第9話 正解は?
『嘘』という答えを出した次郎に、圭は内心、感心していた。
なるほどな……次郎、少なくとも今、お前は全力で勝ちにきているのはわかった。本気で考え、本気で止めにこようとしていることは分かった。だが……
「残念、答えはマルだ」
圭はさっきまでのしくじったという精一杯の演技をやめ、近くにあった机に体重をあずけた。
思惑通り次郎が動いてくれたことに、思わず笑みをこぼしながらも、堂々と次郎と目を合わせる。
「待て……ウソつくなよ」
「嘘なんか、つけねえよ。そこは契約しただろ?」
「で、でも……この机の中に……」
「だったら、覗いてみろよ」
次郎はあまりに圭の答えに納得できないようで、机の中をグチグチ言いながら除く。やがて、引っ張り出してきた圭のケータイを掴んで圭のもとにやってきた。
「ふざけんな! やっぱあったじゃねえか。それとも、これは問題提示後に隠したやつだとでもいいたいのか!?」
「いいや、問題提示時には既に机の中にあった」
「だったら、お前は今、持っていなかっただろうか!」
いらだちを隠せない次郎に、圭は指を一本立ててみせた。
「あ、そうそう。俺のケータイに電話をかけて場所を見つけるってのは、俺の想定内だったぞ。ちょっと演技をしてみたら、ころっと騙されてくれたな」
「……え?」
思わず、目が点になる次郎を見て、思わず苦笑してしまった。
「俺にとって、今回の問題の鍵は、次郎がそこに気づくかどうかだった。そこまで考えつけるのならば、次郎は本気……異常なまでに本気だと、思った。
はっきり言って、普段のお前の性格なら、そこに行き着かないだろうと思ったからな」
「な……なんで……」
「お前は本来、純粋馬鹿だからだ。フライハイトで女子をのぞき放題だと言うぐらいにはな。だいたい、俺を騙したくせに、俺に弁解を求めていた時点で、お前は甘い。
そんな奴は、このゲームのルールの根本を崩すようなルールは、たとえたどり着いても、実行しなかったような気がする。それは反則だろうって」
「……いや、どうだろうな?」
「やっぱり、そうだったらしいな」
「は!?」
次郎の反応(ごまかし方)を見て確信を持てた。
たぶん、今次郎は今一度冷静になって考えただろう。普段の自分なら、どう考えるかと、いうこと。逆に言えば、今の次郎は普段の次郎じゃない。
言ってしまえば、さっきの語りはそれを知るためのフェイクに過ぎない。
「あと、俺がマルを答えとした理由も答えておこうか。それは単純、”持っている”の定義を”所有している”かどうかという意味で言ったからだ。
このガラケーの所有者は紛れもなく俺だ。だが、お前はわざわざ机の中に隠したという事実をもとに、持っているの定義を”身につけているか”と、判断してしまったわけだな。
俺が持っていると見せかけるために、机の中に隠したと、考えたんだろう」
次郎は紛れもなく、はっきりと威圧的な視線をこっちに向けていた。どうやら、まだまだゲームは序盤に過ぎないと、意気込んでいるらしい。
そして、こっちの言い分には納得してくれたみたいだ。と言っても、このゲームはコントラクトが絶対。コントラクトが決めた答えが全てであり、それを覆すことは、絶対にできないのだがな。
たとえ、相手がどれだけ、納得できないことであったとしても。




