第2話 嫌悪感
教室に入ると自分の席に向かって一直線に歩み進んだ。そんなところをすぐさま寄ってきたのは次郎。圭が鞄を横に置き椅子に座り込む頃、次郎は圭の机に手をついた。
「あの……圭? ちょっと昨日のこと……なんだけど」
圭は一応次郎の顔を見るが、その途端に不快感が全身に走り出した。
「話すことはない。お前が裏切った、ただそれだけだろう?」
それが、口にまで登っていた結果、吐き出された言葉は突き放すものだけだった。
「それは……そうなんだけどさ……やっぱ言い訳はよすよ。悪かった。たださ、ほんの出来心……ひとりじゃ……寂しいんだよ」
「はぁ? バカじゃねえの? だったら友だちを巻き込むのか? お前からすれば俺はよっぽどカモだっただろうな? 何も知らないひよっこ相手を騙すだけなんだからなぁ」
「本当に悪かった。でも、安心していい。俺とお前は同じ立場だ。俺はネイティブ側じゃなく、ネイティブに支配され」
「どうしたらそれで安心できるんだ? 本当に友だちだと思ってんなら、今すぐあのネイティブとかいう野郎に土下座でもなんなりして、俺の契約を解除させろよ」
「すまん……それができたら……苦労してない……」
「だからいっそ、その苦労に俺を巻き込んだというわけだ。とんだお友だちだよ」
いざ、次郎を前にするとまともに話し合いをしようと思うことができなかった。大体、今次郎と話し合いなんかして何かなるのか? 何もならない、あいつは裏切った。圭はこの状況を打破するすべはない。話し合いなど……無意味。
「でも……だってよ……友だちと……」
「もう、友だちじゃあ……ねえんじゃねえのか?」
「……圭。でもよ……」
そんな時、チャイムが教室に流れ始めた。朝、一限目が始まる五分前の予冷だ。
「でもでもうるせえよ。ほら、チャイムなったぞ。俺は一時間目の準備をするから、ほらどけよ。机から手をどけろ」
次郎が机につくその手を払いのけた。そこに教科書なり筆記用具なりを出していく。
「そのさ、圭……俺に弁解させてくれないか? 魔が差したっていう」
「だったら、また魔がさす前にさっさと席戻れよ。お前も準備してろって」
シッシと手を振り追い返すしぐさをして見せる。しかし、そんな時、二人のスマホが同時に音を放った。次郎が先にスマホの画面を見ると何か反応し、圭にスマホを見せてきた。
それはネイティブのグループチャットだった。あれからネイティブに言われ圭もネイティブatpが管理者のグループチャットに入れられた。
これに入らないと納金の場所が分からず、ただ滞納することになるぞ、と脅されては入るしかなかったのだ。
でも、今日は月一日とは程遠い。月半ば。こんな頃から指示を出すわけでもあるまい。そう思い次郎のスマホを覗き込んだ。そこにあったのは招集命令。
「ネイティブ全員に告ぐ。各自指定された場所時間に集合せよ」
「指定された場所時間?」
「ばらばらに集まるんだよ。一斉に集まらない」
……なぜそうする?
いや、答えは単純か。集まる人数が多いのだろう。何人も一気に空き教室にゾロゾロと踏み入れるのは目立つから避けるわけだ。
しかし、なぜわざわざ集めるのだろうか……このチャットで話してしまえば終わりだろうに。
だが、そこまで考えたところで次郎との今の仲を思い出し、表情をこわばらせた。
「いつまでいてる? さっさと戻れよ」
「……分かったよ。本当に悪かった」
そう言って次郎はやっと圭の席から離れ自分の席へと戻っていった。