第4話 圭対王
次郎が圭とこの女子生徒の仲を特別なものと勘違い次第しているところ、圭は警戒を怠ることなく、女子生徒と向き合う。
「”たまたま”……ねえ。まあ、たまたまなら仕方ないですよね」
「そう。わたしの気持ち、分かってくれてありがとう」
にこやかに笑みを浮かべてくる女子生徒。こいつはやはり、意図的に次郎に誤解を招くようなセリフを選んで吐いているな……。
だが、それはこちらとしても都合がいい。
「次郎、ちょっと、席を外してもらっていいか?」
「うん? やっぱそうか、そうだよな。俺は邪魔か」
次郎は誤解してくれたまま、自然な流れで席を立とうとする。
変に次郎にいてもらってボロだされるのも困るし、こいつの本当の意図を探ることもできそうにない。早々に次郎にはこの場から立ち去ってもらう必要がある。
そう思ってのことだったが、立ち上がった次郎に対して女子生徒は、まるで精神的な距離を縮めるように、そっと次郎の肩に手を置いた。
「別にわたしは構わないよ。友人の関係を邪魔するような真似、わたしはしたくないから。大丈夫、彼とはまた別の時にじぃっくりと話をするから」
おそらく意図して女子生徒は次郎にも顔を寄せていった。そんな次郎は閉まらない顔をしながら「そうですか?」と言って、再び椅子に座り直す。それと同時に女子生徒のほうが椅子から立ち上がろうとする仕草を見せた。
「あ、そうそう」
だが、その仕草を途中でやめて、座り直すとそっと人差し指を伸ばした。
「気になっていたんだけど……」
そのまま指をそっと圭の方に向けてくる。
「君の正体って、解放者だったりする?」
……一瞬思考が停止仕掛けた。
な、ま……まさか……何を言っている? どういうことだ? なぜ圭が解放者だと? とこから情報が漏れた?
いや待て、落ち着け……確信など持っているはずがない。あくまでも可能性として……声をかけてきたというだけだろう。だが、なぜ、そんな推測に至る?
こんなことを突然言い出したのは、それなりに可能性を見出したからなのだろうが……どこで……何から、その可能性を見出した?
分からない。そんな可能性など……どこから生まれる?
少なからず、こいつは圭が解放者ではないかと疑っている……。それか……もっと先の何かを?
ここでなにかしら、圭がボロを出せば、それで圭がコントラクトを持っているという確信が得られるかもしれない。そんな考えか?
だが、今更圭がコントラクトの関係者だと知ってどうなる? ネイティブは既に解散されている。圭がネイティブであり、コントラクトで支配されていたことを知ったところで今更過ぎる情報だ。
ってことは、やはり解放者である疑いを? それでもし、圭がスマホを持っていることが……すなわち嘘ついで誤魔化したことが発覚されれば、疑いを濃くされる?
だめだ、いくら考えてもキリがない。とにかくこれ以上、返事に時間を空けるのはまずい。まずは、何も知らないという体で質問を返してみるか……。
とにかく冷静、平常を装って……。
「解放者? なんのです?」
質問を返しながら次郎を見る。次郎、頼むからボロを出すなよ……そんな意味を超えて視線を送る。
流石に次郎も圭の思いは理解してくれたようで、ただ黙って行く末を見守ってくれている。
「知らない? コントラクトの支配形態が一部崩れたって話だよ。ネイティブっていうグループが解散して、それを促した存在、それは解放者」
「へぇ……で、それが俺? はぁ……何を言っているのですか? 前、あなたにはガラケーしか持っていない、コントラクトとは関係ないとはっきり言いましたよね? なのに、俺が解放者? いったい、どういう推測でそうなったんですか」
「ふふっ、どうしてだと思う?」
余裕だとでも言うように優しい笑みを浮かべる女子生徒。全く、こいつはマジで油断できない相手だ……。
「あっ、そうか!」
その時、突然次郎が声を上げた。そして、ポンと手のひらと拳で叩く。
「この人って、まさか、前に圭が話していたあの先輩か。キングダムのリーダーって名乗ってきたっていう人?」
なに……突然何を言う次郎……。
次郎は自分の失態にまるで気づいていない。
だが、その王なる女子生徒はさっきとは違って、あからさまに「してやったり」という不敵な笑みを一瞬浮かべた。
「あれ? 君、話しちゃったの?」
……しまった……解放者であることは次郎も合わせてごまかしてくれたみたいだが、どうやらそこまでは気が回らなかったらしい。
「なんだ、てっきり、二人が男女の関係なのかと……うん? あれ?」
圭と女子生徒の間の雰囲気に次郎も違和感を覚えたらしい。戸惑いを見せながら、圭と女子生徒の顔を交互に見てくる。
対して女子生徒の視線は、次郎など目にもくれず、完全に圭の方へと向けられていた。




