11話 きっと
遅くなってしまって本当にすいません
3月までこんな調子だと思います
すいません
いつも読んで頂きありがとうございます
ほんと励みになってます
「私の、1番大切な人はーーールイ、かな?」
そんな言葉が、口から出た。
ルイは、ルイだけは、レノアの苦しみを“共有”出来るのだ。同じものを知らなければ、共有は出来ない。想像も、励ましも出来る。けれど、共有出来るのは、知っている者だけ。
共有出来る者がいるだけで、レノアの心は随分と救われる。そしてそれが出来るのはルイだけだ。
だからか、無意識に随分と頼って、大切に思っていたのかもしれない。
レオンも、大切だけれど、何故か昨日の光景が脳裏を過り、その名前を口にさせることを妨げた。
「っそ……そう、か」
「……」
「………」
お互いに何を言えば良いのかわからないまま、静寂がその場を支配する。
「……そっ、そろそろ、俺、出てくから。仕事も、あるし」
「あっ、まっ……」
“出てく”という言葉に反応して、思わずレオンに向かって手を伸ばす。
けれど、サッと避けられた。
「もうすぐ、ルイが帰ってくるだろうから…………俺なんて、いらないだろう」
「っ」
拒絶、された。
そう感じて、伸ばした手でレオンを掴むことも、伸ばした手を降ろすこともできず、ただ、部屋を出ていくレオンの背中を見送った。
涙が、溢れてきた。
1番大切、そんな感情を向けてくれた相手に、自分は、同じものを返せなかった。
感情に、同じ感情を返す義務はない。けれど、同じ感情を返せないのに、相手にはもっとずっととねだるのは、高慢だ。引き留めるのもきっとおなじで。高慢で、自分勝手。そんなの、汚ならしい。
もし、“レオン”だと。1番大切な人はルイではなくレオンなんだと。そう答えていれば、レオンは今もこの部屋で、レノアの手を握ってくれていたのだろうか。
けれど、問いかけてきたレオンの目に、正直に答えてほしいと、余計な気遣いなどいらないと、そんな感情を感じた。
だから、正直に、嘘偽りなく答えようとして………けれど、今はその答えが、本当に自分の本心だったのかも、わからない。
ただ、流れる涙は、風邪による心細さだけではない。それだけは確かだった。
ガチャ
しばらくして、ルイが戻ってきた。
「レノア、遅くなってごめんね。人に会うたびに、レノアの体調聞かれちゃって。でも、レオンが行くって言ってたから大丈夫だったかな」
ルイが、そう言いながら、大量の果物を抱えてレノアのもとへ歩いてくる。
「…レノア、泣いてたの?……寂しかった?それとも何かあった?」
「るい……るいぃ」
優しく聞いてくるルイに、止まっていた涙が再度流れ出した。
感情がぐちゃぐちゃで、頭もぐちゃぐちゃで、悲しくて、汚くて、安心して、思い切りルイに抱きつき、泣き続けた。
その間、何も聞かずにただ背中をさすってくれるルイの優しさや、温もりに、いつの間にか眠ってしまっていた。
◇◇◇◇
目が覚めた。
夢を見ることもない、深い眠りだった。
「……レノア、起きたんだね」
ぼんやりと天井を見つめていれば、横から聞き慣れた声が聞こえた。
「………ルイ……」
「……っと、水飲む?それとも何か食べる?梨ならあるけど…」
ルイが心配そうな声でそう問いかけてきた。
「ん……なし……」
ぼんやりと上の空で、何も考えず音を発した。
自分はどうしていたのだろうか。
酷く、汚ない自分だった気がする。
傲慢で、自惚れて、自分勝手な……
ルイの隣は、安心するのだ。理屈じゃない。言葉で表せない。けれど、その場所は確かに1番安心を感じられる場所。
大丈夫。独りじゃない。怖くない。おかしくない。なんの根拠もなくそう思える。
その場所は1番心安らぐ場所。それを与えてくれるルイは、きっと1番大切な人で。1番信頼している人。
あの時唯一、レノアを信じてくれた。守ってくれた。見てくれた。だから、この先もきっとそうで、変わることなんてなくて、それはとても幸せなことなのに。なのに……
自分は、それ以上を望むのか。まだ欲しいと、もっと欲しいと。そんな、望む自分は果たして何を返せるのだろう。貪欲な自分は、何を対価とするのだろう。
友人に、仲間に、“対価”という言葉は相応しくないだろうか。
けれど、人はきっと与えてるだけじゃ耐えられない生き物で。
与えた分だけ、自分にも何かが欲しくて。返されるものがずっと小さいものだとしたら、いつか耐えられず、与えることをやめ、離れていく。これ以上傷つかないため、自分を守るため、離れていく。
安心には、安心を。信頼には、信頼を。そして、“1番”には、“1番”を。
望むなら、返さなければ。返さずに、望み続けても、レオンは与えてくれるくれるかもしれない。けれど、返さずに、望み続ければ、きっといつかレオンは、離れていく。
「……ア、レ…ア、……レノア、レノアッ」
「………ん……あ、、ルイ……」
「どうしたの?ぼんやりして。。まだ、辛い?寝てる?」
ルイが真っ直ぐにレノアを見つめてくる。
ほら、これだけでいいじゃないか。
この場所だけで、いいじゃないか。
1番大切なのは、ルイなんでしょう?そうレオンに、答えたんでしょう?なら、ルイだけでいいじゃないか。
他を望むな。望み過ぎたら、なくなってしまう。今あるものすら失ってしまう。それなら、この関係が1番いい。
ルイはレノアの1番大切な人で。
レオンはきっと、特に大切な人の1人。1番ではない。
レオンは、レノアが1番大切な人だと、そう伝えてくれたけど、誕生日だから、大げさに言ったんだ。本当はレオンにとってレノアは、特に大切な人の1人。
だってレオンには大切な、愛する人がいるのだから。きっとその人がレオンの1番。
レノアにとって、レオンは何かの中の1人で。
レオンにとって、レノアは何かの中の1人で。
ほら、対等だ。思いの量は同じで。
レオンがレノアに与える思いと、レノアがレオンに与える思い。
その量は同じで、これからもレオンとはこの関係。
これ以上、離れることも、近づくこともない。
ねぇ、そうでしょ?きっとそうでしょ?
だって、そうじゃないと、どうすればいいか分からない。
何を選び、何を捨てるか。そんな選択、したことない。
あの時、ルイが1番だと言ったとき、一瞬見えた。辛くて、苦しくて、悲しくて、今にも消えてしまいそうな、レオンの顔。
あれはきっと、自分の罪悪感が見せた幻だ。そうに決まってる。
こんな暗い気持ちも、風邪が治れば全部なくなる。
明日から、レオンとは普通に接する。今まで通り、今までの距離感で。特に大切な人の1人として。
「ルイ…ルイ……」
「レノア…?」
「いい、でしょ?……これで……」
これでいいでしょ?これであってるでしょ?なんか今、自信が持てない。
「レノア………レノアが良いと思ったらそうしてみれば良い。考えるのが辛いならいつでも投げ出せば良い。辛ければ、僕と共有しよう。ずっとそうしてきたでしょ?」
「……ぅん、うん………ルイ、ありがと」
ルイが言うなら、大丈夫。これであってる。また、辛くなったら、苦しくなったら、今度はルイと共有しよう。少し恥ずかしいけど大丈夫。だってルイはきっと、1番大切な人なんだから。