4話 もう一度
「諦めろ、サンディ。お前の負けだ」
その場に響いた新たな声に、レノアは後ろを振り返った。そして、驚きに目を見開いた。
「アラン、様」
「…………」
そこにいたのは、国の王太子であり、レオンの兄であり、レノアの元婚約者であるアラン王子だった。
タタッ
「兄様!どうしてここに?」
サンディがアランの目の前にかけて行き、そう言った。
「に、兄様って、え?どういう…サンディが、アラン様の、妹!?」
サンディの言葉に、レノアは酷く混乱する。
「サンディが、妹か。まあ確かに、私はこいつの兄だな」
そう、アランが言う。
「サンディって、平民じゃないの?」
「さぁ、どうだろうな。それより、このゲームはお前の勝ちのようだな、悪魔の子」
「「…え?」」
アランが、ルイの方向を見ながら言った言葉に、レノアとサンディの声がそろう。
「に、兄様、どう…っ!」
“ドサッ”
アランに声をかけたサンディが、突然その場に倒れてしまった。そして、
“パチンッ”
アランが指をならしたとたん、周囲にたくさんの人が倒れた状態で現れた。それは、レノアを裏切った反乱軍の者たちだった。
「……え?」
「では、私はこれで帰らせてもらう」
「はぁ!?」
「もう、用はすんだからな」
「ちょ、ちょっと!」
そう言うと、アランは倒れたサンディをつれ、転移魔法で消えてしまった。
「ル、ルイ……」
助けを求めるように、先程から1度も言葉を発していないルイを見上げた。
「落ち着いて。まずはみんなをどうにかしよう」
「う、うん」
うなずき、全体に治癒魔法をかけた。
反乱軍の人たちが、キラキラと光り輝く。
「ねぇ、ルイ。みんなに何があったの?」
「今から、説明するね。でも、どうせ話すなら、一気に話した方が良いよね」
そう言ったルイは、魔法で倒れている全員の頭上に大きな岩を落とした。
「っ~~~~!」
全員、声にならない悲鳴をあげ、それぞれの反能をする。
「な、何すんだよぉ」
幹部の1人であるライアンが、頭をおさえながらそう言った。
「……みんなを起こそうと思って」
「相変わらず雑だな!」
「そんな事より…」
「無視!?」
それは、懐かしい光景だった。まだ仲間だった頃の、日常の光景。ただ、懐かしいと、ただそれだけ思った。
「……あれ?そういやおれ、何してたんだっけ…………ん!?ど、どういうことだ!?おれがレノアを……えぇ!?何が、どうなって!…むがっ」
「はいはいちょっと黙ってようねぇ。お前が喋ると話が進まないから」
「むがー」
これまた幹部の1人であるユーリが、ライアンの口を後ろから塞いで黙らした。
「じゃあ、みんなに何が起こったのか、僕の推測だけど話すね」
「みんなはサンディに、方法はわからないけど異常に効力を上げた魅了魔法をかけられて、操られてた。で、さっきレノアが治癒魔法をかけてみんなを元に戻した」
ルイは簡潔に説明した。
「え!?みんな操られてたの?」
「…うん」
ルイの簡単な説明を聞き、レノアは驚きに目を見開いた。
「レノア!」
突然、後ろからレオンが名前を呼んだ。
「すまなかった!操られてとはいえ、レノアを酷く傷つけてしまった。俺は最低だ。本当に申し訳ない」
レノアが振り返ると、レオンが深く頭を下げ謝ってきた。
「レオン………確かにその時はすごく悲しかったけど、今はもうなんとも思ってないよ。それに、操られてたんだからしょうがないよ」
レノアは、笑ってそう言った。それは、優しくも残酷な言葉だった。
「なんとも思ってない、か。なぁ、レノア。レノアはもう、俺たちに興味がないか?」
「っ!さすが、レオンだね。私のこと良くわかってる………うん、私はもう、みんなに対して何にも思ってない。みんなは完全に、過去の人たち」
その場に、重い沈黙が広がる。
「レノア、頼む!もう一度、もう一度だけチャンスをくれ。お前の信頼を取り戻すチャンスを……頼む!」
「……あ……えっと…」
「レノア!おれも頼む!魔法とか、よくわかんねぇけど、お前に酷いことしたっていうのはわかる。なんなら殴ってくれてもいい。だから!おれたちとまた仲間になってくれ」
ライアンが、レオンの横に並びそう言ってきた。
「ライ、アン……」
「「「レノアさん!すいません!!俺(私)達に、もう一度チャンスを下さい!お願いします!!」」」
他の反乱軍の人達もいっせいに謝って、もう一度仲間にと、そうレノアに言ってきた。
「みんな……嬉しいけど、私、、みんなの期待に応えられるかわからないけどよ?みんなが悪くないっていうのはわかってるし、いま、悪い感情をもってる訳じゃないけど、一度は憎んだ人達だから……」
「それでもいい!お前がまた、戻って来てくれるなら、何でもいいから……だから………」
レオンが、そう懇願するように言った。
「………わかった」
レノアは、ただ一言、そう答えた。
………「「「よっしゃー!」」」
一瞬の静寂の後、その場に何人もの喜びの声が響き渡った。
「わわわわ!」
それに驚きつつも、辺りを見回し、ふと、あることに気づいた。
「あれ?……ル、ルイ!ちょっとみんな黙らせて」
「わかった」
ルイはすぐに、先程の魔法をもう一度全員に使った。
「「っ~~~!」」
「ルイ、今度はなんだよぉ」
「レノアに、黙らせてって言われて……」
「だからお前は「それより!……それよりギルはどこ?それと、ユーリは何でかたまってんの?」
副リーダーであるギルの姿がどこにも見当たらなかった。そして、何故かユーリが全く動かずに、まるで人形のようにそこに立っていた。
遅くなってしまってすいません