プロローグ
ボッ
暗闇の中に浮かび上がる、1つの小さな炎
その炎に、少女がそっと、1枚の写真を近づける
その写真に写るのは、笑顔の少女と、少女の“元”仲間たち
ブワッ ジジジジッ フワッ
すぐに写真に火が燃え移る
それが徐々に徐々に、写真を赤く染めていく
やがて灰になったそれは、かすかな風にのって消えていく
少女はそれをただ、じっ、と見つめている
また1枚、炎に近づける
ブワッ
《全部 全部 燃やしましょう》
少女の声と、写真の燃える音が、静寂の中に響きわたる
《楽しい記憶 嬉しい記憶 優しい記憶 笑顔の記憶》
ブワッ ジジジジッ
《良い記憶は 全部燃やしてしまいましょう》
ジジジジッ
《悲しい記憶 つらい記憶 苦しい記憶 涙の記憶》
ジジジッ ブワッ
《嫌な記憶も 全部燃やしてしまいましょう》
ジジッ ブワッ
《憎い記憶 悔しい記憶 許せない記憶 怒りの記憶》
1枚の写真を手に取る
《今日の記憶は 燃やさず大事に残しましょう》
その写真だけは、燃やさずに丁寧に保管する
それに写るのは、泣いて否定する少女と、少女を鋭く睨む“彼ら”
そんな彼らが守るように囲んでいる、泣いて怯える“演技”をする少女
それは、少女の憎しみであり、悲しみであり、怒りであり、そして、今の少女の生きる意味でもある
少女は、別の4枚の写真を取り出した
その写真には、“彼ら”が1人ずつ写っている
それを1枚、ゆっくりと炎に近づける
ブワッ
《レオン》
『え?サンディ、どうしたの?大丈夫!?』
『大丈夫、じゃないよ。白々しい。お前、王国軍のスパイだったんだな。しかも、サンディをいじめてたみたいじゃないか。お前を仲間にした俺がバカだった』
『スパイ、いじめって……何それ!私そんなの知らない』
ジジジ……ブワッ
《ギル》
『嘘をつかないでください。サンディがそう言っているんです。そんなあなたと今まで一緒にいたなんて、虫酸が走る』
『サンディが言ってるって…何それ!証拠は?私がやったって証拠はあるの?』
ジジジジッ
少女は写真の少年の名前を呟き、今日の出来事を思いだしながら、1枚1枚燃やしていく
ブワッ
《ライアン》
『サンディがそう言ってんのが証拠に決まってんだろ!お前裏切ってたとかほんと最低だよな!さっさと認めろよ!』
『認めるも何も、何もやってないんだって!裏切ってなんてない!サンディが嘘ついてるんだよ!』
ジジ……ブワッ
《ユーリ》
『サンディが嘘ついてるとか、あんたなに言ってんの?サンディが嘘つく訳ないじゃん。裏切って、その上サンディに罪なすりつけるとかほんとあり得ない』
『だから、裏切ってないって言ってんじゃん!私の話聞いてよ!なんで信じてくれないの……』
『聞いてやるよ、お前の話。もちろん、王国軍についての情報をな』
『なっ…………やってない、やってないの!お願い、信じてよぉーー!!』
ジジ…ジ…… フワッ
………………
…………
……
フッ
炎が消え、全てが闇につつまれる
その闇は、ゆっくりと確実に、少女の心までも呑み込んでいく
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「レノアが…………裏切られた。……悲しいはず、それなのに」
(それなのに、嬉しい。レノアはもう僕しか頼らない。これできっと、レノアは僕を嫌わない。ずっと、、一緒…)
「これでだいたいのごみは片付けられたかなぁ。でも…あいつがまだだ。ほんと、早く消えてくれればいいのに。邪魔だなぁ。はやく、なんとかしないと」