#9「幸せな終末」
「知真輝のやつ、遅いなぁ」
猫君は店のドアベルを見つめながらか細い声でそう言った。
店は3組の客が入っており、僕の好きなゆったりとした空気が流れている。
知真輝君は昨日猫君と店に来たばかりだ。
「今日も来るの?」
「はい、今日は愉嬉歓と来るはずなんです。今日学校で愉嬉歓が知真輝と仲直りする為に店に来て何か奢るんだって言ってたんすよ。大事な用事だから、俺がいたら気まずくなるかなぁ」
「へぇ、あの穏やかな二人が喧嘩だなんて、珍しいね」
「愉嬉歓…もう東京に行くとか言うなよ…
東京に行かなくても、こっちには僕がいる…
絶対に行かせないからな…」
頭…痛いな…
これ…誰の声だ?
全部僕の声なのに、誰かが、たくさんの誰かが喋っているような。
僕の隣に愉嬉歓が眠ってる。
花が…あれは…
碇草…?
「それでは、次のニュースです。
大分県で痛ましい事件です」
「はい。付近の子ども達が通う蘆薈台学園周辺の公園で、生徒2人が遺体で発見されました」
「見つかったのは、蘆薈台学園高等部3年生の生徒、2年生の生徒合わせて2名です。
場所は学園と校区内住宅地の間に位置する公園で、並んで倒れた状態で発見されました。
2名とも外傷による失血死でした」
「また、2年生の生徒の左手の損傷が酷く、抵抗した痕跡があり、鋭いもので複数回刺されていることが確認されています。
付近に多くの血痕があり、捜査は難航しているもようです」
「警察は事件や事故、心中など多くの面から慎重に捜査を進めているということです」