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コントラクト・エンゲーム 1編・2編  作者: 亥BAR
第2章 解放者契約
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第4話 揃う三人

 コントラクトは催眠術と関係しているであろうという圭の推測を次郎に話していた。次郎はそれに対し、納得しきれないというように、首をかしげ続けていた。


「まあ、でも、そう深く考えることはないさ。コントラクトが催眠術だろうが、AIによる機械技術なのだろうが、どっちにしても俺たちに理解できる技術でないことは確かだし、説明されてもチンプンカンプンだろうよ」


 そこまで言って、圭は指を一本立ててみせた。

「一番言いたいのはそこじゃない。催眠術であるから……というその先こそが重要なんだ」


「うん?」

 首を傾げる角度がさらに増す次郎。そんな次郎の姿を内心、少し面白いと思いながら、続けた。


「催眠術であるというのならば、契約するときに認識した契約文がそのまま執行されるということ。つまり、簡単なことじゃないが、契約文そのものを勘違いすれば、その勘違いのまま、効果が発揮されるんじゃないかという推測だ。


 今すぐ確かめる術はないが、日本語が全くわからない外国人と契約をしても、効果は得られないんじゃないかとも思っている」


「うん……なるほど……」


「で、もう一つ。俺たちはコントラクトの強制力の正体が催眠術ではないか、と推測できたことだ」

「うん……あぁ?」


 一度戻りかけた次郎の首は、再び曲がり始めた。


「とにかく、それをしっかり意識しろ、ってことだ。これは催眠術なのだろう、そんな催眠術が確かな強制力となるわけがないだろう、と意識しておけ、ってことだ。


 催眠術ってのは、頑なに疑いを持っている人より、信じている人のほうがかかりやすいらしい」


「つまり……催眠術でどうこうできるわけねえだろ……こんなスマホのアプリごときで、支配できるわけないだろ、と思い込めばいいってことか?」


「無論、そんな単純ではないだろう。だが、そういう意思を強く持てば持つほど……契約の効果に隙ができる可能性が高くなる。


 少なくとも、契約をするとき、これによって絶対に破れないんだ、なんてことは考えるな。もう……コントラクトの影響を受けまくった俺たちに……どこまでそんな意識を持てるかは……疑問だがな」


 そんなことを言いつつ、もう一度本に視線を落とそうとしたその時、次郎の視線が圭から圭の後ろの方に向けられていた。


 こっちが疑問に思い聞き返すより先に、圭の隣にちょこんと座ってくる女子生徒。紛れもない森太菜だった。


「お待たせしました」

「……いや、時間通りだ、問題ない」


 時計の針は十二時半を指していた。まさにお昼どきという段階で、周りは十時半の時と比べても数段は騒がしくなってきている。小さな声で話しても相手の耳には届きそうにない。


 だけど、それは同時に、周りに会話が聞かれることはもちろん、人ごみに紛れて重要な会話をすることができるというものだった。


 まあ、でも、本当に他人に聞かれたくないと言うのなら、カラオケボックスに入るとかの方がいいのかもしれないが……。でも……全く歌わない状態だと目立つし、個室の出入りも目立つ可能性はあると考えたりもしていた。


「一応紹介はしておくよ。こいつは西田次郎、協力者だ。対してこっちは森太菜……協力者……を名乗ってきている」


 そういう紹介の仕方に森は一瞬、不満を上げるような表情にしてみせたが、すぐに「仕方ない」とでも言うように微かにため息を付いて、次郎と向き合った。


「よろしくお願いします。西田先輩」

「うん、よろしく」


 次郎は特に森に警戒するような仕草はせず、平然と受け答えをしていた。それが素なのか演技なのかは知らないが、そのままでいてほしいと心の奥で願っておくとしよう。


 対して森もまた、こちらにはまるで警戒心を出しているようには思えなかった。本当に、自然な感じで、おどおどした森でも、圭をハメたときの鋭い目つきをした森でもない。


「先輩、信じていないのでしょうけど、あたし……先輩に全てを委ねる気で……ここに来ていますから」


 唐突に森の視線がこっちに寄せられ、観察していた圭の視線とがっちりぶつかってしまった。そうなった以上、こっちも下手に視線をウゴ書く事はできなくなり、見つめ合うようなにらみ合いになってしまう。


「契約という強制力なものが間にありますが、基本的にこっちが先輩にお願いする立場だと思っていますので。あたしから変に詮索したり裏をかいたり欺こうとするつもりはありません。そちらがどういうつもりなのかは知りませんが」


「……でもまあ、詮索したり裏をかいたり、欺こうとするやつが、これからそうします、なんて宣言もしないとは思うけどな」


「あたしのこの宣言をどう捉えるかは先輩に任せます」

 そう言って森から視線を外し、テーブルに視線を落とした。そのまま、おもむろに圭が使っていた、完全にぬるくなった水が入ったコップを取る。


「とりあえず、水を三人分入れてきますよ。お願いする立場として……後輩として、それぐらいはさせていただきます」


 そう言うと、森はスタスタと給水器の方へ向かっていった。

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