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絡み合う愛情と憎しみ 少女は誰の手を掴むのか  作者: 如月麗羅
第2章 反乱軍,共通ルート
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プロローグ

「レノア。反乱軍の所ヘ行こう」

「…え?」


それは、突然だった。

ある日の早朝。そのルイの言葉は、朝の冷たい空気の中にやけに大きく響いた。


訪れる静寂。

先ほどまで感じていた、微かな人の動く気配は消え去り、2人きりの部屋に、痛いほどの静寂が広がる。2人の小さな息遣いだけが、部屋の空気を震わせる。



どのくらいたったのか、やけに長く感じられる静寂の後、レノアはゆっくりと、震える声を出した。


「な、んで。私は、あいつらに裏切られたんだよ。憎くて、憎くて、復讐するために、ここにいるんだよ。それなのに、なんで…どうして……」


純粋に戸惑った表情で、ルイに尋ねるレノア。

そのレノアの表情に反して、ルイは無表情だ。しかし、その全ての感情を消し去ったかのような瞳の奥の奥には、怯えの感情が見え隠れしている。


「レノアは本当に、今もみんなが憎いと思っているの?」


ルイは淡々と、決められたセリフを話すように、レノアに尋ねた。

その言葉にレノアの中の怒りが溢れだし、ルイを強く睨み付ける。


「なんで!なんでそんなことを言うの!私はあいつらに裏切られたんだよ!誰にも信じてもらえなくて、なんの説明もないまま責められて、それで、憎くて、憎くて……」

言っているうちに、レノアの怒りはあっという間に消えていく。


「あ、ルイ……ごめ「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!もう、もう言わないから、言わないから、お願い、嫌わないで。嫌だ、レノア。嫌わないで。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


突然、ルイが狂ったように喋り始めた。その目は虚ろで、レノアの腕を爪が食い込むほど強くつかんでいる。


「え?ちょっ、ルイ?……あ、えっと、謝らなくていいから、話の続き聞かせて。お願い」

そう言って、ルイの目をまっすぐに見つめる。すると、だんだんと手から力が抜けていき、少ししてルイと目をあわせることができた。


「い、いの?続き、話しても」

「……うん!」

この話は聞かなければならない。なぜだかそんな気がしたレノアは、心の中の何かをふりはらうように、元気よくうなずいた。


「……じゃあ、もう一度聞くね。レノアは本当に、みんなを憎いと思っているの?」

「もちろん。憎くて憎くて、復讐したいと思ってる」

レノアはできるだけ冷静に答える。

「…レノアは……最初は、本当に心の底から憎いと、復讐したいと思ってたんだと思う。でも、今のレノアの中に憎しみはないよ」

「………なんで、そう思うの?」

ルイの淡々とした言葉に、少しだけ声が震える。

「レノアは、そういう人だから。いつまでも人を憎むなんて、できない人だから」

「そんなことない。今、私があいつらを憎んでないっていうんなら、この気持ちはどう説明すれば良いの?」

「それは、全部偽物だよ。レノアが自分を守るためにつくった偽物の感情。ねぇ、みんなのこと、ちゃんと思い浮かべてみて」


そう言われ、頭の中で彼らとの思い出をふりかえる。溢れるほどの優しい思い出。それは突然に終わり、激しい憎しみのこもった、しかしどこか虚ろな目をした顔が、レノアの頭の中に浮かんでくる。それに対してレノアは--


なんの感情も浮かばなかった。


「……!そ、そんなわけない……」

レノアは激しく動揺する。そんなレノアに、ルイはゆっくりと、説得するように話す。

「…………なにも、思わなかったでしょ。レノアにとって、もう、みんなは他人なんだよ」

「い、いや。いやだ。なんで、なんで、なんとも思わないの?どうして?」

「私は、みんなが大切だった。大好きだった。だからっ、裏切られて、信じてもらえなくて、憎くて、苦しくて、悲しくてっ!大好きだったからこそ、それは強くて………なのに、こんな簡単に、消えちゃうものなの?みんなが、どうでもいい存在に、なっちゃうの?私は、みんなのこと、その程度にしか思ってなかったの?」

「レノア……」

レノアは、今まで無意識に目をそらしていた苦しみを、すべてはきだすように話す。感情のままに、誰に話すわけでもなく、ただただ感情をはきだす。

「なんでもう、悲しくないの?憎くないの?」

自らに、問いかける。

「私は……私はやっぱり、()()()なんだ」

苦しみが、苦しみを呼び、幼い頃の苦しみが蘇る。

深く(くら)い苦しみに、呑み込まれていく。

化け物、化け物、化け物化け物ばけものばけもの--

「違う!!」

突然ルイが、今までにないほどの大きな声を出した。

「……え?」

意識が、苦しみの海から引き上げられる。

「レノアは化け物なんかじゃない!」

レノアの目をまっすぐに見つめたルイは、泣き出しそうな、苦しそうな顔でレノアに向かって叫ぶ。

「化け物っていうのは、もっと狂ってる。レノアは化け物じゃない!化け物っていうのは、()()()()()みたいな人のことをいうんだ!」

「……ルイ?」

「レノアは化け物じゃない!レノアは、苦しんでるでしょ。自分の感情に、ずっとずっと苦しんでる。本当に化け物だったら、自分の異常を気にしない。気付きすらしない」

「ル、イ」

「僕は絶対に、レノアを化け物だなんて思わないから」

ルイの言葉に、レノアの意識に穏やかな光が差す。

「わ、たしも、ルイを化け物だなんて、絶対に思わないっ」

「……っ!………………ありがとう」


ルイの心からの言葉は、レノアの苦しみを以前よりずっとやわらげた。そんなレノアは、ルイの心に気づかない。



“僕はレノアと違って、あの人たちと同じ化け物だよ”

“あの時、僕は化け物を受け入れた”

“異常を気にしない僕は、あちら側だ”

“どうか、化け物になった僕を、嫌わないで”

“レノア。ずっとずっと、愛してる”


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