表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コントラクト・エンゲーム 1編・2編  作者: 亥BAR
第4章 エンゲーム・タッグポーカー
125/130

第9話 幸運

 次は森の手番。それはもう、森に任せるしかない。


「交換は……」

 森は自分の手札を見ながら考え込む。視線は一点、圭のほう。


『ボブ? いい加減にしろよ……。アリスは……どう動けばいい!?』

「二枚で」

 次郎がイヤホン越しに怒鳴る中、森は二枚を差し出した。


『……どう考えても最悪の手だろ……これ』

 次郎の声を聞きつつも、アリスが来たカードを見る。


『うん? あっ、来た! クラブ5とクラブのキングだ! ワンペア!』

 ……キングっ!?


 その次郎からの通信で、自分の手札を思い返した。さっき受け取ったとき、軽く見てそのまま伏せた二枚のカード。

 それは……


 スペードの3と”スペードのキング”。

 ツーペア……しかも、Kハイ。ブタから……一気に進化しやがった……。


 仮面の裏で笑み溢れるが……まだだ。最後、仮の王の交換は?


「わたしは一枚だけ交換するよ」

 そう言って仮の王は一枚を切り、山歩だから一枚引いた。


 田村と仮の王……どちらも一枚交換か……。最低でもツーペア……。やはり……この役で浮かれるわけにはいかないな……。


「では、セカンドベットを」


 セカンドベットは圭から……。

 どうするか……。


 もし、相手もツーペアならこの勝負はほぼ勝ちだろう。こっちはKと5のツーペアだ。Aハイのツーペア以外なら勝てる。

 だけど、この交換の仕方だと、スリーカード以上もあり得る……。


 対してこちらはふたりとも二枚交換、全取っ替えだ。もし、カードをのぞき見できていないなら、この全取っ替えからツーペアになると予想はしづらいだろう。


 ひとまず、弱気なアクションを出してみるか……。

「……チェックで」


 続いて田村。

「チェックですか……そうですね……」

 田村は自分の机に並べる裏向きのカードを、仮の王の前にある二枚の裏向きカードを高度に見た。


「ベット二枚」

 ……二枚……随分と弱気だな……。もっと張り上げてくると思っていたが……。いや……仮の王に判断を委ねたか。


 そして、森。

『なあ、これってどうなんだ? やっぱり、フォールドすべきじゃ……。この二枚、どう考えても誘ってきてるだろ? フォールドさせないために』


 森は思考を重ねる動作をしつつ、仮の王に視線を向けた。

「……ジュリエットさん」

「うん、なに?」


「ゲーム終了後にできる契約条文の数って、チップ差で決まるんですよね?」

「えぇ。十枚差につきひとつという契約よ。つまり、百枚VS百三十枚で勝負が決まったら、勝者が三つ契約条文を設定できる」


 森は仮の王に質問したあと、すぐ圭のほうへ視線を向けていた。一応、それにさりげなく応えるべく、圭は自分が持っているチップに視線を送り、少し触る動作をしてみせる。


「今のチップ差は……52……ですよね? わたしたちが負けてる」

「う~ん……と、たぶんね」


 そこまで会話したあと、森は仮面越しに手を顎に当てた。そして……「ふっ」軽く笑いをこぼす。


「ボブ……このままじゃ、どのみち負けるね」

 唐突、圭に対して言葉をかけてきた。

「あぁ、そうだな」


「……なら、足掻くしかない。コールで」

『お……おい』

  森の手で二枚、ポットに入れられた。


 そして、仮の王の手番。

 ここでの選択肢、コールかレイズか。

 圭なら……レイズか……。何しろ、こっちは全取っ替えしているんだ、畳み掛けるなら、ここしかない。

 だが、田村は2枚で抑えていた……この意味が……。


 仮の王が、さっきの会話をどう捉えるか……だな。

 弱気でのイチかバチかのコールだったか、仮の王たちを乗せるためのコールだったか。そして、彼女らの手札の役は……なんなのか?


 可能性として挙げられるのは、ツーペア、スリーカードあたり。


 ……レイズ以外の選択肢、なさそうだぞ、おい! まずいな、それはきつい……。


「コール」


 ……えっ?


「これにてベッティングを終了」

 仮の王は淡々とゲームを進めていく。


 レイズ……しなかった? いや、まあいい。結果だ……。


「いいね? ショーダウン」

 

 仮の王の合図とともに、全員の手札が一斉に開かれた。


 圭たちのチームの手札はクラブキング、スペードキング、ダイヤ5、クラブ5のツーペアだ。

 対して相手チームは……ハート8、ダイヤ8、ダイヤ2、ハート2のツーペア。……ツーペア!?


 あっぶねえ……ランク差でぎりぎり……圭たちの勝ち。


「よ……四枚全部交換で……ツーペアですか」

 田村が圭たちの役を見て声を漏らす。だが、そこに仮の王がやたらと鋭い視線を見せてきた。

 田村はそれに素早く反応しては、不敵な笑みを浮かべる。


「これは……失礼しました」


 ……この田村の反応、そして仮の王の牽制……。

 やはり、圭の手札の情報が漏れていなかったのか? いや、元々漏れていなかったら話は別だが……、でも序盤を見る限り、漏れていた可能性はやはり高い。


 実際、圭が手札を隠し始めたことで、ランク差で勝てる勝負がでてきているんだ。


 そして、さっき仮の王がレイズしなかったのは……圭の手札の情報が不確かだったから……下手にレイズして逆転されるのを危惧した?


 さて、ここでチップ12枚が圭たちのチームに流れる。これで101対129、残りチップ差、28枚。


 次のゲームで十四枚勝てば同点、24枚以上勝てば……目標の二十枚差にすることができる。厳しいが……まだ可能性は残っている。少なくとも同点だ。


 次、最後のボタンになる圭が山札を回収しているとき、森はこちらに向いてひそかにつぶやいた。


「そうか……そういうことか……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