10話 1番大切な人
「………はぁっ、はぁっ、、はっ、はぁ」
翌日
レノアは酷い息苦しさで目が覚めた。
体にうまく力が入らず、起き上がることすら億劫だった。
全身にびっしょりと汗をかいていて、ズキズキと頭は痛みを発している。
自分は、風邪をひいてしまったのかもしれない。昨日、長時間雨に打たれていたんだからそれも当たり前だ。
ぼんやりとする頭でそう考えた。
ふと、いつもより窓から入ってくる光が少ないことに気付き、ゆっくりと時計に視線を移せば、針はまだ4時少し前をさしていた。随分と早く起きてしまったようだ。
いつも、レノアが起きて来なければ10時頃にはルイが起こしにくる。
それまで人は来ない。体を起こすことも辛いのに、部屋の外に出るなんてできるのだろうか。出来なければ、レノアはルイが来るまでこのままだ。それはきっと耐えられない。
「………うっ、ふっ……誰か」
レノアの中に、恐怖、不安、孤独感が広がる。
誰か、誰か……誰でもいいから今すぐ側にきて欲しい。
孤独感に耐えきれず、ゆっくりと、重い体を引きずりながらなんとかベットから降りた。
「…っ!」
というよりも、落ちた。
「うぅ……」
目に涙をためながら、四つん這いでドアまで進む。
短いはずのその道が、異様に長く感じた。
ドアにもたれながら、手を伸ばしてノブを掴み下に引っ張る。“ガタンッ”という音をたてて、外開きのドアがレノアの体重に押されて開いた。ノブから手を放せば、レノアの体を支えるものはなくなり、そのまま何の抵抗もせず重力に身を任せて床に倒れた。
「…うぅ、、ふっ、うっ……っ…」
そして、その場に倒れたまま、ついに本格的に泣き始めてしまった。
レノアは、風邪をひくとどこからか恐怖、不安、孤独感が沸き上がってくる。
自分の体か弱っている。普段とは違う体。いつもよりも自分の存在が不安定に感じて、誰かに側にいてもらわないと自分が消えてしまいそうで。怖くて、寂しい。そんな風に思う。
誰か、今すぐ側にきて、抱き締めて。誰でも良い。そう、誰でも良いはず。けれど、こんな時頭に浮かぶのは、ルイの顔で。いつも、辛いとき、寂しいとき。ただ横にいて、抱き締めてくれた。ただそれだけが、嬉しくて。それだけで、心から安心できて。
「………ルイ…」
助けて。今すぐ来て。昔みたいに、抱き締めて。繋ぎ止めて。大丈夫だって、笑って言って。安心させて。
「……レノア?」
最後に聞こえたのは、求めていた声で。
安心して、その瞬間、気が抜けて。
“フッ”と、意識が途切れた。
□□□□
薄暗い部屋の中で、ルイは早朝の数人ほどの人しか活動していない静かな街を、窓から眺めていた。
ルイは、早朝の静かな街を1人のんびりと眺めているの時が、レノアと一緒にいる時の次に好きだった。だから、毎日3時頃には目を覚まし、窓からの景色を眺めている。同じように見えて少しずつ違う景色は、ルイを飽きさせない。
ルイは、寝ようと思えばいくらでも眠ることが出来る。そして、その反対にいつまでも眠らないでいても、身体になんの害もない。だから毎日、夜遅くまで活動し、することがなくなり話し相手も全員眠っていれば、暇潰しとして眠りにつく。そして、早朝に目を覚ますのだ。
この日も、そうだった。
3時頃に目を覚まし、ゆったりと準備をして、いつものように景色を眺めていた。
そんな時、“ガタンッ”と、どこからか物音がした。
そして聞こえる、小さな小さな泣き声。
その声は、誰の声か聞き取るにはあまりにも小さくて、けれど、気のせいだと聞き流すには、あまりにも悲痛な声だった。
ドアを開け、耳を澄ましながら、声のする方へと進む。角を曲がると、少し先に床に横たわっている人の姿が見えた。1番見馴れた色が、床に広がっている。
「レノア?」
呟きながら急いで駆け寄れば、全身に汗をかき、赤い顔をしたレノアがそこで意識を失っていた。
