第13話 2回戦先攻
「さてと、今度はこっちが出題者の番だな。どんな問題をだそうか……」
そう言って、椅子に座り足を組む圭。それにつられるように次郎はやがて立ち上がり、圭の前にもう一度立ちふさがった。
やはり、圭と止めるという契約は全力で全うするわけだ。戦意は失っていない……いや、失うことが、どうあがいてもできないのか……。
「……お前と同じよう、硬貨でも使ってみるかな」
圭もまた、財布から硬貨を一枚取り出した。そして、それを次郎に投げ渡す。次郎は、とっさの判断で手を出したらしく、しばらく手のひらで硬貨が踊りながらも、やがて次郎の手の中に収まった。
「百円玉?」
「問題を提示する。俺が今、お前に貸している金額は百円である。マルかバツか」
「……は?」
ここに来て、まだ間抜けな顔を次郎は見せた。だが、そこは次郎がさすがというべきか、コントラクトの影響力がさすがというべきか、真剣な表情に変えて、その硬貨を見る。
圭が用意したこの問題は、貸すという定義のほかにも、注意すべき点がある。渡した硬貨が本物かどうか……という点だ。
さて……お前は、どう
「俺の手の中に硬貨がある。よって、マル」
答え……たっ!?
今度は圭が思考を一瞬停止させる番だった。だが、慌てて首を横に振る。
「おいおいおい、ちゃんと考えたのか? 少しは思考してみろよ。それとも、俺の話は聞かずに、五分五分の可能性にかけたわけか?」
「……無論、それもある。今更、お前の言葉を聞いて思考しても、お前の手のひらの上で転がされてるような気がしてならないからな。
それに……今の俺が下手に思考したとしても……裏の裏を掻いてしまって、散々な目に遭うような気もする」
「……なるほどな……」
下手に思考しても読まれて終わり、だったら直感を信じる方がいい。
確かに、そういう過程を得てのフィフティーフィフティーは、投げやりのように見えて、戦術のひとつとなりうるだろう。さっき言った、切羽詰まった状況ってやつか……。
「でも、一応思考はしたつもりだけど……。
まず、貸すという定義か……この百円玉は投げ渡されただけで、貸すとは一言も言っていない。だけど、金は持っているだけでも価値はある……ってことを考えたら、これでも貸したという定義に当てはめることもできる。
どっちとも取れるから、もう考えるのをやめた。
で、この硬貨が偽物かどうか、という判断だが……ぱっと見たところ、本物っぽい。無論、偽物っぽい偽物は用意しないだろう。
果たして一高校生に、精巧な偽物硬貨を作ることが出来るだろうか、と考えたら、難しいことだろうと結論づけた」
なるほどね……。
ちなみに硬貨は欠損しても交換はしてもらえるが、模様が判断つかなくなったら、交換は受け付けてもらえない、すなわち価値がなくなる。
故意にするのは犯罪だが、一応模様を強引に削って価値をなくすことならできる(※絶対にしてはいけません。貨幣損傷等取締法に引っかかります)。
ほかにも方法として、偽コインをネットオークションで取り寄せる方法もある。エラー硬貨などはその代表だ。値段は張るが、大抵捏造なので金としての価値はないに等しい。
これも法を犯した上で作られたものである可能性が高いため、避けるべきだが……。
まあ、偽の硬貨を使うとしたら、遠目で見せるという形でちゃちなおもちゃコインを使うことになるだろう。つまり、次郎はそれなりに、こっちの考えは読んでくれていたみたいだな。
まあ、何はともあれ……。
「正解だ。見事」
圭はちょっと満足しながら、回答を告げた。予想通り、というべきか……そうなって欲しいと思っていたことがちゃんと起きたというべきか……。
とにかく、圭の想定内か……。
もう、既にコントラクトや次郎の実情を探る工程は終了している。あとは……次郎が見せる全力、本気がどれほどのものかを確かめるだけだった。
「次郎、さあ、問題を出せ。あと一点で延長戦だぜ」




