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領主さまのお屋敷

 商業ギルドのマスターとともに、高級そうな設えの馬車にゆられて領主様の屋敷に向かっている途中である。

 が、ギルドマスターのおじさんからの視線がちょっと怖い……


 俺、そっちの趣味ないよ!


 ひょっとして、領主様じゃなくてマスターのお屋敷にドナドナされて、あんなことや、こんなこと、されてしまうんじゃ……!?


「洗浄もせず、薄汚れていても、珍しい服や、革製品だとは思っていたが綺麗になれば一層よく分かるな。少年が身に付けているような物を売る商売でもする気なのかな?」


 あ、そっちの興味でしたか、元おっさんひと安心ですよ。さてどう答えたものかな。とりあえず、ギルド登録もして名前も登録したから、名乗っておくか。


「えと、タケルです。まずお礼を言わせてください、いきなり持ち込んだ落とし物の件で、ご協力いただいてありがとうございます」


「タケル君か、私はヘンリーだ。礼はその髪飾りがお嬢様の物であれば、むしろ私がするべきかもしれないからな、気遣いは無用だよ」


 ヘンリーさんか、好感の持てる人だな。傲慢な態度で接してくるわけでもないし、こっちは今日ギルド登録した駆け出しの若造なのに、ちゃんと相手をしてくれている。


 もっとも、俺の身に付けている地球製品に興味があって、優しくしてくれているだけかもだが。


「では、感謝の代わりに先程の質問に答えたいと思います。この服や鞄のような物も商品として扱うことも出来ますが、メインではありません」


「ほう、それ以上の物を扱えると言うことか?」


「それ以上かどうかは、人それぞれでしょうが、私にとってはこれらの物より価値があると思っています」


 嘘は言ってないぞ、猫との暮らしに比べたらな!


「そうか、商材や情報は商人の命とも言える。無理をして聞き出すつもりはないが、相談があれば個人的に受けてもよい、考えておいてくれ」


 いい人半分、優秀な商人半分ってところかな? 半分以上いい人かもしれない。


「ありがとうございます。ひょっとするとお屋敷の誰かが、最初のお客様になるかもです。お客様と言うのも変かも知れません、私が提供したいものが商人という立場があったほうが提供しやすいというだけで、必ずしも私が商人である必要はないですから」


 むしろ猫好きの同士だよ! 猫フードとか、グッズとか、利益なしの実費と経費ぐらいで販売はしないとダメだろうけどさ。保護猫との出会い自体で、商売をするつもりはないからね。


「それだけではよくわからない話ではあるが、そろそろお屋敷に着く。窮屈だろうが誰かが呼びに来るまでは、馬車で待っていてくれたまえ。最後まで呼ばれずに、長い時間待たせてしまった場合は申し訳ないがな」


 そんな話をしている間にお屋敷に到着し、俺は今絶賛待機中です。俺の乗ってきた馬車は、装飾の施された馬車のとなりに並んで停められている。馬は厩舎にでも連れていったのか外されている。


 馬車や馬の世話をする人がいるのだろうか、人の気配はするが隠れてこっそり行動出来なくもないだろうけど、そこまでする必要を感じないから、おとなしく待っておこう。


 窓から見える部分だと、お屋敷を囲う外壁と広い敷地が見える。外から見たときも思ったけど、小さな一軒家なら建てられる広さがあるね。


 ここに建てるならどんなデザインが合うかな? と建物を想像しながら時間を潰していた。


 待ち時間は思いの外、短かった。十分ほどで使用人らしき人が俺を呼びに来て、大きな屋敷の外観を堪能したり、屋敷の中を堪能する暇もなく、あれよあれよという間に、案内された俺の目の前にはナイスダンディーな領主さまっぽい男性とプラチナブロンドの長い髪と透き通るような白い肌の美少女が座っていた。あとヘンリーさまもね。


「旦那さま、タケルさまをご案内しました」


「ご苦労、君は下がってよろしい。タケル君は、ヘンリーの隣に掛けたまえ」

 声も渋いね領主さま!


「初つにお目にかかります、猫商人のタケルでございます、以後お見知りおきください」


 ラノベ仕込みの知識で挨拶をし、ヘンリーさんの隣に座りながら展開していた猫マップで、肉球マークの主がプラチナブロンドの美少女であることが確認できた。

 挨拶にはさりげなく猫ワードをぶっこんでおく!


