第2話 『大丈夫』
圭と亜壽香の間で無言の時間が続く。
その間、圭は冷静に亜壽香の言葉を知らず知らずに分析していた。
やはり……別に本気で圭が解放者だと疑っているわけではないらしい。でないと、困るし、もしそうならこいつは一体どういうルートで情報を得たのだって話になる。
ただ、この亜壽香の言動を見る限り、亜壽香の「大丈夫」という言葉は嘘なのだろうなと思ってしまった。本当に大丈夫だというのなら、そもそもこんな話題を出してくることはなかったと思う。
少なくとも、何かしら亜壽香も経験をしているからこそ、こんな話題がでてくるということか。そこまで考えればやはり、コントラクトの面倒事に巻き込まれていると考えるのが自然な結論。
亜壽香も実はグループ:ネイティブだった、ネイティブに支配されていた人物で、解放されたことで、解放者の存在を知ったということか……。
いや、その可能性だけじゃない。グループ:キングダム、それ以外にも支配形態のグループは存在しているという噂ならいくらでも聞く。ネイティブは解放されたとしても、それ以外の支配は現在もなお、なお継続中であることに変わりはない。
亜壽香は恐らく解放者の存在を知ったとき、すなわちグループ:ネイティブが解放されたことを知ったとき、自分もいつか解放されるのではないか、と思ったのではないか。いや、解放されたい、そんな感情が押し寄せた。
そうであれば、さっきの会話の意図も読めてくる。亜壽香は……解放者を求めているのだろう。
だが……今の圭に亜壽香を開放してやるという勇気や覚悟は残念ながら持ち合わせていない……。本来ならここで圭が解放者だと言って、支配している奴を倒すのが理想だろうが。理想は理想、現実とは違う。
というか、恐らくというだけで亜壽香が誰かに支配されているという証拠があるわけでもない……。可能性があるというだけで、こっちがそこまで考える必要もない。
まず、亜壽香がそう言ってはっきり分かれば……その時が来たら、改めて対策を立てればいい。
って……これって逃げているだけなのかな……。
でも……せっかく戦場から助かって生きて帰ったのに……また戦場に身を投じる覚悟は……。本当に……行かなければならない理由でもなければ……踏み出せそうもない。
「あれ? さっきまでの満足気な表情から変わった? なにか思い出した?」
「ん? いや……何でもないよ。大丈夫」
結局、圭もまた……少なくとも圭は偽ってこの「大丈夫」という言葉を使っていた。
けれども亜壽香の姿はやはりいたって普通。
本当に支配されている側とは思えないほど亜壽香は……元気いっぱい。それは……やはり偽りの顔なのだろうか。圭には分からない。
「そら、さっさといこうぜい。遅刻しちゃうよ」
男っぽい口調にプラス、えらくオーバーに手を振る亜壽香。
そんな姿を見て自然と笑みをこぼしながら圭はさらに足を歩めた。もう学校の校門が見え始め、登校時間もじきに終わる。先先と早足で進む亜壽香を追いかける形で圭も門をくぐろうとした。
その時だった。門にもたれかかるように立っている女子生徒が一人。
最初は特にその生徒などスルーで亜壽香を追いかけようとしたのだが、そんな圭の耳元に女子生徒が近づいた。
「放課後、フライハイトで待っています。助けてください」
それが圭にかけられた言葉だと気づき慌てて振り向く。しかし、その女子生徒は何事もなかったかのように校舎に向かって既に歩み始めていた。
なんだ? もしかして告白とか?
ってなわけはないだろうが一体……ん?
あれ?
あの後ろ姿……茶髪のショートヘア……。小柄な……。
そうだ。あれは……解放者の正体に感づいても仕方がない人物……圭のことを口止めさせていたあの女子生徒だった。
そして……契約によって助けを求められれば……絶対に助けなければならない相手。




