3話 隣国へ
反乱軍の本拠地へ行き、彼らへの情を消したレノアとルイは、隣国へ行くため空を飛んでいた。
たった2人でできることなどたかが知れている。
しかし、王国軍に協力を求めるなどできないし、したいとも思わない。
そこで、オブセラヴ王国の隣国へ向かっていた。隣国は以前から王国の政治に異を唱えており、うまくいけば隣国と協力できるかもしれないと考えたのだ。
「おーい!レノアー!」
突然、後ろから響くレノアをよぶ声。
レノアとルイは何事かと振り返る。
そこにいた人物を見て、レノアは微かに目を見開いた。
「……アレク」
暗い茶色の髪をポニーテールにした菫色の瞳の少年、アレクがレノアたちの後ろにふわふわとういていた。
幼くみえるが、20歳のレノアたちより1つ歳上の21歳だ。
「久しぶりだね。こんなところで何してるの?あと、その人は誰?」
レノアの友人であるアレクは、いつもの明るく愛らしい笑顔でそう尋ねた。
もっとも、その心の中は黒い感情で溢れており、菫色の瞳は1ミリも笑っていないのだが……
レノアは他人の感情、特に自分へ向けられている感情にひどく鈍いのだ。
本人は自覚していないが、様々な感情にまみれた貴族社会にて、自らの心を守るために無意識に他人の感情に目を向けないようにしたのも、そうなった原因の1つだろう。
「久しぶり、アレク。反乱軍にスパイとか意味わからないこと言われて牢にいれられたから、ルイと逃げ出してきたの。この人がルイ。私の幼なじみで反乱軍で唯一私を信じてくれたんだ」
「へー。よくわからないけど、僕もレノアのこと信じるよ!」
「…ありがとう。でも私あいつらに復讐するから、もうアレクとは会えない」
レノアにとってアレクは弟のような存在だ。そんな存在を、自分の復讐にまきこみたくない。そもそも、アレクは反乱軍とは関係ないのだ。
……まあ、彼らが情報を渡していたと思っていた少年はアレクなのだが、全く何も聞かされずに牢にいれられたレノアには知るよしもない。
それに、たとえ知っていたとしてもレノアの行動は変わらなかっただろう。
「えー!なんでよー。僕もレノアと一緒にいたい」
「ダメだよ。危ない。アレクをまきこみたくないの」
「えー。そんなこと言わずにさ。ね?」
「ダメ」
先ほどからアレクから魔力があふれ、周囲の温度を下げているのだが、レノアは全く気にせず話している。
レノアにとって、これはいつものことなのだ。
レノアが彼らの話をするたびにこうなるのだから、もう慣れてしまった。ちなみに、その様子を見てレノアはアレクが彼らへの苦手意識をもっているのだと思い、彼らにアレクと会わせようとしなかったのだ。
「僕、役に立つよ。それに、レノアと離れたくない」
拗ねたような顔で言うアレク。
「……でも…」
「味方は多い方がいいでしょう?」
その時のアレクは、どこか威厳のある、思わずうなずいてしまうような雰囲気を纏っていた。
「……………分かった…」
「やったぁ!」
しかし、それは一瞬のことで、すぐに元の雰囲気に戻る。
「ルイ、そういうことで、アレクも一緒に復讐することになった。アレクは、私の友達。こんな見た目だけど、剣の腕はライアンと同じくらいだよ」
「そう……」
心なしか、ルイがへこんでいるように見えたが、レノアは気のせいだと思い、気にしないことにした。
「じゃあ、気をとりなおして隣国に行こうか」
ルイが無言で頷く
「隣国に行くの?」
アレクが首をかしげる。
「私たちだけじゃ反乱軍に復讐したって無残に負けるだけだから、隣国に行ってみて協力してもらえるならしてもらいたいなって……」
「ふーん、そうなんだ。いい考えだね!」
「協力してもらえるかわからないけどね」
「レノアなら大丈夫だよ!ね、ルイ」
「…うん……」
そんな会話をしながら、3人は隣国に向かって飛んでいった。