表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絡み合う愛情と憎しみ 少女は誰の手を掴むのか  作者: 如月麗羅
第2章 反乱軍,共通ルート
17/53

1話 再会

それは、徐々に、徐々に、誰にも気づかれることのないまま、しかし確実に、彼らをのみこんでいた。


彼らの奥底に燻っていた濁ったどろどろとした感情。周りの人間も、彼ら自身も、気づくことはなかった感情。その感情は、彼らの中でゆっくりと、ゆっくりと根をはやし、だんだんと大きくなっていた。それは、何かの拍子に簡単に爆発し溢れてしまいそうな、そんな危ういバランスを保ったまま、彼らの中に存在していた。


--それに気づいた者が、2人


1人は、気づいていないふりをした。自分が刺激し、彼らの中のバランスを壊せば、自分の愛しい人が、必ず傷付いてしまうから。


1人は、その感情を、利用した。彼らを壊し、自分の愛しい人を、手に入れるために。





それに気づいた者は、いなかった。

じわじわ、じわじわと、彼らを呑み込んでいたそれは、彼らの思考を知らず知らずのうちに麻痺させた。

少しずつ、どんなに親しくとも気づかないほど少しずつ、しかし性急に、彼らの思考を乗っ取っていった。

それは、彼らの奥底に隠れていた歪んだ感情をも呑み込んで、彼らを支配し始める。


不安は、疑いに

嫉妬は、怒りに

愛情は、憎しみに--


歪んだ感情を利用し、それは、決められた結末へと彼らを導く。



その思考のほとんどを乗っ取られた彼らに、抵抗などできなかった。

自分の言葉で、大切な人を傷つける。

その行為を、止めることはできない。

なぜなら彼らは、負けてしまったから。

自分を呑み込む得体の知れない何かに負け、思考を、全てを、奪われてしまったから。

もう、自分の体を、自らの意思で動かすことはできない。何かに支配され、彼らに残されたのは、反乱を決意するほどの強い意思と、友情か愛情かわからない、曖昧な少女への思いだけ。


そして、結末にたどり着き、少女が消えた時、全てが絶望に染まり、そのかすかに残されたものすらも、何かに呑み込まれてしまう。



彼らは、生きながらも、死んでしまった。

全てを奪われ、呑み込まれ、支配され、彼らは、生きた人形となった。



--そんな彼らに、一筋の光が差す--



-ギイ-



「誰か、いる?」



--彼らの希望が、帰ってきた--





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





そこは、静かな場所だった。

静かという言葉では表しきれないほどの、濃い静寂に満ちた場所。

そこに来る者に入る事を躊躇させるような、なんとも言えない、不思議で、不気味な静寂が、息苦しい程の密度で存在する場所。


そんな場所に、レノアはルイと共に足を踏み入れた。

目の前には、大きな建物、反乱軍の本拠地がある。

かつて過ごしたその場所は、レノアの記憶から人々の喧騒だけを抜き取ったかのようにして、そこに建っていた。



-ギイ-


「誰か、いる?………っ!」

「…………!」


ドアを開けながら、人の気配のない暗闇へと問いかける。しかし次の瞬間、開いた隙間から吐き気を催す程の甘い匂いが流れこんできた。脳を犯し、思考を狂わせ、意思を壊すような、異常で、狂的で、どこまでも甘い匂い。


「っ……………ごほっ、ごほっ」

「………………うっ、ぐっ、はっ」


2人は、すぐにドアから離れた。


「ごほっ……なっ、なに、今の匂い…………って、ルイ!大丈夫!?」

「…ふっ、っ………はぁ、はぁ、はぁ………だい、じょうぶっ」

「そう、良かった。それにしても、なんなの、今の匂い………吐きそう」

「甘い…………魅了の魔法?」

「…え?」

「今の匂い、魅了の魔法の匂いに似てる……その匂いを、すごく濃縮したみたいなかんじ?」

「……魅了?なんで、そんなの……」


何故、魅了の魔法の匂いが流れこんできたのか。

何故、その匂いがこんなにも濃縮されたようになっているのか。

レノアには、まったく見当もつかなかった。

……いや、1つだけ、心当たりがある。

彼らの最後のあの態度。この匂い、魅了の魔法の影響だとしたら説明がつく。


「…………」


しかしもう、レノアの中で彼らへの憎しみと悲しみがが消えたと同時に、興味も関心も消えてしまった。

彼らに何があったかなんて、どうでもいい。そんなこと、今更だ。

レノアが知りたいのは、自分とルイが追い出された時の、真実だけだ。似ているようで、まったく違うこと。


「…………わからないけど、とりあえず入ってみよう」

「…うんっ」


ルイの言葉に、一瞬のためらいの後、その横に並ぶ。



-ギイ-


2人は、先ほどより緊迫した雰囲気でドアを開ける。


そこには、濃密な甘い匂いと、自分の手も見えない程の暗闇が存在していた。

その暗闇の中に、レノアたちが開けたドアから、一筋の光が入る。


「…………」

「………………」


「お前たち、何しに来た」

「「っ!?」」



誰もいないと思われた暗闇に、1つの声が響いた。


「……!」

「…………レオン?」



目が慣れてきた暗闇から現れたのは、かつての仲間で、反乱軍のリーダーであるレオンだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