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コントラクト・エンゲーム 1編・2編  作者: 亥BAR
第1章 謎の生徒たち
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第10話 見事な推理

 売店に群がる生徒たちに向かって足掻く時間が続く。だが既に、あがいてももう、そう簡単にパンを手に取ることはできないほどの人数になっていた。


 ようやく売り場までたどり着いたときには、既にほとんどのパンが売り切れ、人だかりはどんどん少なくなってきていた。


「あぁ……」


 売れ残ったパンを眺めてみる。残念ながら卵サンドは残っていなかった。ほかにも焼きそばパンやメロンパンなどといった人気商品は当然のように姿を消している。


 残っているのはコッペパン……あとは、餡パンなどがチラホラ。

 どうしたものかと思いながら、ポケットにしまってある財布を取り出す。


「どうやら、お目当てのパンは売り切れてしまったようですね」

 残った選択肢からどれを選ぼうか悩んでいると、あの男子生徒に再び声をかけられた


「あ……そうですね」


 まだいたのか……。正直、まだ圭の後ろに陣取っていたとは思ってもいなかった。まあ、でも変に避ける必要はないか……金を拾って渡ししてくれたのだから、悪い人ではないのだろうし。


「まあ、でもまだ残ってますし、これで十分ですよ」


 そう言って、コッペパンに手を伸ばそうとしたのだが、そんなところを男子生徒に止められた。目の前で男子生徒の手によってパンがぶら下げられる。


「わたしのこれ、あげますよ」

「え……、いや、でも……」


 男子生徒はこっちが流石に悪いと断るのを無視して、パンを圭の手に握らせようとする。本当に断ろうと必死だったのだが、そんな圭に男子生徒はある事を言い出した。

「いいじゃないですか、それに君、この卵サンドが欲しかったんでしょう?」


 思わず、口を噤いでしまった。

 そして、男子生徒の手に握られている卵サンド二個に視線が否応なく移されていく。確かに、いつも圭が買っている、今日もお目当てであった卵サンド。


「なぜ……分かったんです?」

「え? なぜって?」


 すると男子生徒は突然、びっくりするくらいに不敵な笑みを浮かべ始めた。左右に流された黒髪を持つその男子生徒は、左の口角をぐっと釣り上げて……。


「売店の商品棚の前に立ったとき、君の視線が真っ先に、卵サンドが置いてあった場所にいったからですよ。そこで小さく、微かなため息をついたあと、別の棚に視線が移動していきました。


 その行動から、一番の目当ては十分に察しがつきますよ」


 そんなことを言いつつ、圭が突き返した卵サンドを一つずつ両手に持って、振りだした。

「それと、パンは二人分を買おうとしていましたよね? 卵サンドを二つかどうかは分からないですけど……」


「……」

 おいおい……どこまで見透かすつもりだよ、こいつ……。


「これについても、なぜだ、って思っているでしょうから、答えておきますよ」


 不敵な笑みは変えないまま、ぐるっと回り込み、圭の財布を指さした。

「これ、商品棚の前で財布を取り出したからですよ」


「……財布?」

「ええ。だって、君、既に五百円玉は握っていましたよね」


 そう言われ、圭はさらっと左手に視線を寄せた。確かに、五百円玉を握っている。


「これは、さっきわたしが拾ってあげたやつですよね? そして卵サンドは一個、二百二十円。そこに並んでいる残ったパンを見ても、二百五十円以上あるパンはない。

 であれば、パン二個程度なら、五百円玉一枚あれば十分ですよね?」


「……確かに」


「でも、君はその五百円玉とは別に、財布から確かに、お金を取り出そうとしていました。ということは少なくとも、パンを二個以上買おうという意思があったことが分かります。だって、五百円以上するパンなんてありませんからね」


 チラリと売店に残るパンに視線をよこす。確かに、五百円以上するパンはない。そんなパン、コンビニでもそうそうは見かけない。あったとしても、高校生相手に売れる事はないだろう。


「五百円玉ひとつあれば、今売店で言っているパンならどの組合せでも二個以上買える。でもさらに金を取り出すということは、三個以上買うという可能性が浮上する。

 三個買うとなれば、五百円じゃ足りませんからね。


 でも、果たして一人でパンを三個も食べるでしょうか? 一個でも十分な量は取れますし、君の雰囲気から見てもせいぜい、一度に食べる量は二個が限界ってとこじゃないですか? もちろん、おやつの分とか、痩せの大食いでしたら、この推理は破綻ですが?」


「いいや……その通りですね」


「それは良かったです。では、推理も終盤です。あとは、最初になぜ五百円玉を落としたのか、ということ。


 一つは、財布からお金を取り出したときに落としたということ、でも、それにしたら、わたしが拾って君に渡すとき、君は財布を握っておらず、ポケットに閉まったままだったのは、少しおかしいですよね。


 ということは、五百円玉は財布に入れず、あらかじめ持っていたということですよね。

 でも、握った五百円玉にプラス、財布から金をさらに取り出し、買い物をしようとしたことを考慮すれば……」


 そう言って、男子生徒は二つの卵サンドをもう一度、圭の目の前に持ってきた。


「その五百円玉は、誰かに購入を頼まれて渡されたもの。そして、お釣りを返すため、その分は単独で支払い、自分は別に頼むため財布にも手を出した」


 男子生徒は一気、顔を近づけ「つまり」と、言いながら、今度は右側の口角を釣り上げた。

「君は、君自身のパンと、頼まれた人の分のパン、卵サンドを含めた二個以上を購入しようとしていたんですよね?」

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