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絡み合う愛情と憎しみ 少女は誰の手を掴むのか  作者: 如月麗羅
第2章 反乱軍,レオンルート
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15話 始まり『軟禁1日目』

目が覚めた。

見たことのない天井。いつもと違う感触のベッド。

上半身を起こして周囲を見渡せば、やはり見知らぬ部屋。

窓から見た空には、星が瞬いている。


「?」


覚醒しきっていない頭で、必死に今の状況について考える。

(昨日は、夜中にレオンが部屋に来て、それで、、えっと……)

けれど、レオンが部屋に来た後のことを思い出せない。


「う~ん」


見知らぬ部屋にいるというのに、まったく恐怖を感じずに呑気なレノア。恐怖も負の感情に分類されるため、その感情は生まれにくいのだ。恐怖を感じにくいため、危機回避能力も異常な程低いレノアは、いつも誰かに守られていた。

最近、負の感情が以前よりも生まれやすくなってはいたが、それでも通常の人より生まれにくいのは変わらなかった。


“ガチャ” 


「!」


1人考えていたところに突然響いた音に、大きく肩を揺らした。ドアが誰かの手によって開けられたのだ。

バクバクと鳴る心臓の音を聞きながら、ドアの方へ視線を向ける。視界に人影が入った瞬間、レノアの瞳が輝いた。


「レオン!」


部屋に入ってきたのは、レオンだったのだ。

レオンのもとに行くため、ベッドから降り、床に足を着けた。けれど、“ガクン”と崩れ落ちてしまった。


「………ぇ」


足に、うまく力が入らなかった。


「…レノア」


レオンが、優しくレノアの名を呼んだ。優しいはず、優しいはずなのに、どこかぞっとするような声だった。その時やっと、レノアは言葉に出来ないような恐怖を、小さいながらも感じた。


「レ、オン……?」


恐る恐る視線を上へと向ける。

目が、あった。


「っ!……ふっ、、ぅ……ぁ、な、んでぇ……?………」


目があった瞬間、体の奥で何かが壊れ、恐怖が洪水のように溢れだした。そしてそれが、瞬時に体中を駆け巡り自分を支配した。その恐怖が、目から液体となって溢れだす。

けれど、その恐怖は本能からくるもの。本能が大きな危機に対して、自分を守るために出した危険信号。だから、脳はそれを理解できなかった。止めどなく溢れだすそれを、恐怖だと認識出来ても、なぜ恐怖を感じているのか分からなかった。

だから、沸き上がる恐怖に、止まらない涙に、ただ戸惑うことしかできない。


なんで? なんで?

だって、レオンじゃないか。目の前にいる男は、どう考えたってレオンだ。幼い頃から信頼してきた、大切な友人。なのになぜ自分は、これ以上ない程の恐怖を感じているのか。後から後から、涙が溢れてくるのが。全身が震えているのか。

分からない。分からない。

ただ、理由の分からない最大の恐怖と、それを感じてしまっている申し訳なさ、悲しみ、微かな苛立ち。様々な負の感情が胸中を満たす。その初めての経験にもまた、戸惑いが生まれる。心はぐちゃぐちゃだった。

そんな中、体は勝手にレオンから遠ざかるように後ずさっている。


「レノア、なんで逃げるんだ?俺だ。レオンだ。どうして逃げる?どうして怖がる?」


レオンが早口で捲し立てるように言う。

その目には、ほんの僅かな恐怖と、それを覆い尽くす程、深く濃く、どろりと甘い、どこまでも暗い、だからこそどこか純粋な、愛情に近しい感情がやどっている。


「っ……わっかんない。分かんない、けど。なんか、レオン、怖い、よぉ」


なにも分からなくて、ただ、気持ちをそのまま吐き出した。

レオンを見ていたくなくて、うつむいて、目をきつく瞑って言った。


「そっか、ははっ、俺が怖いか。それは嬉しいな」

「……え?」


怖いと言っているのに心底嬉しそうに笑うレオンを、理解できなかった。この人は、いったい何を言っているんだろうか。おもわず目を開き、上を向いてぽかんとレオンを見つめる。


「俺が、レノアの感じにくい感情を引き出せているなんて、それ程俺を強く意識してくれているなんて、どんな感情だったとしても嬉しいよ。でも俺は、恐怖より愛情がほしいなぁ」

