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コントラクト・エンゲーム 1編・2編  作者: 亥BAR
第2章 解放者契約
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第3話 強制力の正体

 そのまましばらく、本を片手に時間を潰していた。なんか色々考え出したが、それ以上考えるのは無駄だと判断したからだ。

 というより、現実逃避というべきか。


 やがて、フードコートの壁に立てかけられた時計が十二時の時を刻もうとする頃だった。


「よう」

 圭に短い言葉に話しかけると、圭の返事も待たずに向かいに座ってきた。その男は……次郎。


「きたな……だがもう少し待っていてくれ」

「分かってる。その森太菜って子が来るまでだろ?」

「あぁ、もうすぐ来るはずだ」


 少し会話をするとそのまま本に再び目を通し始めた。次郎はポケットからスマホを取り出しいじり始める。


「あ、そうだ。一応言っておくぞ」

「うん?」


 一度本を閉じ、次郎と顔を合わせにいった。次郎もそれに合わせてスマホから視線を上げてくる。


「森太菜といるときは、極力……話すことは最低限の情報だけでとどめてくれ。やつを信用できるようになるまで……いや、やつが本当に味方になるという意味で手を貸してくれることを確認するまで……。


 そして、それ以降も、気を許すつもりはない」


「……分かってるよ。でもさ、その子の行動原理は分かっているのか? なぜ、キングダムを倒そうとする?」


 その次郎の質問に、森が圭に迫ってきたときのことを思い出す。


「あいつは言っていた。『コントラクトからみんなを解放してあげたい。すべてを終わらせたい。こんな支配は……終わるべきだ』と……。これを語っていたときのあいつの目は……本物だった気はする」


「……解放……、解放者……か」


「だが……今の状況で、あの言葉を信用するわけにはいかないだろう」

「え? でも……本物だって……」


 実に素直な次郎に、小さくため息をついた。


「コントラクトによって曲げられた意思である可能性は十分考えられるだろう? 今の俺が持っている情報じゃ、それを否定しきれない。あいつとは、これまでまともに会話をしたこともない。赤の他人なんだ」


 ゆっくりと、次郎に分かってもらえるようにはっきりと言葉にしていく。


「次郎とは、一年以上付き合いがあったから、お前がコントラクトの影響下にあるとき、違和感を持ったが、あいつのことは何も知らない以上、本来の彼女と変化があっても、それに気づけないだろ?」


「で……でも、コントラクトは、割と制限がしっかり取られている。あまりに無茶な契約はできないはず」


「無茶じゃないだろ? 事実、俺は契約で、圭の意思を曲げ勘違いさせ、ネイティブの契約を強引にうやむやにした。俺だって、トランプのカードを勘違いさせるほどに認識をねじ曲げさせた。


 恐ろしいことに、実際ゲームをしているとき、俺は勘違いしていたことに、なんの違和感も抱かなかったからな。うまく契約すれば、自分の意思や認識に手を加えられていることすら、気づけない」


「その森って子自身も、俺たちに手を貸すべきだと、勘違い……思い過ごしている可能性があるってことか?」


「もし、そうだったら、簡単には気づけないだろう……」


 圭は一時間以上前、席に着く前に取っていたコップを手に取り、中の水をクルッと回しながら揺らした。氷を入れていたはずだが、とうに溶けて、随分とぬるくなっていた。


「俺は……コントラクトは、極論を言えば催眠術の一種だと考えている」

「……催眠術?」


 次郎は面食らったように見開いた。こういう状況じゃなけりゃ、サプライズ成功で面白い反応だったと言えるだろう。


「催眠術って、あの? 少し昔、テレビとかでやってたあれ?」

「そうだな……眠らせて、「お前は犬だ」とか「波になれ」とか言ってる奴だな」


 次郎はその圭の言葉を聞いて、少し首をひねった。

「コントラクトで契約されたことを……守るっていう催眠術?」


 今ひとつ理解に届かないらしい次郎が持っているスマホをさっと取り上げた。そのまま、コントラクトのルールの画面を映し出す。


「コントラクトは日本語で草案を書かないと効果は得られない。そして、日本語になっていない、意味の通じない文章でも効果は得られない」

「うん……なってるな……。AIが判断するってなってた」


「AI……ね」

 その単語を聞きながら、圭はスマホを返した。


「そのAIってのもどうも引っかかる。確かにAIの技術はどんどん進んでいると思う……この契約をして実際に破れないってのが、どう考えても常識を一脱している点から、そこにリアルな思考を求めるのは無駄かも知れない。


 だけど、それを踏まえても、AIにそこまで判断ができると思うか?」


「と……いうと?」


「このルールの書き方だと、コントラクトのAIが契約文章を理解し、契約を守らせるための効力を電波とかなんやらで、出しているように、捉えられるよな」


「……あぁ……まあ、そんな感じのもんだと思ってはいたな」


「でも、このルールに書かれていることが本当である証拠はないだろう?」

「そ……それは……」


「AIってのは口実である可能性がある。実際は、否応なくその契約内容を頭で理解して契約している。その理解した内容を、催眠術で守らせているってわけだ。といっても、スマホで催眠術にかけられる技術も、俺は知らないけどな」


「でも、なんでわざわざルールにはAIで、なんて書かれてたんだ?」


「そりゃあ、催眠術にかけるためだろ。ルールに「催眠術であるため、日本語になってない契約は効果がない」なんて言っても「催眠術? おいおい」ってなるだろ? 効力自体に疑いを持つわけだ。


 でも、AIなんて技術的に言われたら、そんなもんかと思えてしまう。俺たちみたいな若者は特にな?」

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