5話 化け物じゃない
暗い部屋で、レノアは目を覚ました。
いつもなかなか覚醒しない頭が、やけに早く覚醒し意識を失う直前の記憶を思い出す。
また、涙が溢れてきた。
この国の人たちは、レノアのことを知っているから髪色なんて気にせずに自分に接してくれる。それが当たり前だと思っていた。けれど、それは異常だったのだ。他国の人にとっては、自分の髪色は恐ろしいもの。そんな簡単なことを、自分は忘れていた。なんて愚かなんだと、自分で自分を嘲笑う。かつて自分を嘲笑っていた人たちの気持ちが、今なら分かってしまう。
悲しみ、怒り、虚しさ、悔しさ、いろいろな感情がぐちゃぐちゃになり、なんと表現して良いのかも分からない、自分でも理解出来ないものが、涙となって吐き出される。そうすれば、ほんの少しだけ楽になるような、ならないような、そんな曖昧な感覚が自分の中に広がる。
時間がたち少し冷静になったレノアは、なぜ自分はここにいるのかと疑問を持った。自分で移動した記憶はない。そもそも此処は何処だろうとやっと周りを見渡せば、自分がレオンの部屋のレオンのベッドで眠っていたことがわかった。
そして、腰のあたりでは、レオンが椅子に座ったまま眠っている事にも気付く。
「…レオン」
自分をここまで連れてきたのはレオンなのか。
そうでなかったとしても、ベッドを譲って自分の様子を見てくれていた。感謝の気持ちから、レオンのサラサラとした金髪を撫でる。
「……ぅん」
頭を撫でたせいか、レオンが目を覚ましてしまった。
「あ、ごめん、レオン。起こしちゃった」
ぼんやりとしていた目が、レノアが声をかけたことでこちらを向き、一気に見開かれた。
「レ、レノア!レノア!起きたのか!?…ぁ…っ……俺、、、すごい、心配したんだぞ。あの時、、何が、あったんだ……?」
「ぁ………私……あの時……」
その先を、声に出すことは出来なかった。
言ってしまったら、レオンがどう思うのか……
今まで、仲間として優しく接してくれていたが、本当はレオンも自分のことを……
普段のレノアであれば絶対に考えないようなことが、弱っている頭に浮かぶ。
レオンから隠すように、頭を手で覆う。
その手を、レオンが掴んだ。
「俺、レノアが化け物なんて全く思ってないから」
「…ぇ……」
どうして、レノアが恐れていたことを理解して、その上欲しい言葉をくれたのか。俯いていた顔を上げて、疑問の視線を向ける。
「こういう話の時、レノアいつも手で髪隠すだろ。レノアのその癖、みんな知ってる。今も、あそこで倒れた時も髪隠してた。なにがあったのか、言いたくないなら言わなくても良い。でも、俺がレノアを化け物だって思うことはないから。俺、まだまだレノアについて知らないこともあると思う。これから先、それを知って、それが普通じゃないことだったとしても、そのたった一つでレノアを化け物だと思うことはない。だって、今までのレノアとの思い出とか、優しくしてくれたこととか、そうやって過ごしてきてレノアを好きになった俺の思いとか、全部否定することになる。俺、そんなの絶対やだ」
「……わ、たし……化け物じゃない……?」
どうか肯定してくれと、縋るような、助けを求めるような視線をレオンに向ける。
「化け物じゃない……他の誰がなんと言おうと、俺にとっては化け物じゃない。難しいと思うが、化け物なんて言う奴らは無視しろ。そいつらは、レノアの中身を知らないで、見た目だけで言ってるだけだ。そんな奴らより、ずっと一緒にいた俺の言葉を信じてくれ。レノアは、化け物じゃない」
「………」
レノアの目をみつめながら真剣に言ってくれるレオンに、レノアもレオンの目を見つめ返しながら、ゆっくりと頷いた。
「……レオン、、ありがと……」
そして、小さな声ながら、心からの感謝を伝えた。
レノアの中で、レオンの存在が以前よりも大きくなった。
◇◇◇◇
1ヶ月後
レノアはもうすっかり落ち着いていた。
そんなある日、ルイに街に買い物に行こうと誘われた。レノアはもちろん、喜んでその誘いを受けた。
レノアの腰までのびた紫がかった白髪が風にゆれる。
髪は、ずっと伸ばしている。周りの言葉に負けたくないという、レノアの思いだ。
「レノア、そろそろ帰ろう」
「うん!そうだね」
赤い空の下で2人はそんな会話を交わし、城へと帰っていった。
帰ってきた城の中には、何故か暗闇が広がっていた。
そんな中を、ルイに手を引かれ歩いていく。
「……ルイ?」
とある部屋の前で、ルイが足を止めた。
「レノア、開けてみて」
ルイの言葉に、首をかしげながらもドアを開ける。
その瞬間、レノアの目の前に光による美しく幻想的な光景が現れた。
「……すごい!なにこれ!?」
驚きによる少しの沈黙の後、感動の声をあげながら目をキラキラと輝かせてそれを見つめる。
「「「レノア、誕生日おめでとう」」」
「え?……あ!そうか!」
聞こえてきた声に、レノアは今日が何の日かを思い出した。