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ろかいの華  作者: 牛蒡
第二章 長者原花如の華
12/31

#3「秘密」

高等部2年生の教室を背に歩みが早くなる。

せっかく蛇籠(じゃかご)先生と放課後に話そうと約束を取りつけておいたのに…

邪魔が入った!この学園は生徒が少ないから、ライバルなんか出来ないと鷹を括っていた。

見てしまった。蛇籠先生と2人きりで話すあいつを。

最悪だ。よりにもよってクラス担任!蛇籠先生のことを本当に好きなのはうちだけなのに。

長者原(ちょうじゃばる)花如(はなき)…生徒会長だったね。

…どうせ、蛇籠先生に好かれるために生徒会長やって、毎日教室掃除してるだけでしょ。うちはそんなことしたって、蛇籠先生は中等部3年生教室には来ないから無意味!それに蛇籠先生本人に歳下はOKかを聞くなんて…

気持ち悪い。

本当に気持ち悪い、めちゃくちゃ気持ち悪い、むりむり気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い…あぁダメだ、悪い方に考えると顔に出て不細工になっちゃう。ポジティブになれ、うち。大丈夫、落ち着いて。蛇籠先生の言葉を思い出して…

うちは制服の右ポケットからボイスレコーダーを出して、イヤホンを右耳に装着した。今日の日付の項目を選んで再生ボタンを押す。

『うーんと…えっと…いいんじゃないかな、その…愛があれば』

さっきの蛇籠先生の声。本当に落ち着く…好きな人の声って。耳の穴から入って、鼓膜に当たってしっとり滲んでく。ボイスレコーダーのクリップに挟んであるメモを広げて、シャーペンの滲んだ文字を目で追う。こんなの見なくったって覚えてるけど、見て思い出すことで幸福感が増すの。

蛇籠先生…蛇籠 架月(かつき)先生。

誕生日は12月15日…もうすぐだ。

血液型はO型で、今年で28歳。

この学園の先生にしては珍しく運転免許を持ってなくて、近隣に住んでいるの。学園近くの住宅地のアパートの208号室。

いつも通勤に使っている自転車は赤色で蛇籠先生の好きな色。

その自転車の駐輪場所から先生の自宅アパートももうとっくに割れてる。でも行ったりしないの、うちは良い子だからね。そんなことをしたら気味悪がられちゃう。この学園のOBで美術を勉強する為に福岡県の大学に入ったの。

全部全部、蛇籠先生が自分で誰かに喋ったの。それをボイスレコーダーで記録して、家に帰って聞き返して文字に起こす…うちにとって本当に幸せな時間。

左利きで、貧乏揺すりをする癖があって、恥ずかしいと俯いて左頬を指で引っ掻くの。

好きな人の情報を見返して、胸がいっぱいなる。この満たされている感覚も大好き。


事の発端はうちが中等部1年生の頃。

美術とか音楽とかその人のセンスで善し悪しがわかれてしまうような、答えのない教科にうちは苦戦していた。特に美術はどれだけ頑張ってもコンクールで賞をもらうことはなかった。

そんなダメダメなうちに声をかけてくれたのがうちの王子様。

「賞は取れなかったけど、巡麻(めぐるま)さんの頑張りは見てたよ」ってうちを励ましてくれた。

その時全てが始まったように思う。今までばらばらに回っていた歯車が急にすべてかみ合って、突然何かが前に進みだした。

今まで何度も歩いてきた通学路。全く進まない教室の掛け時計。憂鬱な移動教室。全部に色がついた。何もかもが新鮮で、どこへ行っても蛇籠先生の姿を探し、見つけては幸福に包まれた。

うちは蛇籠先生に恋をして、言動や行動を記録して、確認するために産まれてきたんだと思う。


なにより蛇籠先生が大好き。だから、

長者原花如なんかに渡さないよ。

蛇籠先生のこといっぱい知ってるのはうちの方だもん。

頑張らなきゃ…ライバルの長者原花如は蛇籠先生のクラスの生徒だから。もっともっと先生に会う時間を増やさなきゃ。

待っててね、蛇籠先生。きっときっと、長者原花如よりうちのこと好きになって貰えるように頑張るんだから。

新しいメモに「家で用事が出来たので帰ります 明日の放課後に行きます」と可愛い文字で書き、1番下の行に「巡麻 薫子(かおるこ)」と自分の名前を書く。

このメモを職員室の蛇籠先生の机に置きに行かないと。

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