第12話 必勝法
「そしてこれが、このゲームにおける必勝法の一つだ」
そう言い切るより前に、圭は机にかけていた足を前に突き出す。それによって当然、机はバランスを崩し、机の中身を床下にばらまかんと倒れ始めた。
次郎は慌てて机の起こしに行くが遅い。
次郎が机に手をかけた時には、床下にパサりと乾いた音を鳴らしながら、ハンカチが落ちていた。
「あっ……」
次郎が机を投げ捨てハンカチを拾いに行こうとするが、それより先に圭のそのハンカチを盗み取った。
それをひらひらとさせてみるが百円玉は落ちてこない。床下にも転がった形跡は見られなかった。
「さて、回答だ。机の中に百円玉はなかった。答えはバツだ」
ハンカチを丁寧に折りたたむと、次郎の前に落とした。次郎はゆっくりとそのハンカチを手に取る。そして、自分のポケットに手を伸ばした。中から出てきたのは、百円の硬貨。
「ふざけるな……こんなのいくらなんでも……ふざけてるだろ! これじゃあ、それこそゲームになってねえだろうが! 机を倒して、中身を確認? じゃけんじゃねえ!」
「うん。俺もそう思う。で? 答えは?」
「こんなの……正解なわけ……」
そこに来て次郎の様子が変わった。さっきまで剣幕な表情を見せていたのに、とたんに震え始める。そして、ボソリと「正解」という単語を口から告げる。
そう、この一戦の圭の勝ちとなったわけだ。
「これで、二点だ。おい、次郎。追い込まれたぞ。次勝たなければ、自動的に負けるぞ。今の次郎に、まず引き分けに持ち込める技量はあるかな?」
次郎は一向に立ち上がる気配がなかった。当然、ゲームを進める気はなさそう。
「なんでだよ……、こんなの認める気は……なにのに……」
「納得できないか……でも、しょうがない。コントラクトで、机を倒してはいけないなんてルールを定めてはいなかった。
といっても、これが適用されるかどうかは、はなはだ疑問だったけどな……でも、お前がそうやって正解だと告げたことが、なによりコントラクトが認めたという証拠だな」
「エンゲームは……コントラクトの判定が全てだと?」
「そうなるな……といっても、コントラクト自体はタダの……強制的な契約アプリに過ぎない。少なくともゲームをするためのものじゃない。
となれば、コントラクトを利用してゲームをすると言うのならば、契約で決めたルール以外は、全くもってない。
いくら相手が反則だと言おうが、コントラクトは認める。あくまでも反則だと言い張りたいならば、グチグチあとから文句言わずに、黙ってゲームが始まる前に、反則を指定しろってことだ」
といっても、本当に自分のやったことは理不尽な気もするがな。圭がやったことを例えるならば、先生が「ダメ」と言っていないからといって、テストに教科書やパソコンを引っさげて挑むようなものだ。
つまり、常識を考えろ、常識をって話になる。
だが、コントラクトを介したゲームになれば、途端にそれは崩壊する。
常識はコントラクトで指定しておかなければ、文句を言うこともできやしないというわけだ。
特に今回、回答をするにあたって、出題者は嘘をつけない契約はしておいた。それが、こう言う状況を生み出した。