第14話 コントラクトのルール
休日。朝から圭は早速策を練り始めていた。
まず、ネイティブを倒すにしてもやはり、コントラクトを介してということになりそうだ。というよりそうする他ない。なら、まずはコントラクトを知る必要がある。
その中でどうしても気になっていたことがある。ネイティブが言っていたコントラクトのルールだ。大原則とか言っていたやつ以外にもあるはず。
コントラクトをいろいろ見ていると、確かにそのルールのページが見つかった。
「って、うぅわ。ズラッと書かれてる……」
もう、とんでもない量だった。想像以上に細かくルールが決められているらしい。だが、逆に言えばこのルールの中で上手く使えるものもあるんじゃないだろうか。
そう思い、圭はルールにしっかり目を通し始めた。
コントラクト ルール
第二章 基本ルール
・契約には二つのアカウント同士で結ぶ契約(以下「個々契約」という。)と三つ以上のアカウント同士で結ぶ契約(以下「集団契約」という。)がある。
・契約を交わす場合、相手に要求する契約内容及び条件(以下「契約条文」という。)を提示する必要がある。ただし、契約条文はその契約を交わす者全員(以下「全契約者」という。)の人数×3つまでとする。
2 前述のルールから個々契約の場合、契約条文は六つまで提示可能となる。ただし、契約条文の上限は十二個であり、五人以上契約者を増やしても、これを増やすことはできない。
3 以下、このルールに基づいた行動を「提示」という。
……いきなりややこしいじゃねえか、この野郎。某カードゲームのテキストみたいだな。
ただ、要約すれば契約するのに、二人同士なら六つまで条文を提示できますよ、ってことを言いたいらしい。三人なら九つまで。
だから、『グループ:ネイティブ』の集団契約はたくさん、契約条文をかける枠があったわけだ。
理解して、さらに続けて読み続ける。
・提示された契約条件に対して全契約者がアプリによって出されたポップアップウィンドウの同意ボタンを押す(以下「同意」という。)ことで契約内容が施行される(以下「成立する」という。)
・必ず全契約者が契約条文を提示する必要はないが、誰も契約条文を提示していない(契約条文が存在しない)状況下では契約は成立しない。
・同じアカウント同士で個々契約を結んだ場合、その契約が成立している限り、更に別の契約条文で新たな個々契約を結ぶことはできない。
・集団契約は重複して契約することができる。ただし、似たようなメンバーでの集団契約の重複を避けるため、5人以上で契約する集団契約であり、かつ、以下の条件の場合、新たに集団契約を結ぶことができない。
1 自分がすでに契約している集団契約のメンバーの三割以上(四捨五入)が入る新たな集団契約の場合。
2 これから入る集団契約のメンバーの内、三割以上(四捨五入)が既に自分と集団契約を結んでいるアカウントの場合
・契約を一つでも成立している状態ではアプリをアンインストールすることができない。
色々とややこしい部分もあるが、一通りコントラクトというアプリのことが分かってきた。ただ、このアンインストール不可の文には妙な悪意を感じるのは気のせいだろうか。
もっと気になるルールもある。要約すれば「個々契約はひとつまで」ということだろう。
すなわち、ネイティブと圭はすでに個々契約を結んでいるから、次にネイティブと結ぶ場合は今ある契約分を変更するか、一度解除するしかないというわけだ。
といっても、大半の支配条文は集団契約になっているから、あまり上手くはいかないのか……さすがに考えている。
他にも章に分けられていろいろルールがあった。
第三章 アプリの機能説明及びその制限
第四章 表題及び契約条文の内容における制約
第五章 契約の更新並びに破棄及び契約条文一部の破棄
特に第四章は重要なことが書かれていた。いくつかを特にしっかり読んでみる。
・契約には必ず表題を作らなければならない。表題は全契約者それぞれが自分の成立している他の契約の表題と名前が同じになってはいけない。
2 完全に異なる間同士の契約の名前は同じでも問題はない。
・契約においてその契約又は他の契約の表題を名称として使用することは可能であるが、その場合、表題を一字一句たがわず記述し、さらにその契約者の代表を一人明記して契約の対象を明確にしなければならない。
2 対象が明確であれば書き方は特に問われない。
(例1:コントラ251が契約するラクト・コントラ間借用契約書
例2:ラクト・コントラ間借用契約書「代表、コントラ251」 )
これはネイティブが利用していたルールだ。個々契約で集団契約『グループ:ネイティブ』を指定していた。逆に言えばこう指定するため、同じ表題を作ってはならないということ。らしいな。
あとはこんな指定もあった。
・このアプリには契約条文を確認するAIが搭載されており、AIが以下のルールに従っていないと判断した契約条文は成立しても効果はえられない。
1 契約条文に使用できる言語は日本語のみである。それ以外の言語が使用された条文は成立しても効果は得られない。
2 日本語として意味が通じない場合、成立しても効果は得られない。
3 契約条文は命令のような形のものでも成立する。ただし、「命令にしたがえ」「逆らうな」などといった相手の自由が大きく制限されてしまう契約条文は成立しても効果は得られない。
4 対象が誰であろうと人を殺す、または契約者が死ぬような契約条文は成立しても効果は得られない。
5 現状において実行不可能な契約条文は成立しても効果は得られない。(例:乗り物を使わず足だけで赤道を一日で回る。太陽を素手で破壊する。一日一回、契約者は十分間空中戦を繰り広げる。翼を生やして空を飛んでこい。等)
6 他と契約することを不可能にする契約条文は成立しても効果は得られない。
特に、3~5が気になった。これはある意味、契約できることを制限する内容だ。やはり、強制的に契約が守られてしまう以上、契約できる内容もしっかり制限されているらしい。
これを読み解くに、契約で無理やり忠実に支配するのは不可能みたいだ。あと、人の死も対策している。完全な奴隷は作れないと見た。
逆に言えば、どれだけ支配される側になろうとも付け入る隙はあるということだ。
こいつは、結構希望を持ってよさそうだな。




