第6話 三割ルール
秘密保持契約は成立したあと、森は一度コップの水を口に含ませた。ひと呼吸おいたらしい森はゆっくりとコップをテーブルに置いた。
「で、質問……なにから来るんですか?」
その姿は実に堂々としていた。無論、もう嘘を付けないのだから変に芝居をする必要はないのだろうが。
そんな森を見ながら、早速質問を始めていく。
「まず、確認だが……お前は確かにネイティブに支配されていたんだよな? そして解放された?」
「はい、その通りです。先輩のおかげで、無事ネイティブからは解放されました」
「だが、今でもまだひとつ被支配側である。それがグループ:キングダムであっているのか?」
「はい、間違いありません」
基本的な情報、根本的な部分に置いて、間違いはないらしい。
「つまり、ネイティブに支配されていたときは二重支配を受けていた。その相手はネイティブとキングダム。それであっているよな?」
「はい、前に説明したとおりです」
「それ以外の支配は受けていないのか?」
「はい」
実に淡々と圭の質問に答えてくれている。ここの部分においては、少なくとも森は本当のことだと思っている、ということになるのか。
「では……グループ:キングダムについて、知っている情報はなんだ?」
「……それ、質問ですか? 随分と範囲が広いですね」
「質問だ。紛れもない」
こっちは質問だと言っているが、これに関しては契約の効果が効くかどうかは定かではない。単純に「嘘をつくな」や「従え」では効果は得られないので、質問という形を取っているのだ。
普通に考えて質問の範疇を越えると認識できるようなこの問いでは、やつも嘘を付ける可能性がある。だが、それを考慮しても、ここで聞いておくべきだと判断した。
「分かりました」
おそらく、本人がこれは質問じゃないだろう、とはっきり意識できれば契約の効果はなくなるはず。今の森がこの問いをどう捉えているのかは知らないが……、とにかく聞いてみる他ないだろう。
「といっても、大まかな内容は前、先輩に話したとおりです。といっても西田先輩は知らないんですかね?」
「あぁ、次郎には内容についてはほぼ喋ってない。改めてここで説明してほしい」
「分かりました。前回の話と矛盾が生じないよう注意して話しますね」
「……そうか」
こっちの考えは本当にお見通しらしい。実際、話す内容に違和感を持ったらそこは漬け込んでやろうと思っていたんだが、そんな簡単な奴ではないということらしい。
「グループ:キングダムには、それなりに前から入っていました。入学して直後ぐらいだったと思います。当時のキングダムは既に話した通り、支配されるグループから逃げるために結成されたグループです。
あくまで、グループをあらかじめ作っておくことによって、被支配になることをできる限り免れようという組織でした。キングダム自体は支配形態などではまったくなかったですね。
それどころか、ほとんど形だけグループを作っておく、といった感じでした」
「ちょっと待て」
突如、次郎が手を前に出して、森の話を止めてくる。
「なんでグループを作っただけで被支配から逃れられるんだ? そのグループは形だけなんだろ? 活動もせずにどうやって逃れるんだよ」
次郎のその疑問に圭が答えた。
「コントラクトのルールに三割ルールがあるだろ?」
「三割ルール?」
「あぁ……と」
三割ルールは圭が勝手に心の中で付けていた名前で共通のセリフになっていないことを思い出した。
「集団契約は、三割以上同じメンバーで契約することはできないってルールがあるだろ? すなわち、逆に言えば、支配するために集団契約を結ばそうとしても、その中のメンバーが三割以上同じだったら、契約すらできないわけだ」
「つまり……あらかじめたくさんのメンバーを集めておけば、……えっと……うん?」
「ほかの集団契約でも、似たようなメンツになりやすい。すなわち、三割以上同じメンバーになりやすくなるわけですよ。
ようは、支配されている集団契約のメンバーが、三割以上同じにしてしまえば、それ以上、キングダムのメンバーを利用した、契約人数の増加はできないということです」
「う……う~ん、わかった……ような……分からんような……」
まあ、説明が難しい内容であることに変わりはない。本当に正しく理解してもらうには、絵を書いて説明するほかないだろう。だが、あいにくそんなこと今するべきことではないだろう。
「今は、その話はとりあえず置いておくぞ。あとは家に帰って自分で考えてろ。お前の頭なら理解できるだろう」
「おう! 俺の頭脳を評価してくれてありがとうよ」
事実評価はしているが、そんな反応をされたらその評価は改める必要がでてきそうな気がした。




