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絡み合う愛情と憎しみ 少女は誰の手を掴むのか  作者: 如月麗羅
第2章 反乱軍,レオンルート
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9話 涙

「………え?…え?」


レノアは、ひどく動揺した。そして、自分が動揺していることにもっと動揺した。

何故自分はこんなにも動揺しているのだろうか。動揺する必要なんてないはずなのだ。いや、動揺してはいけないのだ。


レオンが、自分の知らない人と一緒にいることは、全くおかしなことではない。

だって、レノアは、ただの友人なのだ。“1番大切な人”なんて言われたけれど、“1番”も、“大切”も、曖昧なものだ。レノアは、ただの友人。

ただの友人に、レオンの交友関係を全て知る権利はない。知らない人と一緒にいるからといって、何か言う権利はない。ただの友人なのだから、動揺する必要はない。動揺すべきではない。


レオンが、誰かと親し気に話していたからといって、何だというのだ。

レノアは、レオンの“1番愛おしい人”ではないのだ。だから、レオンが誰かと親し気にしていても、誰かを愛していても、それは全くおかしくないことだ。以前、愛する人がいる、というようなことを相談もされたのだ。そしてレノアは、それを後押しした。

そんなレノアが、悲しむ理由はない。喜ぶべきなのだ。



なのに、なのに、何故、自分は泣いているのだろうか。


2人を見ていたくなくて、逃げるように、背を向け駆け出した。とにかく離れたくて、城を出て、夜の街を駆け抜ける。


すると、まるでタイミングをはかったかのように雨が振り出し、ポツポツとした雨は直ぐに激しくなり地面を乱打する。雨がレノアの全身を濡らし、流れ続ける涙とも混ざり合い顔をすべる。


気づくと、たくさんの思い出がつまった、そして、レオンの恋を後押しした場所に来ていた。図書館の裏。雨に濡れたそこを見て、足の力が抜けたようにペタンと座り込んだ。


自分は、なんて傲慢なんだろうか。


涙でぼやける視界で目の前の景色をぼんやりと眺めながら、そんなことを考える。


レオンに、“1番大切な人”なんだと言われた。だから、思い上がっていた。自分は、レオンの1番なんだから、きっと何でも言ってくれる。自分に一番に相談してくれる。隠し事なんかしない。そんなふうに思ってしまっていた。

自分は、レオンに隠し事をしているのに。重大な隠し事をしているのに。父親の死を祝福するようなことを考えてしまった、幼い自分。決して誰にも言ってこなかった。それを知って、みんながどんな反応をするのか。怖くて、怖くて。

みんなはその1つのことだけで、自分を嫌うのだと、心のどこかで考えてしまっている。みんながそんな人間なんだと、考えてしまっているのだ。心の底から、信用できていない。今までの優しい言葉を、心の底から信じることができていない。


自分は、隠し事をしているのに。

自分は、心の底から信じていないのに。


それなのに、レオンにはそれを求めるなんて、なんて傲慢なんだろう。レオンがそれをしてくれると思っていたなんて、どれほど自惚れていたのどろう。


自分が、恥ずかしい。自分は、こんな傲慢な考えをするような人間だったのか。


今まで、そんな感情を抱いたことはほとんどなかった。

負の感情をほとんど抱かない自分を恐れ、嫌いつつも、レノアにとって生まれた時からそれが普通で、どろどろとした感情とは本当に無縁だった。だから、人間であれば当たり前にある、嫉妬や慢心。そんな感情を初めて知った。初めてのことで、普通に近付いた喜びよりも、大きな自己嫌悪が生まれた。

どろどろとした感情を抱く自分を素直に受け入れられず、まさかこれが誰もが普通に抱く感情だとは思わずに、酷く恐ろしく汚ならしい感情だと感じた。だから、こんな感情は抱いてはいけないものだと、必死に自分に言い聞かせた。けれど、どんなに言い聞かせてもその()()()()()感情は溢れて止まらない。それに比例するように自己嫌悪も強くなり、より涙が溢れた。


どれくらいたったのか、いつの間にか雨はやんでいた。冷たい風がふき、濡れたレノアの体をより冷やす。 

魔法でどうにかできるのに、ぼんやりとしていたレノアの頭にその考えは浮かばなかった。


とぼとぼと、城に続く道を歩き始める。芯まで冷えきった体に、寒風があたる。


城まであと少しというところで、レノアは立ち止まる。やっと少しずつ働いてきた頭で、こんな姿を誰かに見られたくないという考えに至り、すぐに自分の部屋まで瞬間移動をした。


そして、部屋でしばらくボーッとしていたが、自分のくしゃみの音にようやく寒さを思い出し、急いで風呂に入った。


それから、ベットに入り眠りにつくまで、レノアはずっと今日見た光景や、自分の感情について考えていた。


自分は、どうなってしまったのだろうか。あんなことを考えてしまうなんて……


あんな感情は初めてで、レノアには、自分が随分と醜い存在になってしまったかのように感じていた。

  


□□□□



とある部屋に、2人の美しい男がいた。


「リラン、私の作戦は大成功だ。レオンを選んだのはレノアだからな。2人には夫婦になってもらいたい。レオンはあんなに執着しているし、レノアは天使の血を薄めたことによる変化で戸惑っている。きっと、これからもっと拗れてくれるぞ。ははは、想像しただけで楽しい」

「確かに、この2人は面白いな。アラン、よく見つけたな。あと、雨をあのタイミングで降らせたの、結構良かったよな」

「あぁ、最高のタイミングだった。これで風邪をひいてくれたら最高だな」

「じゃあ、そうするか?」

「いや、私たちは出来るだけ手を出さずに、ただ眺めていよう。その方が面白いからな」

「確かに。全部思い通りに動いてもつまんねぇもんな。じゃ、俺はそろそろあいつのところに戻る。これからもまた覗きにくるな」

「あぁ。では、また」

「おう。またな」


そう言って、リランという男は姿を消し、アランだけが取り残された。



眠りの中にいたレノアが、あの光景を見てしまったことも、雨が降りだしたことも、アランと、リランという男の仕組んだことだったと知ることは、永遠にない。

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