「ひっ……ゃ、やだっ」


一瞬消えていた恐怖がまた姿を現した。

目の前の男が、レオンだとは思えなかった。

だってレオンは、優しくて、穏やかで、いつも頼りになって……決してこんな人ではなかった。だから、これはレオンではなくて、レオンの姿をした別人で……

必死に自分に言い聞かせながら、逃げ出そうとした。

けれど――

「っ!…なんで………」

――足には全く力が入らなかった。

そういえば、今座りこんでいるのも足に力が入らなかったのが原因だった。

なぜ足に力がはいらない?考えたってそんなこと分からない。

ただ今は、逃げなければ。この男から逃げなければ。

本能からの警告ではなく、レノアの意思として、そう強く思った。けれどそう思ったところで逃げることはできない。


「レノアー?どこに行くつもりだ?」

「ひっ、、ルっ、ルイ!ルイっ………ぅあっ」


ただただ恐ろしくて、でも体は思うように動かなくて、誰かに助けを求めるしか、レノアに出来ることはなかった。とっさに、ルイの名を呼ぶ。

助けて、助けて!

心の中で、そればかりを叫ぶ。けれどそれは、逆効果でしかなかった。腕を掴まれ、ベッドの上へ引っ張りあげられる。


ベッドの上で、レノアを押し倒したような体制でレオンは、勢いよく話し出した。大きく見開かれた瞳には相変わらず愛情のようなものがやどっていて、けれど、今にも泣き出してしまいそうな、悲痛な表情をしていた。


「うるさいっ、うるさいっ!ルイ、ルイ、ルイ、ルイ、ルイルイルイルイばっかり!今ここにいるのは俺だ!レオンだ!………これからずーっと、2人だけでいるんだ。レノアはもう俺以外と会うことは出来ない。1番がルイだなんて許さない。ルイのことなんか忘れろ。全部全部、俺以外の全部忘れろ。俺のことだけ見てろ。俺の事だけ考えてろ。俺がレノアの1番になる。俺がレノアの唯一になるんだ。レノアはもうこの家から出られない。レノアは俺のものだ。だから出ちゃ行けないんだ。ずっとずっと俺と2人で生きて、死ぬその時まで2人きり。ずっとずっと一緒にいるんだ。俺以外とは一緒にいちゃいけない。一緒にいるなんて、絶対に許さない。ずっと俺だけと暮らしていくレノアは、外に行く必要なんてない。レノアは俺だけがいればいいんだ。だから、ルイなんていらない。もういらない。レノアが考えていいのは俺のことだけだ。ルイのことなんか考えちゃいけない。絶対っ絶対だ!ルイはもういらない。ルイはいらないルイはいらないルイはいらない!レノアの1番は俺だ。レノアの唯一は俺だ。ルイを選ぶなんてありえない。ルイが1番なんてそんなの嘘だ。俺がレノアの1番になるんだ」

「レっ、レオンっ!!」


レオンの言葉を止めるため、大声でその名を呼んだ。恐怖や悲しみ、後悔で、涙混じりの声になってしまった。

目の前にいるのがレオンだなんて信じられない、意味が分からない。この状況だってまだ理解できていない、したくない。

けれど、目の前にいるのはレオン本人であり、自分はレオンにこの部屋に閉じ込められた。それがきっと正しい答え。それがきっと正しい現実。

けれど認めたくなくて、見たくなくて、聞きたくなくて、無理やりレオンの言葉を止めた。その瞳から目をそらした。


起きた時からずっと、意味が分からない。

レオンは何を言っているのか。

“俺のもの” “出ちゃいけない” “ルイはいらない”

その口から吐き出される全てが理解できるものではなかった。夢だと思いたい。起きたらまたルイとレオンと3人で笑い合いたい。

けれど、握られた腕はずっと鈍い痛みをうったえていて、レオンと触れている部分は、そこだけは以前と変わらない優しい温もりを感じている。これは決して夢なんかではなく、現実で、だからこそレオンをもとに戻さなければいけない。恐ろしくても、レオンと話し、向き合わなければいけない。


「……レオン。レオンは、さっきから何を言ってるの?おかしいよっ。いつものレオンに戻って。突然、どうしちゃったのっ?今のレオンは、少し、怖いよ。優しいレオンに戻ってよっ」

