オープニングフェイズ3
PC3、ジバシのオープニングです。
S市の町中を一人の青年が歩いていた。彼の名前は赫枝飛波飛。高校生ながら、UGNのM市支部に所属するエージェントの一人だ。
ジバシはM市支部長である双葉銃から指令を受け、S市で発生している事件の調査を行っていた。今は道行く人に声をかけて、何か事件に関する証言が得られないかと聞き込みをしているところだ。
「失礼、少し良いですか? 最近、晴れた日に雷が落ちる、なんていうのを見たりしませんでしたかね?」
「あー、アレだろ? 最近SNSとかで見かける噂の奴」
「それはデマだろ?」
「でも俺、実際に雷を見たぜ!」
ジバシが聞き込みを進めていくと、どうやら雷の噂はSNSに親しんでいる若者を中心に広まっているようだと分かった。とはいえ信憑性のない話やデマの情報も流れているようで、雷の噂は都市伝説の域をでないようだ。
そこでジバシは近くの公園に立ち寄りベンチに腰掛けると、携帯やモバイルPCを駆使してネット上の情報を探す方向に切り替えた。
SNSやネット上のサイトを巡回して、何か情報はないかと探る。
どうやら雷の動画を撮影した投稿などもあったようだが多くの投稿は削除されていた。UGNが手を回して情報の無闇な拡散を防いでいるのかもしれない。
そうしてジバシが公園のベンチでPCを操作して調査していると、視界の端にちらりと人影が映り込む。公園のすぐ近くの道路を一人の女性が通りかかった。
それだけならばジバシも気にとめることはなかったのだが、彼女は何かに躓いたのかバランスを崩して転倒した。その拍子に手提げ袋を落としてしまい、きっと夕食の買い物帰りだったのだろう、袋の中から食材が幾つか転がってしまった。
それを見て無視をするほどジバシは薄情な男ではない。すぐに立ち上がり、彼女のもとへ駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
そう声をかけながら道に散らばってしまったパック売りの牛肉やリンゴ、トマトなどを拾い集めて女性に渡す。彼女はジバシから受け取った荷物を再び手提げ袋に詰めなおした。
「ありがとう、助かりました」
女性は照れたように笑いながら、ジバシに頭を下げた。
「私、ドジですぐに転んじゃうんです。まだ慣れなくて……」
ジバシは彼女の容姿を見た。年は二十代中頃といったところだろうか? 丸みを帯びた童顔だが、まだ18歳のジバシより年上だろう。
「ありがとう、親切な方。私の名前は稲見月子。あなたの名前は?」
「赫枝飛波飛です」
「赫枝さん、と言うんですか。素敵な名前ですね!」
「そうでしょう?」
「ええ、とても素敵!」
半ば冗談めかして言った発言に同意を返され、ジバシは僅かにたじろいだ。どうやらこの稲見月子と名乗った女性はかなり素直な性格をしているらしい。
「何かお礼がしたいけれど……そうだ、良かったらおひとつどうぞ!」
そういって月子は手提げ袋の中からトマトを一つ差し出した。ジバシは受け取り、小さく頭を下げる。
「ありがとうございます、大好物なんです」
「ふふ、喜んでもらえて嬉しいわ」
稲見はくすりと微笑んだ。
ジバシはついでにと、彼女にも近頃の雷鳴事件について何か知らないかを尋ねてみることにした。
「そうだ、少し伺ってもいいですか? 最近、この辺りで晴れた日に雷が鳴るという噂を聞いたことはありますか?」
「雷の噂ですか? あぁ、最近はその噂で持ちきりですよね。もし自分のお家に雷が落ちたらどうしようって思いますよ。怖いですよね」
穏やかな苦笑いを作る彼女は、どうも噂は本当だと考えつつもそこまで深刻には受け止めていないようだ。ジバシが聞き込みをした他の人も、おおよそ似たような反応であった。
頭の片隅で情報を纏めながら、ジバシも相槌をうつ。
「なるほど、そうですよねぇ。僕の家も……いや、もう家はないんですけど」
「えっ、お家ないんですか!? 大丈夫なんですか?」
流石の稲見もジバシの家無し発言には驚いたらしく、目を丸く開いてジバシの顔を見た。
ジバシは大した事ではないと、軽く笑う。
「いやー、給料を愛する姉妹に仕送りしていたら住む家がなくなっちゃって」
「え、ええと……それは大変ですね。お仕事、頑張ってくださいね……?」
稲見は一歩、ジバシから距離を取った。やや表情が引きつっているのは気のせいだと思いたい。そして彼女はそのまま腕時計を確認すると、
「それじゃあ、私はそろそろ行きますね。最近は物騒な噂もありますし、気をつけてお仕事頑張ってくださいね」
そう頭をさげて立ち去った。
「はい、ありがとうございます」
ジバシも会釈を返し、そのまま稲見の背中を見送る。
稲見の姿が見えなくなった後、ジバシは彼女から手渡されたトマトを見た。
稲見が転んで落としたせいで少し土がついてしまっているが、拭えば問題なさそうだ。土汚れを払い落として、貰ったトマトへ上機嫌にかじりつく。新鮮で肉感的な表皮を歯が突き破ると、瑞々しい酸味が口の中に広がった。
満足そうに一つ頷くと、ジバシはそのまま調査活動へと戻った。




