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絡み合う愛情と憎しみ 少女は誰の手を掴むのか  作者: 如月麗羅
第2章 反乱軍,レオンルート
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4話 白い髪の化け物

図書館へ行った日から数週間後、久しぶりに仕事のなかったレノアは、1人で散歩していた。


周りの景色をぼんやりと眺めながら、いつもよりずっと遅い速さで歩く。

今のレノアは、国境付近を歩いていた。国境は魔法により分かるようになっている。


「♪~~~」

誰もいない静かな場所に、レノアの呑気な歌声が響く。実に平和である。

「♪~~…っ!………」

歌声が止まる。どうやら何も無い場所で転んでしまったようだ。

「いった-ー!今、ちょうどサビ始めるとこだったのに。サビに向けて盛り上がってたのに-!」

レノアの叫びが、晴れ渡った空に虚しく響く。

「……った!」

ちょうど起き上がろうとしていたレノアの顔面に、どこからか跳んできたボールが直撃がした。平和の中にも、小さな不運は存在する。

「うー、鼻いたい」 

鼻を押さえながら立ち上がったレノアは、ボールを手に取り辺りを見渡す。その時、国境の向こう側からガサガサと草を掻き分ける音がした。

「……あ、僕のボール!」

「あ、これ君のボール?はい。あまり遠くに跳ばしすぎちゃダメだよ」

「うん!ありが、、と、ぅ」

「……どうしたの?」

レノアの腰ほどの身長の少年は、ボールを受け取り、顔を上げてレノアに礼を言った。するとなぜか、少年はそのまま固まってしまう。その瞳は、レノアを……正確にはレノアの髪を見つめている。笑顔だった顔を、だんだんと恐怖が侵略していく。

その表情と、少年の視線の先に気づいたレノアは、顔を微かに強張らせた。

「…………」

「………………」

2人の間に、張り詰めた静寂が満ちる。



「あ……」


静寂の中やっと発されたその怯えた声は、どちらの口から出たものなのか。

今はどちらの顔も、濃密な恐怖で彩られている。


「し、、白い、髪………あ、の、ぼく……こ、殺さない、で……しあわせ、、しあ、わせだから………ぅ、、あ、ぁ……おか、さん……お母さん!助けて、天使がぁ!!」


少年が大声で泣きながら、レノアに背を向け走り去っていった。



“ドサッ”



全身から力の抜けたレノアが、その場に倒れる。


「あ、あ…あ」


口からは、ただ意味を成さない音だけが発される。


『白髪なんて、気持ち悪い。お前が(わたくし)達の家族なんて絶対に認めない。2度と私の前にその醜い姿を見せないでちょうだい』

『あいつの髪は白っぽいから、近づかない方が良いよ』

『白髪なんて、こわ~い。殺されちゃう』

『珍しい髪色だな。……気味が悪い(ボソッ』

『なんであんな子がアラン殿下の婚約者なのかしら?あんな、人殺しが』



「ぅ、あぁ…やめ、やめて………あ、あ、、ごめっ……ぅ、ぁ、、ちがっ、ちがっ、の…私……殺さっ、ない…そなこと、、しないっ、…なんでみんな……みんな、そんなっこと、言う、のぉ?わ、私、なんか悪い、こと…したの?……髪、の色がぁ、違うだけ、、じゃんっ………っ、ぁ……もぅ、いやぁ。イヤだ、、よぉ……だ、れか…助けてぇ」

 

「レノア!!」


髪を隠すように頭を手で覆いながら、地面に蹲り苦しむレノア。

しばらくして、切羽詰まったようにレノアの名を呼ぶ声がその場に響く。

しかし、過去の幻影に囚われた今のレノアに、その声は届かない。


「おい、レノア!レノア!しっかりしろ、レノア!!」

「わたし、化け物なんかじゃっ、人っ殺しなんか、、じゃっ、ないっ……みんな、なんでそんな、ことっ、言う、の?そんな目、で……見るの?」


     《そんなこと、自分が一番分かってるでしょ?》


頭を覆い泣き叫ぶレノアの脳内に、誰かの声が響く。



「ぅ、あぁ…わかん、ない!そんなの、、わかんない」


     《嘘つき》


心の奥底から、冷たい声が響く。


「嘘なんかじゃっ……」


     《あの時のことを、忘れたの?》


自分自身の、壊れた部分が冷たく言う。


「あ、あ、あ、、」


『お前の父親は、死んだ』

『……お父様が、死ん、だ……?』

『そうだ。だから今日から、お前は私の娘になる』

『おじ様の、娘……お父様が、死んだから………お父様が、死んだ、、それは……』

『(それは、幸せなことだ。死ねるなんて、お父様は幸せ者だ)』



その時、自分の脳内に自然と浮かんできた感情に、自分自身に、心の底から恐怖した。自分は、周りが言うように化け物なのだと、理解した。


「あ、あ、あ、、あ………

         ーーーーーー-!」

 

「レノア!!」



今まで心の奥底に無理やり仕舞い込んでいた記憶が、少年の言葉や表情と共にレノアの心を深く傷つける。それに耐えられなくなったレノアは、声にならない悲鳴をあげ、そのまま意識を失った。



□□□□



意識を失ったレノアを、レオンが優しく抱き締めた。

レオンの声は、全くレノアに届いていなかった。

“もし、ルイだったら……”そんな考えがレオンの脳内をよぎる。しかし、そんな事を考えている場合ではない。レノアを、早く城に連れ帰らなければ。レオンは、レノアを軽々と抱き抱え、今日2回目の瞬間移動の魔法を使った。


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