第12話 圭たちのイカサマ
「そう言う君たちこそ、随分と運が良かったみたいですねえ?」
こっちが仮の王たちのイカサマを考えているとき、田村がふと口を開きだした。
「あの最後のタイミングでジョーカー、普通引きます? だとすれば、漫画みたいな引き運ですね」
随分と不敵な笑みを浮かべつつも圭の顔を覗いてくる。
「……俺も驚いている。本当に、運が良かったよ」
「まさか、運じゃない。なにかしたんですよね?」
……確信できる情報があるわけでもないはずなのに……。
「別に話す義理はない。そっちだってイカサマの方法、教えてくれないんだろ?」
「証拠もないはずだしね、イカサマをしたという」
「なら、同じだ」
しばらく田村は沈黙をしたが、すぐ鼻で笑うと姿勢を元に戻した。
ちなみに、田村の指摘は半分正しい。運要素がかなり大きかったが、ジョーカーを引けたのはある程度故意だ。
仕掛けの最初は四ラウンド目。圭が始めてディーラーになるターン。シャッフルするとき、失敗しカードをばら撒いたがあれは故意だった。
そして、その散らばったカードの中からジョーカーを探す。上手く探し出せるかが、第一の運。
結果として、森が拾ってくれており、最後にジョーカーを受け取った。その時、圭はそのジョーカーの裏面の端に印をつけておいた。ほんの少し折り目を付けるように爪を立てておく印。
で、最終回、八ラウンド。再び、圭のディーラー。シャッフルをしながら、端を整えるフリして、印を探し当てていた。そして、その印を束の真ん中より少し下あたりに置くよう、シャッフル。
で、カットを田村に依頼した。一度目、田村にカットをしてもらったとき、ちょうど半分あたりで束を分けてカットしていた。で、実際二回目を真ん中あたりで束を分けてカットしてくれた。これが第二の運。
結果として、ジョーカーが束の上のほうに来てくれたことを確認。あとは、そのジョーカーを自分の手札に収めた。
雑ではあるが、ジョーカーを引き寄せるための手段だ。
「契約書ができました。目を通して同意してください」
こうして出来上がった、集団契約『解放命令書』がこの四人の間で成立した。それと同時に森はすぐに仮の王のほうへと近づく。
「では……契約通り、あなたを支配する人物の情報を吐いてくれますか?」
仮の王は「観念しました」とでもいうように手を軽く上にあげてため息をついた。が、その仮の王が田村なみの不敵な笑みを浮かべてきた。
「知らない」
そしてこう言ったのだ。
しばらく、教室内が静かになる。
「「『はっ?』」」
知らない? 知らないだと?
森が仮の王の胸倉をつかみあげる。
「知らない? 何を言っているんですか! いいから、すべてを吐いてください」
「無理だよ。契約しているのに、嘘は付けないからね」
「……っ!」
そればっかりは……仮の王の言うとおりだ。
一応、契約内容に穴がないか読み返したが、そんなことは全くない。
「ま、知らないって一言だけじゃ、満足してもらえないだろうから詳しく言うけど……、あたしは自分の『上の立場』の人物とは直接あったことがない。
ただ、これだけは言える……」
仮の王は指を一本天にかざした。
「それは……限りなく現在の王に近い人物よ」
その仮の王の言葉に圭、森は多く反応をしてしまう。
森はさらに問い詰めていく。
「近い? それはどういう意味ですか? その人の上の人物が王ということですか? 王の……直属?」
「それは……ちょっと違うかな」
「……どう違う?」
仮の王は一度自分のカールに巻いた髪を触る。
「その人物は、王であり……王本人ではない……と思う」
なんともあやふやな物言い。まるで意味がつかめない。
「思う? 確かではないということ?」
「えぇ。ちなみにその人物……わたしの上の立場のアカウントは『レイザー』。ただし、その人物と直接会ってはいない」
森が少しイライラしているようだが、やっと仮の王の胸倉から手を離す。
「全く要領が掴めない。その人と直接会って、集団契約や個々契約を結んでいるんじゃないのですか? キングダムの集団契約を結んだんじゃないんですか?」
「その人物はわたしの目の前でこういったんだよ。『わたしはレイザー本人ではない。いわば、お前を支配する者の影武者』だとね」
その言葉を信じるなら……そのレイザーというアカウントを持つ人のスマホを借りて、その借りた人が代わりに契約した……という解釈になるか。
まさに、事前契約で仮の王に対して森にやらしたのと同じ行為。
「……それを信用したと?」
「信用というより、アリス、君との契約だよ。あくまで開示する情報は「上の立場」。でも、肝心の上の立場のことは知らない。その影武者だけ」
「では、その影武者のことを教えてください」
「それを教えないといけない契約はしていないよ。それにその人物像を伝えることはできない。契約で口外できないことになっているからね」
「……そんな」
ここにきて想定外の事実だぞ……。
王にかなり近づいたというのは、喜ばしいことだろうが、話を聞くに、本当に王に近いという確信すら危ういじゃないか。
影武者……か。面倒だな。
なるほどね……確かに、キングダムの組織を形成する個々契約はいっぱいいっぱいだ。だが、影武者が行けば、影武者は影武者独自に個々契約を結んで、口外させないことだってできる……。
「……ロミオさんは?」
「わたしもありませんよ。彼女と同じ状況です」
田村は唐突に振られるも不敵な笑みで返す。
森はため息をつき、圭のほうを見る。
「どうする? 面倒だよ?」
「……どうするかなぁ」
とその時、誰かのスマホに着信が入り込んだ。それは、契約したまま机の上に放置された仮の王のスマホ。
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「真の……王?」