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コントラクト・エンゲーム 1編・2編  作者: 亥BAR
第3章 作戦準備
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第9話 奴との遭遇

 次郎の尾行失敗という結果を聞いた頃、別の空き教室へと足を勧めていた。既に森とは別れてひとり、仮面をかぶった状態でいる。


 この理由として、二人同時にあの教室で仮面を取って出て行った場合、森と圭が一緒に空き教室からでるという不自然な動作になるから。まして、仮の王と接触した直後、なにがあるか分かったものではない。


 また、圭たちはそれぞれの仮面の隠し場所を知らない。あくまでも森、次郎、圭の三人が顔を合わせるのは仮面をつけている状態のみ。すなわち、解放者としてのみ。

 仮染めかもしれないが、プライベートではあくまで森とは無関係を突き通す。


 そして、圭はその自分の仮面の隠し場所へと足を勧めていたところだった。ちょうど階段の踊り場。

 圭は静かに硬直した。


 見開きはしたものの、喉からでかかった目の前にいる人物の名はぐっと飲み込む。だが、圭はまるで動けない。


「こ……これは……驚きましたね」

 そう圭より先に口を動かしたのは田村零士。圭と同じように最初、驚愕の表情をしたものの、やがて不敵な笑みをそっと浮かべてくる。


「学校で……仮面ですか?」


 田村の言葉で圭は自然と手が仮面に添えられる。

 まずい……いくらなんでも、圭の顔が仮面の奥にあるということをバラす訳にはいかない。


 ここはもう、迂闊に言葉を発する訳にもいかない。


「これはまた……随分と奇怪な姿ですね……」

 と言いつつ、田村の視線がさらっと圭の足元に移ったのを見逃さなかった。そして、とうぜん俺の足元に学年を示すスリッパはない。

 市販のスリッパ。だが、逆に言えば圭の姿をより一層怪しませる手助けになっていることもここで知る。


「これは……いったいなんなのでしょうか?」


 圭は田村と視線を極力合わせないようにする。そして、声の質、トーンなどを普段とは別のものを意識して短いセリフを吐く。


「演劇部なんです」


 田村は圭の言い訳に一瞬動きを止める。だが、すぐにまた動き始め、俺の体全体を舐め回すように観察し始める。


「演劇部……ですか。なるほど……」

 田村はゆっくり、こちらと目線を合わせようとしてくる。

「確かに演劇部の練習場所はこの棟にある空き教室のどこかだったような気がします。

 仮面ってことは……オペラ座の怪人ですかね? でも……そのヒーローみたいな仮面では怪人と真反対ですね。じゃあ、なんでしょう?」


 どんどん詮索を入れてくる田村。

 

 だいたい、こいつはいったいなぜこんなところにいる? まさか、こいつも演劇部だなんてことはないよな?


 どちらにしも、この人とこれ以上言葉を交わしたらロクなことにならないのは目に見えている。

 今重要なのは、こいつがなぜここにいるのかではなく、圭の顔がバレないようにすることのみ。


「すみません、急いでいるので……では」

 圭は硬直していた体にムチでも打つように階段を駆け下り、田村が立っている踊り場に足をつける。そのまま、すぐに次の階段に足をかけた。


「急いでいたんですか? それは本当に失礼しました」

 田村の言葉を無視し、階段をひたすら駆け下りる。


「でも、急いでいるなら仮面ぐらい外したほうがいいと思いますよ?」

 そのセリフで圭の足が再び止まる。


「仮面をつけたまま階段を降りるのは……見るからに危ないです。気をつけたほうがいいですよ」


 圭の顔が自然と田村のほうへと向いてしまう。

 対して田村は、自分の顔を指でツンツンと突いている。


 だが、その直後、田村の口角がこれ以上ないってくらいに釣り上がる。


「だって、もし足を踏み外してこけて、……仮面が取れちゃったら! どうしようもないですからねぇ!」

 田村はだんだん声量とトーンを上げていき、やがて圭のほうを思いっきり指差す。


「君……解放者でしょ?」


 そう、田村零士ははっきりと言ってきた。

 そこまで来たら……今の圭に取れる選択肢はただ一つだ。


「なぜ……そう思う?」

 いつもより遥かに低いトーンとゆっくりとした口調で告げた。

 必要以上に自分が解放者であることを隠すよりは、この仮面の下が圭であることがバレるほうがよっぽどまずい。


 圭は森に指示したように、自分もまた制服を着崩したり、髪にワックスをかけたりして、雰囲気をガラリと変えておいた姿を堂々と田村に見せる。


「なぜ……ですか……? そんなの、君があまりに奇怪な姿をしているに決まっているからでしょう。巷で噂の解放者さんの正体は誰も知らない。であるならば、可能性としては十分すぎるほどありませんか?」


「ふっ、まぁ、それもそうだな」

「解放者だとばれた瞬間、随分と雰囲気が変わってきましたね。で、具体的に君の正体はいったい、誰なんでしょう?」


「言うと思うか?」

「……ですよね」


 最低限の言葉で会話を流しつつ、圭は階段を下りていく。そして、降りきったあと、逃げるように角を直ぐに曲がっていった。


 そのまま、予定のルートを変更。ずっと遠回りをしつつ、さらには隠し場所を変更し、田村が後をつけていないことを十分に確認。

 やっと、圭は仮面を外すことができたのだった。

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