13話 誘い
《今回出てくるこの世界の知識》
白魔法 治癒・防御系の魔法
黒魔法 攻撃系の魔法
白魔法、黒魔法共にレベル1~10まであり、白魔法のレベルと黒魔法のレベルをたして10になる分の力を人間はもっています
(例)白魔法レベル5の時、黒魔法レベル5(通称 5)
白魔法レベル6の時、黒魔法レベル4(通称 白6)
白魔法レベル4の時、黒魔法レベル6(通称 黒6)
白魔法レベル7の時、黒魔法レベル3(通称 白7)
白魔法レベル3の時、黒魔法レベル7(通称 黒7)
大抵の人間は、5か、白6か、黒6
白7や黒7は珍しいが、その数字は普通にあり得る
白8以上や黒8以上は人間ではあり得ない数字(異端・化け物)
※↑以外にもこの世界の詳しい設定を21時頃に1ページ目に一応載せます。
でも、これからも↑のように前書きで本文に新しく出てくる知識は説明する予定ですし、この小説は作者がヤンデレを書くために投稿しているので、知らなくても読んでいくうえでそれほど問題は無いです。
なので、読まなくても大丈夫です。
風邪をひいてから数週間、レノアの毎日はすっかり日常に戻っていた。
昼食後、レノアは今日も元気に仕事場所に向かう。仕事場所とは城の地下。仕事仲間はいない。いてもたいして意味がないから。
レノアの仕事は地下にある巨大な機械に魔力を注ぐこと。そうすることによって、国に魔力のドームが展開される。すると、そのドーム内にいる人間は自然治癒力が向上する。また、国や国民に敵意をもった人間が、ドーム内に入ることが出来なくなる。
国にとって重要なそのドームには、普通、10~20人で、約12時間かけて魔力が注がれている。しかし、レノアは1人で同じ作業ができた。
それは、レノアの白魔法のレベルが8以上と高いからだ。
白魔法のレベルが高ければ高い程、つまり、黒魔法のレベルが低ければ低い程、同じだけ魔力を注いでも、変換されエネルギーとなる割合はずっと大きい。
白魔法8以上は、人間ではあり得なかった。それを受け入れ、それを最大に活かせる仕事を与えてくれたレオンたちに、レノアは深く感謝している。
レノアがこの仕事を始めるまでは、1日に12時間かけて1日(24時間)分の魔力を注いでおり、30人程が毎日交代して行っていた。
レノアは、1日に12時間かけて36時間分の魔力を注いでおり、1週間(7日)に2日、休みを得ている。
先日のようにレノアが風邪をひいたりなどして仕事が出来ない日は、以前やっていた人たちなどが代理で仕事をする事になっている。
慣れてきた作業を、レノアは今日も1人で行う。本を読みながら。
魔力を注ぐのは魔法を使うのと少しやり方が違い、最初はそれとの区別が難しいが、慣れれば何かの片手間で出来てしまうのだ。
◇◇◇◇
昼食前に2時間ほど魔力を注いでいたレノアは、22時頃に仕事を終わらせた。上への階段を上るレノアの横には、ルイがいる。時々、仕事を終わらせたルイがレノアのもとへ食べ物を持ってきてくれるのだ。そしてそのまま、他愛ない話をレノアの仕事が終わるまで続ける。
「ね、ルイ。見て見て。ルイからもらったリボン着けてるの。どう?」
「……うん。すごく似合ってる」
レノアのリボンの着いた頭をじっと見つめた後、ルイは控えめに笑いながら、優しくレノアを褒めた。
あの日以来、それなりの頻度でリボンを着けていたレノアだが、レノアが着けている日と、ルイと会える日がなかなか合わず、今日が初めて見せた日だった。
「ふふっ、褒めても私に出来ることなんて何もないよ。えへへっ」
ルイの珍しい笑顔を見て、レノアの気分は分かりやすく上がった。
そんなレノアを、ルイは今日も我が子を見つめる母のように、慈愛に満ちた目で見つめていた。
そんな2人の耳に、2人以外の足音が聞こえた。
「あれ、レオン?どうしたの?」
それは、階段を降りてきたレオンの足音だった。
「あぁ、ちょっと、話したいことがあって」
上へのぼっていた2人に降りてきたレオンも加わり、3人で横に並びながらのぼっていく。3人は、右からレオン、レノア、ルイの順に並んでいた。
「それで、話ってなに?」
「あぁ、その……」
ちらりとルイに視線を向けてから、レオンは続けた。
