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絡み合う愛情と憎しみ 少女は誰の手を掴むのか  作者: 如月麗羅
第2章 反乱軍,レオンルート
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19話 逃走『軟禁2ヶ月目&〇〇1日目』

翌朝、昨日の怒りで興奮したせいか、レノアは珍しく早朝に目が覚めた。横にはまだレオンが寝ている。いつもであれば二度寝するか、今日はそんな気分になれなかった。


「……?」


ふと、違和感に気づいた。レノアの身体に、魔力が戻っていたのだ。ずっと魔力のない状態で過ごしていたため、魔力があるという当たり前が違和感でしかなかった。少し不思議で、でも嬉しくて、レノアはしばらく自分の体を触ったり眺めたりしていた。


「………あっ!」


しばらくして、ようやくレノアは気がついた。魔力が戻っているのなら、瞬間移動を使って逃げ出せるのではないかと。

レノアは嬉しくて嬉しくてたまらなかった。これでやっと逃げ出せる。みんなとまた会うことができる。

そんな高ぶった気持ちのまま、レノアは瞬間移動をした。


「………え?」


そうして着いた場所は、森だった。

レノアは混乱した。どうして自分は森にいるのだろう。城内の自分の部屋に転移するつもりだったはずなのに。どうして、どうして--


「………はっ!」


そうして暫く考えて、気づいた。

瞬間移動とは、当たり前だか行きたい場所を明確に指定して使わなけれはいけない。それなのにレノアは、魔法が使えるということに気分が昂り、ただ外に出たいとだけ強く思い魔法を使った結果、どこか分からないがとにかく外に転移したのだ。

もう1度魔法を使いたいが、魔力が回復したといってもほんの少しだったらしく、もう魔力は残っていない。


「はぁー」


ならば、歩いて誰か人を見つけるか、魔力がまた回復するのを待つしかないだろう。外に出れたのは嬉しいが、これからどうなるか分からない不安に、レノアは大きくため息を吐いてしゃがみこんだ。



◇◇◇◇



「………!……」


突然走った怖気に、目を覚ました。

いつの間にか眠ってしまっていたらしい。心臓がバクバクと脈打っている。レノアは何かに突き動かされるように走り出した。

とにかく、恐ろしかった。何がかは分からない。ただ、何かが恐ろしくてたまらなかった。

だから、ひたすらに走った。

どちらへ行けば正解かも分からないまま、ただ闇雲に走り続けた。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……ごほっ、、はぁっ、、ふうっ、はぁっ……ゴホッゴホッ」


どれくらい走り続けたのか、レノアは遂に立ち止まった。しかしそこはまだ森の中。得体のしれない恐ろしさだって消えない。

けれど、もう走るどころか、歩くことだって出来そうになかった。

2ヶ月も怠惰に過ごしていたレノアは、筋力も体力も、以前よりずっと衰えていたのだ。


「はぁっ、はぁっ、はっ、はぁっ」


レノアはその場にゴロンと寝転んだ。息苦しくて、足が痛くて、たまらなかった。


「レノア」

「!」


自分の名を呼ぶ声が聞こえた。誰の声かなんて、すぐに分かった。けれど、認めたくなかった。だって、怖かったのだ。ずっと聞いてきた声、だけど、ずっと忘れてた声だ。

あの日、目が覚めたレノアに語りかけたレオンの声は、恐ろしかった。確かにレオンの声なのに、明らかにレオンとは違う声。でも、忘れてしまっていた。あんなレオンは信じたくなかったから、無理やり忘れていた。

そんな、あの日以来聞くことのなかったレオンの声が、レノアを呼んだ。


「レノア、迎えに来たよ。ダメじゃないか、逃げたりなんかしたら」

「っ!」


息苦しさからか、恐怖からか、うまく声を出せなかった。

ただ、体は恐怖で震えていた。レオンとの暮らしに慣れ、すっかり忘れていた恐怖が、またレノアの感情を支配した。


レオンの姿を目に映すことなく、レノアはそのまま気を失った。



◇◇◇◇



「---……………」


目が覚めた。何があったんだっけと、ボーッとした頭で考える。


「レノア。おはよう」

「っ!」


レノアの視界いっぱいに、笑顔のレオンが入ってきた。それで全部、思い出した。即座に逃げようとしたけれど--


“ジャラ”


聞き慣れない音に、視線を手首に向けた。そして目を見開いた。


「!……なに、これ………」


手首には、手枷が付けられていた。鎖は、ベッドの柱に繋がれている。違和感のある足首にも視線を向ければ、足枷もつけられていた。


「だって、レノアが逃げ出すから。それ、魔法の使用を妨害するんだ。だから、魔力が回復してももう逃げられないよ。俺、言ったよね。これ以上俺を壊さないでって、何するか分からないって。それなのにレノアは逃げ出した。家の中だけでも自由に出来るようにしないとって、必死で我慢してたのに!レノアは!逃げ出した!ならもう、縛り付けるしかないよね。大丈夫!レノアの世話は俺が全部するから!ねぇ、レノア。俺のレノア。愛しいレノア。どうか俺を受け入れて。レノア以外の人間なんてどうでもいいんだ。レノアが俺を見てくれれば、それだけで嬉しいんだ、幸せなんだ。自分勝手だって分かってる。でも止められないんだ。俺が裏切って、レノアが戻ってきて、それからずっとレノアが遠いんだ。ずっと裏切り者って言葉が頭のどこかにあって。レノアとの繋がりが、薄くなってしまったように感じていて。俺が裏切ったせいで傷ついたレノアの側に、ずっとルイがいたのかと思うと嫉妬で狂いそうで!俺はレノアと遠くなったのに、反対にレノアとルイの距離はグッと近づいたように見えて!もう、もうっ、俺、気持ちがぐちゃぐちゃで。レノアがどうしようもなく愛しくて。遠くなってしまったレノアとの距離を縮めたくて、閉じ込めれば、閉じ込めれば!少しでも、レノアとの距離、縮まるかもって!………レノア、レノア、お願い、俺を選んで、ルイじゃなくて、俺を……」

「…………」


レノアは何も言えなかった。

ただ、どうしようもない恐怖と、以前のレオンはもういないんだという現実を認めざる得ないことに対する悲しみが、胸を満たしていた。


監禁1日目です

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