3話 決意
『これ以上、レノアを傷つけんなっ!』
そんなレオンの言葉に、レノアは思わずレオンの名を声にだした。それは、本心からの言葉だと、理屈なしにそう思った。
レオンの呼吸はあらく、レノアの言葉に応えることはない。
「レ、レオン!」
レノアは、すぐにレオンのもとにかけ寄る。
けれど、それは知り合いに対する情からの行動ではない。どんな事情があったとしても、レノアにとってレオンはもう過去の人間で、どうでもいい存在。かけ寄るのは、見知らぬ人が困っていたら助けるのと同じ小さな善意……
そんな事は、あの時から分かっていた。あの時、一瞬頭に過った感情。それに恐怖しながらも、自分が異常である事を理解した。それでも、目をそらし続けた。認めたくなかったのだ。けれど、もうそんな事はしない。しっかりと、自分と向き合う。こんな時に限って、悲しみや苦しみは浮かびあがる。それも、何もかも全て、正面から向き合う。そう、決めたのだ。
「レオン、どうしたの?大丈夫?」
赤の他人に対する情からの言葉。
「何があったの?」
自分たちがなぜ追い出されたのか、そんな疑問もこめた問いかけ。
「……」
「……レオン?」
何も答えないレオンの顔を覗き込む。
目を合わせようとしたが、レオンは虚ろな目で、どこか遠くを眺めている。
「レオン!」
強く、その名前を叫ぶ。
「………あ、」
一瞬、たった一瞬だけ、レオンの瞳に光が戻り、目がばっちりと合った。
「レ、ノア?………っ逃げろ!今すぐっ頼む。俺、がっ、まともなうちに!………はやく!……っ」
そう言って、レオンは意識をうしなってしまった。
「えっ、ちょっ、えっ!な、何!?」
「……レノア」
「ル、ルイ!これ、どうすれば……」
声をかけてきたルイに、助けを求める。
「とりあえず落ち着いて。レオンはどうして倒れたの?」
「えっ、と。なんか逃げろって「あっれ~。どうして2人がここに?」
「「!?」」
突然の新たな声に、2人は同時に声の聞こえた方向に目を向ける。
「サンディ……?」
そこにいたのは、反乱軍にいた少女。
幹部でも何でもないのだが、レオンたちと仲の良かった少女だ。
「はぁ。なんで元に戻っちゃうかなぁ。こいつは」
そう言って、サンディはレオンの服の襟を掴んだ。
「え?何して「うっさいなぁ。この、裏切り者。あはは!」
「!」
驚いた。
ただただ、驚いた。
悲しみや、憎しみ、怒り、そんな感情は浮かばなかった。
その事に、自分が本当に反乱軍に対してもう何も思っていないんだと、実感させられた。
「レノアは裏切り者じゃないよ。ねぇ、サンディ、君が反乱軍のみんなを操って、あんなことをさせたんだよね」
「操って、て。えぇ!?」
突然のルイの言葉に、レノアは目を見開いた。
「で、でも、人を操つるなんて出来るの?」
「出来ない事はないよ。でも…「そんな事はどうでも良いでしょ。さっさと出てってよ」
ルイの言葉を、サンディの冷たい声がさえぎった。
「絶対に出ていかない。ねぇ、サンディ、君は何者なの?」
「………」
ルイの問いに、サンディは沈黙をかえす。
その場に、重い空気が張りつめる。
「諦めろ、サンディ。お前の負けだ」
突然、その沈黙をやぶるように、暗闇の中に威厳のある、しかしどこか楽しそうな声が響き渡った。