2話 レオン
「お前たち、何しに来た」
「…………レオン?」
暗闇の中に突然現れた、かつての仲間、レオンの姿に、2人はかすかに目を見開いた。
しかし、ルイはすぐに違和感に気付く。
「……誰?」
「えっ?……誰って?」
レノアが、不思議そうな顔でルイを見上げる。
それもそうだろう。レノアは、レオンたちへの憎しみや悲しみをなくした時に、それによりかろうじでつなぎ止めていた興味も関心も、消えうせてしまったのだから。興味のない人間の、かすかな変化になど気付くわけがない。
レオンは、レオンのようでレオンではない。
まるで、レオンの姿をした別のものが無理やりにレオンを演じ、しかし完璧に演じきれずに何かが欠落した、そんな歪なもの。
ルイは、レノアを守るために1歩前にでる。
「ルイ?」
背後から、レノアの不安と不心が混ざったような声が聞こえてくる。
「大丈夫」
レノアの方を見て、安心させるように軽くほほ笑む。
そして、レオンをまっすぐに見つめ、ほぼ確信を持ってもう一度問いかけた。
「誰?君、レオンじゃないよね」
「……お前、何言ってんだ?俺は俺だ」
レオンは眉をひそめる。それでも、ルイはレオンを見つめ続ける。
「…………」
「…………」
「………………」
2人は無言で見つめ合う。
そこに、何故かルイの横に並んだレノアも加わる。
「……やっぱり、どっからどうみてもレオンなんだけど」
レオンを見つめながら、そう言うレノア。
その時--
「……っ!」
レオンが突然頭をおさえ、苦しみ始めた。
「!」
「え!?レオン?」
突然の行動に、2人は驚く。そんな2人を目にいれず、レオンは、途切れ途切れに何か話し始めた。
「俺、は、なんで、レ、レノアが、裏切って?………っ!そ、そんなわけっ………はぁ、はぁ、……あり、得ないっ!裏切る、なんて、でも、でも、俺、が、追い出し、追い出し、て?…………っ、なんで、なんでなんでなんでなんでなんで!そんなの、そんなのいやで、お、もってなくて、したくない、やりたくない、言いたく、ない!…………あぁ、いやだいやだいやだやめろやめろやめろやめろぉ!かっ、てに、俺を………レノアを…………はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………うっ………で、てけ……お、れの、なか、でてけ、これ、いじょ、レノア、きずつけ、んなっ!」
「レオン……」
『これ以上、レノアを傷つけんなっ!』
おそらくそう言ったのだろうレオンの言葉に、困惑した声音でレノアがその名を呼んだ。
しかし、聞こえていないのか、レオンはなんの反応もしない。
ルイは、レオンの言葉について考え始めた。
『レノアが 裏切る』
その言葉から、おそらくあの事件について言っているのだろう。しかし、レオンは
『あり得ない、裏切るなんて』
と、そう言った。レオン自身が、レノアを追い出したのにも関わらず。そして、
『なんで』
と、何度も何度も繰り返し言った。それはルイが聞きたいぐらいだったのだが、今、レオンの様子から、だいたいのことは理解できた。
『思ってない やりたくない 言いたくない』
『出てけ 俺の中』
そして、
『これ以上、レノアを傷つけんなっ!』
レオンの、そんな心の底からの叫び。
何かに、あやつられていたのだろう。あやつられて、レノアを追い出してしまった。今は、なんとか意識を保っているが、それもきっとまたすぐに呑み込まれてしまう。
誰が、何のために、どうやって
誰か、はサンディの可能性が高い。
そして、どうやって、もだいたいの予想はつく。
しかし、何のために、は全くわからない。
もともとサンディの事は何となく苦手でほとんど関わってこなかった。そのせいで、サンディが何を考えていたのか分からない。
そして、他の反乱軍の者たちはどこにいるのか--。
-ドサッ-
「レオン!?」
思考の底に沈んでいたルイの耳に、何かが倒れる音と、レノアの叫び声が響いた。