「アルフレッド・ディップだ、わざわざ来てもらってすまないな、タケル君」


「お父様……」


 領主さまの挨拶もそこそこに、ターゲットの美少女が小さいけれど透き通るような声で、領主さまを急かしているようだ。


 ん? この娘、ひょっとして目が見えないのだろうか……手探りのように右手で、父親の左手を探し握っている様子に気がついた。そういえば、目もずっと閉じたままだ。


「すまないな、話はヘンリーから聞いているが、タケル君が拾ってくれた髪飾りはどうやら娘が失くしたもののようでね、見せてもらえないかな?」


「はい、こちらです。洗浄魔法は掛けてあります」


 紳士のたしなみとして、持っていた真っ白なシルクのハンカチに拾った髪飾りを包んでおいたので、それをテーブルに静かに置いた。


 商人ギルドのお姉さんにお願いして、髪飾りも洗浄しておいてもらった。ハンカチは一度洗濯しただけで未使用だぜ。


「ほう、これは……」


 包んでいるハンカチに興味を示しているのか、領主さまはその手触りを確かめながら包みを解く。


「確かに娘の髪飾りだ。見つけてもらい感謝する! ソフィー、確かめてごらん……」


 領主さまは娘――ソフィーって名前?――の手を取り、髪飾りへと導く。

 少女は大切そうに両手でそれを包み込み、手の感触で確かに自分の大事なものだと確認できたようで、そのまま胸に抱き締めた。


「……お母様……よかった……」

 そう、呟きながら。


「縁を繋いでくれたヘンリーもだが、タケル君、見つけてくれて本当にありがとう。何かお礼をしなければいけないな――」


「――あの、お父様、わたくしからもお礼と、あの……お顔を……よろしいですか?」


 少女が父親の言葉を遮り、少し照れるように何やらモジモジしているんだが可愛すぎるだろ! って顔??


「タケル君、もう察しているかも知れないが、娘は目が見えなくてな。嫌でなければ娘に顔を触らせてやってくれないか? 君の顔を知りたいそうだ」


 ああ、感触で想像するのね。って、えぇぇぇぇ! それめっちゃ恥ずかしいんですが、もうご褒美それで十分なぐらい恥ずかしいんですけど!?


「だめでしょうか?」

 戸惑っていると少女がさらにモジモジしながら、その透けるような白い肌を赤らめているのを見て、俺は覚悟を決める!


「お嬢様、どうぞ」


「ソフィア・ディップです、タケル……君。ソフィーと呼んでください」


 と言ってソフィーさまは両手を伸ばしてくる。が、見えてないから、伸ばしたまま止まってしまった。


 これは俺が手を握って、自分の顔に誘導しなければいけなんだろうな、ご褒美の難易度がマックス限界突破しそうな勢いなんですが、がんばれおっさん、猫と勇気だけが友達さ!


「失礼します」


 震えそうになる手を頑張って抑え込み、ソフィーさまの手を握る。うわぁ……すべすべて温かいぞ……肉球の感触に優るとも劣らない美少女の手!


 ご褒美、頂きましたぁぁぁ!!

 まだだ、まだ満足する時間じゃない!


 そのままソフィーさまの手を自分の頬に誘導して、とっても名残惜しいが俺はその手を離した。


 わさわさと、少女の暖かい手の平と、すべすべの指先が俺の顔を蹂躙していく。髪の毛や頭頂部まで余すところなくだ。大丈夫です、俺の頭頂部はフサフサだよ!


 耳に触れられたとき、変な声が出そうになったがなんとか我慢できた。


 ナデナデされる猫の気持ちが、ちょっとわかった気がするぞ、喉が鳴らせるなら、ゴロゴロ鳴らしたいぐらい気持ちよかった!


 ふと、このプレイが父親の目の前で行われていることを思い出した!


 ちょっとお父さん、いいんですか! 年頃の娘さんにこんな破廉恥プレイを許してしまって!


「ソフィー、もういいだろう?」


 そんな俺の心を読んだのか、領主さまも父親として思うところがあったのか、その一言で俺のご褒美は終了した。


 しばらく顔は洗わなくていいかなぁ……え、冗談だよ?


「本当にありがとうございました、タケル君。お母様の形見だったの……」


 それは本当によかったな。頑張った甲斐もあったよ。


「それでは改めて、褒美というのも大袈裟だが何かお礼をしたいのだが。

 何かこの街で商売を始めるかも、ということもヘンリーから聞いている。

 出来ること、出来ないこともあるが、何か君に希望はあるかね?」


 来たぜ、俺のターン!


「ありがとうございます、失礼を承知でお願いしたいことがございます。

 先程わたくし、猫商人と申しましたがこの街、この国、いやこの世界に、ぜひ広めたいものがございます……」


 そして俺は夢を! 使命を! 語りだす!




 俺たちの戦いは、まだまだこれからだ!




打ちきりENDじゃないです。

明日もちゃんと続きます。


ね、猫成分が足りない!ごめんなさい!

お読みいただきありがとうございます。

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