序章 01 神託の戦乙女
「なんじはおーでぃんにえらばれたりー」
「えらばれたりー」
「ぐんー」
ある日の朝、トスカ村のアーニャが目を覚ますと、ベッドの薄い布団の上で、ちっちゃな……手のひら程度の女の子が三人?三匹。槍を振り回しながら輪となって踊っていた。
非現実的な光景に固まってるアーニャの目の前で、鎧を着こんだ女の子が三人。
本当に小さい。 栗鼠くらいの大きさである。三等身か、そんなものだろう。人形のようにかわいらしい。
「わあ」
これは、きっと妖精だ。そうに違いない。アーニャは絵本で読んだことがあった。
家人の見てない間に靴などを繕ってくれる妖精というのが、丁度、これくらいの大きさだった。
「さあ、あーにゃよ。なんじは……」
妖精が何か言いかける。しかし、アーニャは寝ぼけていた。
まだ早朝である。時はおりしも農閑期。もともと自治村のトスカ村では、領主や都市に対して税を納めるために必死になる必要もない為、農民の朝も遅い。
「妖精が……珍しいなあ」
あくびをしつつのアーニャの呟きに、妖精たちがきっと睨みつけてきた。
「ようせいではないー」
「ぶれいなー」
「ぐんー」
怒ってるようだ。てんで迫力がない。
「わがなはするーずー」
「わがなはひるでー」
「ぐんー」
妖精たちが自己紹介している。
「おーでぃんのつかわしたるヴぁりゅきゅりあなりー」
「ずがたかいぞー」
「ぐんー」
「そう、よかったね」
アーニャは再び、あくびをした。妖精は悪戯好きで遊び好きだとも聞いている。
なにかに成りきって遊んでいるようだ。
「これよりなんじにしめいをいいわたすー」
「かしこまってきくのだー」
「ぐんー」
「遊んでてもいいけど、終わったら片づけてね。妖精さん。
まあ、貧乏人だから、散らかすようなものもないけど……」
言って再び横になり、アーニャは目を閉じた。危機感が薄いのか。すぅすぅと穏やかな寝息を立ててる農民娘を前にして、鎧を着こんだ妖精にひきが顔を見合わせた。
妖精たちの眉が危険な角度を描いた。
妖精たちは頷きうと、槍を掲げる。穂先が煌めいた。
「いたあ!!」
アーニャが飛び上がった。尻を何かが貫いた。焼けるように痛い。
「焼ける!尻が!燃える!いてえ!いでえよ!」
妖精たちになにかをされた。基本的に善性の存在だと聞いていたので油断した。
尻の痛みにのたうち回るアーニャを前に、妖精たちは得意げに槍を振り回しながら胸を張っていた。
「きけ、あーにゃよ。おーでぃんはなんじにしめいをくだされたのだー」
「このせかいにききがせまっている。こんとんのちからがぞうだ……」
「……」
妖精たちが沈黙した。
涙目になったアーニャが妖精たちを睨みつけながら、枕元に置いてあったのし棒を手に取ったからかもしれない。
「まて、それをどうするつもりだー」
「まさかそれでわれわれをたたくつもりではあるまいなー」
「……ぐんー」
「……さて、どうすると思う」
アーニャが低い声でつぶやくと、妖精にひきは顔を見合わせた。
「あやまってやらんこともない」
「やめるのだー、いまならゆるしてやらんこともないー」
妖精の言葉に対して返ってきたのは不気味な沈黙であった。
怖い顔で睨みつけるアーニャの雰囲気になにを感じ取ったのか。
「きゃー」
「おたすけー」
「ぐんー」
顔を引き攣らせた妖精たちは一斉に身を翻すと、一目散に逃げだした。