「街に、新しいレストランができたんだ。美味しいって評判らしくて。確か、レノアって明日休みだったよな?良かったら一緒に行かないか?」
何故か覚悟を決めたような表情で、レオンがそう言った。
「美味しいお店!?行きたい!でも、レオンは大丈夫なの?」
「あぁ、仕事は明日の分も終わらせた。ちゃんと店も予約してある」
「明日の分も終わらせたって……大丈夫?疲れてない?」
さらっと言われたレオンの言葉に、今にも倒れてしまわないかと心配しながら聞く。
「あぁ、全然大丈夫だ。心配してくれてありがとう」
「そっか!なら一緒に行こう!何時くらいに出っらああぁ!?」
「「レノア!?」」
突然、レノアの言葉が悲鳴に変わる。テンションがあがっていたレノアは、階段から足を踏み外してしまったのだ。
「えっちょっ!ルっ、ルイ、たすけっ!」
あまりに突然のことに激しく動揺していたレノアは、魔法を使うという考えが浮かばす、とっさにルイに向かって右手を伸ばした。
ルイはルイで動揺していて、魔法を使って助ければ1番安全であるだろう所を、反射的にレノアの手をつかんでいた。そのまま、思い切り引っ張りあげる。その勢いでバランスを崩し、2人は倒れこんでしまった。
「わぁ!」「っ!」
来るだろう衝撃に備え、目を瞑っていたレノアだが、しばらくしてもなんの衝撃もこない。恐る恐る目を開けば、自分は階段に寝転ぶという、言葉にすると不思議な格好をしたルイの上にのってしまっていた。
「わあぁ!ごごごめん!ルイ!」
レノアは慌ててルイの上から退いた。ルイは、顔を微かに歪めながら、後頭部を押さえている。
「ル、ルイ、頭ぶつけたの?本当にごめん!」
レノアはそう言いながら、急いでルイに治癒魔法をかけた。
「2人共、大丈夫か?」
頭上から、レオンの心配そうな声が聞こえた。動揺していたレノアは、その声に微かな苛立ちが混じっていることに気がつかなかった。
「う、うん。私は大丈夫。ルイも、治癒魔法かけたから大丈夫だと思うけど……ルイ、、大丈夫?」
「………うん、大丈夫…」
「そっか、良かったぁ。ごめんね。助けてくれてありがとう。やっぱ、階段ではしゃいだら危ないね」
レノアは苦笑いを浮かべながらそう言った。
「あぁ、そうだな」
レオンが答え、ルイもコクリと頷いた。
それから3人は、適度にはしゃぎながら階段を上っていった。
しかし、それでもやはりテンションの高いレノアが、レオンとルイ、2人の心情に気づくことはなかった。
□□□□
再び、とある部屋で2人の美しい男が話をしていた。
「リラン、そろそろ私は愛しい愛しい弟の背中を押してみようかと思うんだ」
「ふっ、愛しいなんて、思ってもないこと言いやがって。でもまぁ、背中を押すのは良いんじゃねぇか?そうすれば、必然的に邪魔者がいなくなるからな」
アランの言葉にリランがニヤリと笑いながら答えた。
「邪魔者などと。短時間で、すっかりと2人への興味を失ってしまったな。まぁ良いが。それよりも、お前は良いな、リラン。愛せるものがあるなんて」
アランはクスクスと愉しそうに笑いながら言った。
「お前の方が毎日愉しそうじゃねぇか。まぁ、感謝はしてるぞ。お前があいつらを見つけたお陰で、俺もあいつを知れたんだからな」
「まさかお前がそうなるとはな。常々、お前とは話が合わないと思っていたが、今のお前は面白い」
リランの変化の様子を思い出したのか、アランはよりその美しい笑みを深くした。
「それはどーも。俺も自分の変化に驚いたよ。まさか人間に興味をもてる日が来るとはな。。アラン、さっさと背中を押して、邪魔者を消してくれ」
「勿論だ。背中を押して、闇の中に堕として、バラバラに壊してしまおう。ははっ、やはり人間は愉しい。面白い。だからこそ、観察は止められない」
「愉しそうで何よりだ。俺はもう、あいつ以外に興味はないが。とにかく、よろしくな。アラン」
「あぁ、勿論だ。リラン」
2人の会話も、レオンの心情も、哀れな少女は何も知らない。
ただただ能天気に、あると確定されていない、平和で、楽しく、賑やかな明日を、未来を、漠然と思い描く。
それがあると信じて疑うことのない愚かな笑みは、しかし、だからこそ恐ろしい程美しく、輝かしく、清らかで、周囲の人間を魅了し続けるのだ。
アランとリランは、“9話 涙”の後半で登場しています