「!」
すぐに状況を理解したルイは、レノアをベットに寝かせ、急いで医者を呼んだ。
□□□□
次にレノアが目を覚ました時、薄暗い自分の部屋の中、ベットの上にいた。
空は赤く、起きてから随分時間が経っていることがわかる。
ボーッとしていると、ガチャっと音をたててドアが開いた。
「……ルイ」
「…っ!レノア、起きたんだね!……良かった…」
ルイが珍しく笑顔を浮かべながら、レノアに駆け寄ってくる。
「まだ熱があるね。でも、さっきよりはさがってる……何か食べたいものある?」
額に手をあてながらルイがそう言った。
「ん、きもちぃ…………んー、なんか、、果物食べたい」
「分かった、持ってくるね」
そう言ってレノアから離れようとするルイ。
それを見て、思わずレノアはルイの服の裾を弱々しく掴んでいた。
「…レノア?どうしたの?」
「……行かないでっ。寂しい」
確かに、お腹はすいている。けれど、1人になるのは嫌だった。空腹より良いも心細さが勝った。
「…でも……レノア、今日何も食べてないし……」
ルイが困ったように言う。
「…ゃだ……さみしぃ」
「う…でも……すぐ、戻ってくるから、ね?」
「……………………わかった。でも、すぐ戻って来て」
「うん。もちろん」
そう言って、ルイは出ていった。
とたんに、心細さが襲ってくる。
やはり、行かせなければ良かった。追いかけようかと、なんとか起き上がろうとするが、力尽きてペタンとベットに倒れこんでしまった。
「…………」
ムクムクと、恐怖が沸き上がってきて、布団を頭まで被り自分の体を抱き締める。
そうしていると、ドアが開いた音がした。
「ルイっ?」
戻ってきたのかと期待して布団から顔をだせば、見えたのはレオンの姿だった。
「……ルイから、目を覚ましたと聞いて………体調はどうだ?」
「ぁ……うん。それなりに」
「そうか……」
レオンが、ベットの横においてある椅子に座った。
レオンの姿を見て昨日のことを思いだし、なんとなく気まずい気分になる。
「水でも、飲むか?」
「…うん」
レオンに手伝ってもらい、ゆっくりと起き上がる。
少しずつ喉に水を流し込んでいると、レオンが顔を俯かせながらぽつりと呟いた。
「やっぱ、ルイと仲良いよな」
「え?……だって、ずっと一緒にいるし」
「そうだよな………1番長く、一緒にいるよな」
「?うん、そうだね」
レオンが何を言いたいのかわからず、俯いているレオンの頭をじっ、と見つめる。
ギリギリと、どこからか小さく音が聞こえる。
ポタリと、何かが垂れた音がした。
「なぁ、レノアにはさ………1番、大切な人とか、いるのか?」
顔を上げたレオンが、どこか歪な笑みを浮かべながら聞いてきた。
「1番、大切な、人?」
「……そう。1番大切な人」
「1番大切な人……」
そう言われて頭に浮かんだのは、レオンとルイ、2人の顔だった。
どちらの方が大切なのか
それとも、どちらも同じくらい大切なのか
一生懸命考えるけれど、熱でぼんやりした頭では考えを纏めることができない。
けれど、なんとなく、この問いには誤魔化さずに答えなければいけないような、そんな気がして。
考えるよりも、直感に従い心のままに答えた方が、自分でも曖昧な問いの答えが分かるかもしれないと思い、口を開いた。
「私の、1番大切な人はーー」
そして、直感に従い、その答えを口にした。
ここでルート分岐です
ここで、2つの選択肢が生まれます
次話からは、雑に言うと‘ヤンヤンデレ’エンドに向かって一直線に進んで行きます
もう1つの選択肢は、また途中で選択肢が生まれて、‘ヤンデレ’エンドと‘ヤンデレデレ’エンドに進んでいく予定です
受験生なので更新すごく遅いですが、これからもどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m