第6話 一筋縄ではいかないらしいな
ルール説明を一通り終え、スマホを持ち直した。
「じゃあ、具体的に契約内容を決めていくが……」
圭はスマホで現在、圭と次郎のあいだに契約されている『友情契約』を引っ張り出して表示させた。その画面には、契約更新のボタンが配置されている。
「現在の契約を破棄するのは、お前にとっても……俺にとっても都合がよくないのは、重々承知しているはずだ、だよな?」
そう言って友情契約の条文を指さした。友情永遠契約、圭のことを口外しないという契約と、次郎のことを圭が許すという契約の三つだ。
「あぁ、その契約がなくなれば、おそらく一瞬で、現状がガラリと変わっちまう」
「というわけで、残された三条でゲームの契約をする。よって、必要最低限の契約のみで、進めていくぞ」
そうして、とりあえず、自分が思っている契約内容を記した。
『友情契約』
※以下『A』は次郎、『B』は圭のアカウント名を差す(この文は条文ではない)。
第四条 AとBはこれからゲームを行う。このゲームの勝敗に応じて以下を軸とした契約をお互いで結ぶ。
2.Aが勝者の場合、Bはネイティブatpを倒すための策をBに公開すること。
3.Bが勝者の場合、Aに対して可能な限りの契約を要求できる。
第五条 A、B双方は、ゲーム内で問題を提示するとき、その答えであるマルかバツかを脳内で確認しなければならない。そこで確認した答えは、その後変えることができない。
第六条 出題者が回答の成否を判断するとき、嘘を言ってはならない。
「こんな感じでどうだ?」
「随分と強引に話を進めるな……でも、契約内容は……特に問題はないのか。ルールの内容自体は公平みたいだしな……。
確かにお前の言うとおり、ネイティブへの反抗をやめろという契約は効果が薄いかないだろうからな……それはなくてもいいだろう」
契約内容自体に文句を言ってこないのか……
。
「本当にこれでいいのか? 互いに要求する内容、明らかに差があると思うが?」
こっちはなんでも要求できるのに、次郎は策を話せ、というだけ。それで納得するのか?
「逆に聞こう。こっちの要求をさらに引き上げたとして、それでもなお、お前、エンゲームを受ける気なのか?」
「と言うと?」
「お前、既に俺じゃなくても、あの女子生徒の手を借りる選択肢があるって言っただろ? つまり、極論、このエンゲームを受けなくてもいいわけだ」
「……………………で?」
「だが、受けた。それは、今の契約内容であれば、受けるメリットがあると思ったからだろ? 逆に言えば、これ以上俺が要求を突きつけると、エンゲームを降りると言い出すんじゃないのか?
というより、お前。できるなら、このゲームを避けたい、とも思っているだろう?」
「……」
「さっき、契約内容の差について、こっちが了承したのに、わざわざ指摘したから、そう思った。
もし、俺が契約の条件を釣り上げれば、それを理由にゲームを断っていた、違うか?」
……思ったより随分としゃべるな。そして、……圭の思惑を掴んでいる。確かに圭は、少しばかり、このエンゲームをやめる口実を探そうとしていた。
現状があまりにも圭にとって有利すぎる条件だ。この条件である以上、圭は受ける以外の選択肢はかなり、ないに等しい。ほぼほぼ、ノーリスクハイリターンの契約だ。
逆に言えば、そのエンゲームに受けるということ自体が、次郎の思惑のどおりになっている感じがして、少しでも、拒否するきっかけを求めていた。
「黙ってるってことは、けっこう図星だったんじゃないか?」
「……ノーコメントだ」
次郎、思ったよりもずっと、物事を冷静に見てくるやつらしいな……、そして同時に、本気だ。
あそこで契約条件を釣り上げようとしなかったのは、逆に言えば次郎にとってこのエンゲームは絶対に行いたいものだということ。
こっちにある程度……かなり有利な条件を与えてやってでも、このエンゲームを行いたかった。もっと言えば、俺が持っている対ネイティブ用の策を知りたいということだ。
コイツは今……俺の策を暴くことに、全力を尽くそうとしているわけだ……。
ん? 全力? 全力……もしかして、次郎……行動がコントラクトに影響を受けたものというわけか? だとすれば、契約相手、その内容は……。
いや、確信に至るのはまだ早い……それもゲーム内で暴けるかものか……。
「結局、この契約でゲームを行っていいんだな?」
「圭がそれでいいならば」
「よし、ゲーム、スタートだ」




