうか」
初対面の人間にいきなりこんな話をされたら、ほぼ確実に胡散臭い話として疑われるだろうが、ここは恩人としてのアドバンテージを活かしてねじ込むのみ!
「聞けば聞くほど、怪しい話でしかないが……」
で、ですよねー……どうしよう……領主さまもヘンリーさまも警戒しちゃったよ。
「タケル君、なぜわたくしなのですか? それほど自信のあるものなら猫そのものを持ち込んで、街で売れば良いだけだと思うのです。なぜそうしないのですか?」
ここでソフィーさまから援護射撃が来た! そうだ、ただ猫を広めるだけなら猫カフェでも開いて、実際に触れあってもらうなりすれば簡単な話だ。
ならなぜ、最初にここへ来たのか?
髪飾りを拾ったからなのか? 否!
「それは猫がソフィーさまを望み、ソフィーさまもまた猫を望んでいるからです。その縁を! 運命を! 俺は繋ぎに来たんです! 信じてもらえませんか? そしてその手を俺に託してくれませんか?」
「残念だがタケル君、話はここまでだ! あとで礼金をギルドへ届けさそう、この話はそれでおしま――」
「――わたくしはタケル君を信じます!」
「ソフィー!?――」
――領主さまが遮るより早く、差し出されたその右手を俺は優しく包み、叫ぶ!
『保護猫召喚!!』
ソフィーさまを中心に金色の肉球陣が展開され、舞い上がる肉球スタンプに導かれるように俺たちの世界は反転する。
気づけば転生直前に訪れていた、真っ白な世界に俺たちは居た。
「ソフィーさま、俺を信じてくれてありがとう」
俺はソフィーさまの目を見て、ソフィーさまも俺の目を見て……
「タケル君……? わたくし、目が見えて……?」
「ここはたぶん、魂の世界だからね。ソフィーさまの瞳は魂までは傷ついてないんだよ」
ソフィーさまのサファイアブルーの瞳はとても綺麗だった。
「タケル君はわたくしの予想より、素敵な殿方でしたのね」
いや、いや、いや、いや、いや、いや、マジっすか!
社交辞令ですね、あっはい、知ってます。
『にゃーお』
真っ白な世界にハスキーな猫の鳴き声が響く。気づけば周囲に、色々な種類の猫たちが集まり始めていた。
さっきの鳴き声の子かな?
鼻でスンスン臭いを嗅ぎながら、近づいてくる一匹の猫。
特徴的なブイ字型の顔に白っぽい体毛だが、鼻周り、耳、足先、しっぽがチョコレート色のポイントカラーなシャム猫だ。
「この子たちが、猫?」
「そうです、この子たちが猫です、ソフィーさま」
さっきは勢いで俺を信じて、とか普通に喋っちゃってたけど元に戻そう
「ふふふ、とっても可愛らしいのですね、タケル君が熱弁したのも頷けます。撫でて大丈夫かしら?」
「一匹近づいてきているので、その子なら大丈夫だと思いますよ。周りの子たちもソフィーさまと縁のある猫たちでしょうから、もう少ししたら近づいてくるかも」
「猫さん、おいでおいで~」
シャムがゆっくりと匂いを辿るように、ソフィーさまへと近づいてくる。
「最初はおでことか、背中を、優しく撫でてあげる感じで、おでこは指だけでもいいかな。慣れてきたら顎のしたとかもいいかも。掴むと嫌がるので、優しく撫でてあげてください」
シャムがソフィーさまの手をスンスンし始めたところで撫で始めた。いいな、いいな、後で俺もナデナデしたい!
おでこや背中を撫でているが、嫌がっている様子はない、顎にチャレンジを始めたところで、頭を擦り付けるようにして自分からソフィーに撫でられに来たぞ、だっこチャンスだ!
「抱っこできそうなので片手の下に手をいれて、もう片方でおしりを支えるようにして――」
説明してる途中でシャムはそのまま膝まで乗ってきたので、流れでそのまま抱っこしてしまった、う、羨ましくなんてないんだからぁぁぁ!
「とても温かいですね……あっ、この子……目が……」
とても羨ましい光景の最中、ソフィーさまも俺も気づいてしまった。その特徴、象徴と言ってもいいサファイアブルーの瞳は閉ざされたままだった。
「わたくしと一緒なのね……」
「こちらの世界に連れて帰るときに、病気や、怪我などはすべて治るので大丈夫ですよ」
「では、ここに居るすべての子たちを連れて帰らねばなりませんね」
いやいや、いきなり多頭飼いは難易度高いって!
「気持ちはわかりますが、さすがに最初は一匹だけにしてください。用意するものや、気を付けることなどもありますし、慣れてきてから順番にお迎えしましょう」
「そうなのですか? 残念です。なるべく早く迎えに来ましょう、約束ですよタケル君!」
「はい、必ず!」
他の猫たちもどんどん集まってきたので、とても幸せそうにみんなを撫でる!
便乗して俺も撫でる!
モフモフ、サイコー!!!
でも怪我をしている子も多く、それに気づくたびに悲しそうな顔になるが、迎えに来るまでもうちょっと待っててくれ!
それなりに時間が経っているが、元の世界とこっちの世界の時間の流れが一緒なら結構ヤバイよね?
元の世界は一瞬しか経ってないという、ご都合展開を祈る!
「ソフィーさま、領主さまも心配されいると思います。そろそろ戻りましょう、また必ず連れてきますから」
「わかりました、では連れて帰るのは最初のこの子にします」
そして選んだ猫は、最初に撫でたシャムなのは必然だろう。
ソフィーさまはシャムを抱き抱え、俺は肩に手を置き、帰還の言葉を叫ぶ。
『リターン!』
そして俺たち二人の魂は帰還し、一匹の魂と肉体は再構築され召喚される……ん!? この白い世界の猫は魂が傷ついたままなのに、ソフィーさまの目が治っていたのはなぜだ!?
何となく感じた印象で、魂まで傷ついていなかったからだと思ったが……
そんな疑問を抱えたまま、俺たちは世界に戻った。
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