18話 怒り『軟禁2ヶ月目』
また遅くなりました。本当にごめんなさい
レオンに軟禁されてから約2ヶ月が経った。
ずっと悲しんでいたレノアも、やっと落ち着いてきて冷静に考えることが少しずつ出来るようになってきていた。
レノアが起きたときには、大抵レオンはいない。今日もそうだった。目を覚ましたレノアは、外に出たいと考えることもなく今日も布団に潜り込んだ。
「レオン、ごめんね。私のせいで……私のせいで、変わっちゃって…私の、せい、で…………あれ?そういえば、どうして私のせいなんだっけ。。あっ、そうだ…レオンがルイに焼きもち焼いて………あれ?……私、悪くなくない?」
レノアに、ようやく正常な思考が戻ってきた。
突然信頼していたレオンに閉じ込められ、愛していると言われ、しかもレノアの知っているレオンとは随分様子が違って見えた。いろんな予想外が一気に起こりすぎて、レノアは深く考えることが出来なくなっていた。
だからこそ1つの思考にだけ囚われてしまっていたが、良いのか悪いのか、軟禁生活に慣れてきてしまっていたレノアは、段々と深く考える余裕が戻ってきたのだ。
そうしてやっと、自分が悪くないことに気が付いた。
「んー?私絶対悪くないよね?悪いのレオンだよね?突然人を閉じ込めるなんて……そうだよ!悪いのはレオンだよ!私なんで勘違いしてたんだろ………まぁいっか、それよりレオンだよ!こんなことするなんて、酷い。早く外に出してもらわないと」
軟禁され始めて、初めて怒りという感情が沸き上がってきたレノアは、顔をしかめながらレオンを待った。
◇◇◇◇
「レノア!ただい「レオン!閉じ込めるなんて、よく考えたらレオンが悪いじゃん!私起こってるよ!」
「……思ったより遅かったね」
「へっ、何が!?」
「悲しみが消えるのだよ。もう少し早いと思ってた」
「えっ、何それ!」
「そっかそっか。レノアは悲しんだ後に怒るのか。覚えとこ」
「…………」
自分に怒りをぶつけられている筈なのに、のんびりとしているレオンの様子に少したじろいだ。けれど、この程度で引くわけにはいかない。
「とにかく、私は怒ってるんだよ!レオンのバカ!ここから出してよ!」
「……う〜ん、それは無理かなぁ」
「なんでっ、、っ!なにするの!?」
レオンを自分が出来る限りの怖い顔で睨みつけていたら、突然押し倒された。驚きつつも、睨みつけることはやめない。自分は今本気で怒っているのだ。それをレオンに分かってもらいたい。そして、早くここから出して欲しい。けれど、レオンはニヤリと笑みを浮かべたままだ。
「レノアが出して欲しいなんて言うから、つい……相変わらず、レノアは今の状況を全く理解していないみたいだね」
「はぁ!?理解してるし!レオンが私を閉じ込めたんじゃん!いいから早くここから出してよ!」
「はは、やっぱり理解してない」
そう言って、レオンはグッと顔を近づけた。鼻先が今にも触れてしまいそうだ。レオンが笑みを深める。
「レノアは俺に軟禁されてる。魔法だって使えない。なぁ、毎日食べてる物は誰が持ってきてる?どうしてレノアの体はずっと清潔なんだ?愛してると閉じ込めておきながら、なぜ俺はレノアに何もしない?どうしてレノアは、家中を歩き回れる?分かるかレノア、俺は君をどうとでもできる。これでも精一杯我慢しているんだ。お願いだからこれ以上、俺を壊さないでくれ。じゃないと俺は、何をしてしまうか分からない」
「………」
喉に詰まってしまったように、上手く言葉が出てこない。
レオンの表情は、いつの間にか今にも泣きだしてしまいそうな悲痛なものに変わっていた。言っている事は酷いし身勝手だと思う。今だって心底怒っている。それなのに、その表情に、少しだけ情が顔を出した。レオンとのたくさんの思い出が、怒りを邪魔する。
「…………」
けれど、ダメだ。絆されてはダメだ。ちゃんと言わなければ。ここから出してと。そうしないとずっとこのままだ。レオン以外と関わることがない生活。そんなの絶対に嫌だった。
正直レノアは、レオン以外の人と関われない事以外に、今の生活にそれ程不安はなかった。外に出れなくても、あまり困らないし、何よりダラダラとした生活が癖になってしまいそうだ。けれど、レオン以外の人と関われないのがとにかく嫌だった。だから、何が何でも出してもらう。
「そんなこと言ったって私は諦めない!レオン、早く私をここから出してよ!」
“自分をどうとでも出来る” レオンはそう言った。レオンは自分に何か酷い事をするのかもしれない。けれど、今まで比較的恵まれた生活をしてきたレノアに、“酷い事をされる苦しみ”というのは上手く想像出来なかった。それに、こんなことをされていてもレオンの根は優しいと信じているレノアは、レオンが自分に酷い事をするとも思えなかった。だから、レオンの脅迫のような言葉を気にせず、もう1度説得を始めた。
「ねっ、ねっ、出して!」
「嫌だよ」
「出してーー!」
「無理」
ずっと諦めず叫び続けるレノアにひたすら拒否の意志を示しながら、レオンは寝転んでレノアをギュッと抱きしめる。そしてレノアは抱きしめられていることを気にせず、ひたすら抗議を続けた。何十回目の訴えで、レオンの返答がない事に気が付き見れば、レオンは眠ってしまっていた。
「…………寝ちゃった。しょうがない。また明日説得しよう」
眠っているレオンを起こさないように、そっと布団に潜り込んた。
以前ですら共に眠ることはしなかった今自分を閉じ込めている人間と、躊躇いなく同じベッドで眠ることが出来る。この生活で、レノアの考えは以前とは少しズレてしまってきているようだった。レオンと眠ることが、もはや当たり前になっている。
軟禁という大きな異常によって、このような小さな異常たちは異常と認識されることはなく、やがて通常になっていた。
やっとレオンへの怒りを感じたレノアだが、レノアの性格に合わなすぎる感情だったのかあまり長く続くことはなく、自分を閉じ込めている人間への気遣いや優しさを相も変わらず持ったままその日は眠りについた。
普通の人だったら仲良い友達にある日突然軟禁されたらどうなるんでしょうね?
作者なのにレノアの反応が謎でもうよく分からなくなってきてしまっている……
果たしてこのルートはどんな終わり方をするのか、未だにちゃんと決まってない。もう絶対に行き当たりばったりでやらない