3話 図書館
翌日、レノアはレオンの部屋で目を覚ました。なぜか、レオンと抱き合って眠っている。
レオンの部屋で膝枕をしながら酒を飲んでいたのは覚えているが、途中からの記憶がない。酒を飲んで記憶を失くすのはレノアにとって初めての経験だった。
どうしてこんなことになっているのか、自分は何かおかしな事をしてしまっていないかを尋ねるために、レオンを揺すり起こす。
「レオン、レオン、起きて-!レーオーンー!」
「……はっ。俺、いつの間に、寝てた?」
「あ、レオン、起きた!ねぇ、私、途中から記憶ないんだけど、なんか変なことしたりしてない?」
眉を下げ、不安そうな表情で聞く。レオンに、何か迷惑をかけていないだろうか。記憶がないというのは、想像していたより不安なものだった。
「いや!ぜんっぜん!変なことなんて、するわけないじゃないか!」
「そう。良かった」
2人の会話は、噛み合っているようで実は噛み合っていなかったのなが、お互いそれには気づかなかった。
「あ、ルイ-!」
お昼頃、レノアは庭の木陰で涼んでいるルイを見つけた。
レノアの方を向いたルイは無表情だが、嬉しそうな雰囲気を纏っている。
「ね、ルイ。今ひま?」
“こくり”とルイが頷く。
「なら、一緒に図書館行こう!」
「…良いよ」
「やったぁ!」
ということで、2人は図書館へ行くことになった。
静かな図書館に、ペラペラと本をめくる音だけが響く。
そこに時々混じる、小さな笑い声や鼻をすする音。今日も図書館には、たくさんの人がいた。
「ふー。面白かった。次は何読もっかなぁ」
一冊読み終えたレノアは、小声でそう呟いた。
「…おすすめの本があるけど、それ読む?」
レノアの声に反応したルイがそう言った。
「え!何々?読みたい!」
「…じゃあ、ついてきて」
「うん!」
「この本だよ」
図書館の奥の方へ来たルイが、一冊の本を手にとった。
「この本はね……」
ルイが楽しそうな雰囲気で、本のおすすめする理由を話し始める。
「おー!面白そう!やっぱりルイって薦めるの上手いよね。ネタバレせずに、でも良いとこ教えてくれるから、いつも読みたくなっちゃう!」
「…そんなこと、ないよ」
ルイが少し照れくさそうに笑った。
「あ、貴重なルイの笑顔だ。かっわいー」
「ちょっ、からかわないでよ」
2人は、顔を近づけ、小声で心底楽しそうに話している。
お互いの揺らぐことのない信頼から生まれる、楽しげで幸せそうな笑顔と雰囲気。何も知らない人が見れば、恋人だと思われてもおかしくない。
そんな2人を、影から見つめる者が1人。
たまたま調べたいことがあり、図書館に来ていたレオンである。
その顔には、怒りと悲しみが浮かび、握りしめた拳から、赤黒い液体が溢れだしていた。