「……って」

「え?」

「俺だって、戻ろうとしたよ!こんなのおかしいと思って、ずっとずっとずっとこの気持ちを抑えてきた。レノアが大事だから、いつも優しく接してきた。そうすれば笑うレノアが大切で、このままでも良いって。レノアが同じ気持ちを返してくれることなんてないんだから、せめて大切な友人でいようって。そう思ってたけど、レノアが我慢しなくていいって言うから。だから、もう少し、もう少し近づきたいって、そう思って……でもレノア、すっごいルイと仲が良くて、、ま、るで………恋人……みたいに仲が良くて!何があったってルイが1番だし、それがいっつもいっつも嫌で。もう少しなんて思わなければって後悔して、でも遅くて。俺はもう1度我慢なんて出来なかった!もう1度気づかないふりなんて出来なかった!レノアの1番になりたいって、レノアの唯一になりたいって。ずっとずっとずっと、思ってて。でもそんなのありえないことだった。レノアの1番はルイだった。当たり前、だよな。だって俺は、裏切り者だもんな!レノアを深く深く傷付けた!そんな俺が、レノアの1番を望むなんて、いけないことだって。ルイに嫉妬する資格もないって、ずっと言い聞かせてきた。もしかしてを無くすために、俺はレノアの特別じゃない、1番じゃないって言い聞かせてきた。ネックレスを着けていないレノアを見るたびに、ルイのリボンを着けてるレノアを見るたびに、苦しかったし、辛かった。すごい悲しかった。でも、安心もした。1番じゃない証拠たから。ルイへの嫉妬はどんどんたまっていくし、レノアが愛しいはずなのに時々憎いと思う。レノアを独り占めしたいって何度も思う。そんな感情がたまってたまって、減ることなんてなくて、増えていくばかり。でも、その証拠は、俺のそんな気持ちを抑えてもくれた。俺の冷静な部分が、1番じゃないんだから欲張るなって気持ちにふたをしてくれてた。醜い気持ちが増える変わりに、それを確実に抑えていたのに、それなのに、レノア、ネックレス着けてたから。抑えられなくなって、増え続けてたのが全部全部、溢れてきちゃった。だから、もう、我慢できない。レノア、レノア。俺、レノアのことが好きなんだ。愛してるんだ。子供のころからずっとずっと。我慢しようとしたんだ。頭では分かってた。レノアは裏切り者なんかよりずっと味方だったルイを選ぶって。でも心は、とっくに壊れてた。それを冷静な部分がなんとか抑えてたのに、レノアはそれさえも壊した。昨日、誰とでも仲の良いレノアを見て思ったんだ。愛しいレノアが、俺以外のことを考えているのが許せないって。俺以外の人間を視界に入れてるのも、俺以外の人間の声を聞いてるのも、全部全部許せないって。ルイ1人なら、ルイ1人ならって、必死に我慢してきた。ルイも、俺の友人だから、ルイ1人なら我慢できるって。子供の時からしてるように、我慢すれば良いだけだって………はは、俺って、バカだよな。レノアがルイ1人なんて、ありえるわけないのに。レノアは、平等なんだから。なのに何故か、俺は昨日まで気付いてなかった。どうせルイ1人のものにならないなら、俺1人のものにしても良いかなって。だってレノア、ネックレス着けてくれてたもんな!1番じゃなくても、俺のこともちゃんと大切だろう?ならルイにも、他の奴にも渡さない。レノアがいけないんだよ?ネックレス着けるから、俺、我慢出来なくなったんだ。大丈夫!レノアに不自由な思いはさせないよ!………ごめんな、レノア。俺のこと、怖がって、憎んで、悲しんで、、そうやって、たくさんたくさん俺のこと考えて、最後には、俺のことしか考えられなくなってよ。俺をレノアの唯一にして。俺をレノアの、唯一愛してる人にして………レノアだけを、愛してるよ」


理解できないことばかりを言うレオン。その中で、1つの言葉だけがぐるぐると頭の中を回っていた。


『俺、レノアのことが好きなんだ。愛してるんだ。子供のころからずっと』


“レオンが自分を好き”


理解出来るようで、理解出来なかった

生まれた時から、壊れていたレノアには、理解できない感覚だった


遅くなってすいません

あと、クリスマスにヤンデレの短編を投稿したので、よかったら読んでみてください

サンタが堕とされる話です

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