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20*Amuse

Amuse――楽しむ


私立薬師寺学院特進科校舎 大教室A‬


 本部の薬・メチルモルヒネとパラモルフィンや、イソプロピルメチルフルオロホスホネートが来て数日後。‬

 特進科担任・松本まつもと白華はっかの号令で、特進科の生徒全員が大教室Aに呼び出された。‬

「皆、集まっているわね?封印は一時的に解除したし、メチルフェニデートも一時的に復帰することになったわ。生薬・漢方科と交渉して、エフェドリンもここにいさせてもらうことになったから」‬

 席に着いた生徒達で、教室内がザワザワと騒めく。‬

「それでは、出席を取ります!」‬


「0番、C14H19NO2・メチルフェニデート」

「はい」

 ――一体、何が始まるんだ?

「1番、C21H23NO5・ジアセチルモルヒネ」

「はい」

 ――封印解かれるのはいいのだけど、何をするのかしら。

「2番、C17H21NO4・ベンゾイルメチルエクゴニン

「うん…?はいな!」

 ――ベンゾイル…?って、ウチのことなんかな。

「3番、C18H21NO4・オキシコドン」

「はーい!」

 ――ヒドロいる!わーい!

「4番、C17H13ClN4・アルプラゾラム」

「はーい」

 ――わくわくしてくるっすねー!

「5番、C22H28N2O・フェンタニル」

「はい」

 ――何をやらされるのか存じませんが、兵器として実行するのみです。

「6番、C17H19NO3・モルヒネ」

「はい!」

 ――生徒会長の本領発揮といくか!

「7番、C10H15N・メタンフェタミン」

「…(はい)」

 ――何のつもりですの?封印解いたと思ったら。

「8番、C21H27NO・メサドン」

「はいっ」

 ――学級委員って、こういうこともやるのかな。

「9番、C18H21NO3・ヒドロコドン」

「はーい!」

 ――お姉ちゃんいる!よかった!

「10番、C16H13ClN2O・ジアゼパム」

「はい!」

 ――俺の仕事増やさないでくれよ?

「11番、C17H21NO2・デソモルヒネ」

「おうよ!」

 ――何があっても食うだけだ!

「12番、C17H12Cl2N4・トリアゾラム」

「はい」

 ――最後に責任は俺が取る。

「13番、C13H16ClNO・ケタミン」‬

「はいっ」‬

 ――まあ、適当に?‬

「14番、C4H8O3・四ヒドロキシ酪酸らくさん」‬

「はい」‬

 ――こういう行事を待っていたわ。‬

「15番‬、C15H21NO・‬ピロリジノペンチフェノン」

「はいよ!」

 ――これのために呼んだんだろーな。

「19番、C17H15ClN4S・エチゾラム」

「はーい!」

 ――何があっても私は負けないよ!

「20番、C2H5OH・エタノール」

「はい!」

 ――見習いだけど、いいのか?

「21番、C21H30O2・‬テトラヒドロカンナビノール」

「はい!」

 ――よし、やるぞ!何だか知らないけど!

「23番、C10H14N2・‬ニコチン」

「はーい」

 ――私を見せてあげるわ!

「25番、C20H25N3O・リゼルグ酸ジエチルアミド」

「はい!」

 ――行っちゃってもいいのかい?

「26番、C11H17N2NaO2S・チオペンタール」

「はい」

 ――何が起ころうと、罪人には処刑あるのみだ。

「27番、C10H15NO・エフェドリン」‬

「はい!」‬

 ――ちゃんと呼ばれるの、久しぶりだなー。‬

「32番、C16H12FN3O3・フルニトラゼパム」

「はい!」

 ――何が始まるんだよ、改まって呼び出して。

「34番、C11H15NO2・メチレンジオキシメタンフェタミン」

「はーい!」

 ――なんだか楽しそう!

「37番、C16H25NO2・トラマドール」

「はい」

 ――私は何をすべきだろうか。

「38番、C21H20Cl2N6O3・リルマザホン」

「はーいっ」

 ――皆楽しそうだなー♪

「39番、C12H17N2O4P・シロシビン」

「はーい!」

 ――これから戦うのかな?そうだといいな!

「44番、C15H21NO2・ペチジン」

「はーいっ」

 ――面白そ〜♪興味出てきた!

「46番、C19H21NO4・ナロキソン」

「はいっ」

 ――何したっていいんでしょ?


「よし、全員いるわね!」

「全員…って、もっといるはずじゃ…」

 エフェドリンが人数を数えた上で、松本に問う。

「今ここにいないメンバーはあらかじめ欠席の連絡をもらっている‬から、今日の出席簿からは引いてあるのよ。それで、今日集まってもらったのは他でもないわ」

 松本以外の全員が、息を飲み込む。

「――大喜利をしましょう!大喜利を!」


「ええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!」


「ここ最近重たいことだらけでしょう?メチルフェニデートが引っ込められたりとか」

「えっ…私のせいですか?」

「貴方のせいではないわ。では、配役を発表するわね」

 松本はホワイトボードに表を描いた。

「まず、司会。フルニトラゼパム」


「ええ?オレが司会?座布団運びに『全員の座布団全部持っていけ!』とか言うの?」


「貴方しかまともな生徒がいないからよ」

「いやいやいや何でオレ?まともな奴ならいるだろ他に!トリアゾラムさんとか!チオペンタールとか!トラマドールとか!」

「トリアゾラムはああ見えてすぐ怒るからアウト。チオペンタールは処刑脳だからアウト。トラマドールもすぐ怒るからアウト。だから貴方がやりなさい。その代わり、座布団を与えるか没収するかは基本的に貴方の裁量よ」

「…わかったよ。で、他は?」

「出演メンバーは、上手かみてから順にメチルフェニデート、ジアセチルモルヒネ、アルプラゾラム、フェンタニル、メサドン、ケタミン」


「はい!…っていうか、恒例なんですか?」

「恒例ではないわ。先生のただの思いつきよ」

「面白そうっすねー!ね、フェンタニルさん!」

「全く理解不能ですが、頑張ってみるとしましょう」

「僕は大丈夫です!ケタミンさんは?」

「私もおっけー」


「異存はないわね。座布団運びは四ヒドロキシ酪酸、その補佐にテトラヒドロカンナビノール」‬


「はい。…ケタミンさん、ロヒプノールさん、シンデレラ同盟全員集合ですね!」‬

「俺とお兄とケタミンさんとGHBが揃うのも珍しくないですか?ケタミン陣営ですよ、ケタミン陣営。連合でもいいですけど」‬

 ケタミン、四ヒドロキシ酪酸、フルニトラゼパムを混ぜ合わせると『シンデレラ』という名前の薬になる。そのため、この3人は『シンデレラ同盟』と呼ばれる。‬

 また、ケタミンを慕うメサドン、四ヒドロキシ酪酸、テトラヒドロカンナビノールとケタミン本人の4人は『ケタミン陣営』『ケタミン連合』と呼ばれる。‬


「他に、ジアゼパム、トリアゾラム、エチゾラム、リルマザホンのベンゾジアゼピン系に座布団運びの手伝いをしてもらうわ」


「上手くやるんで、安心してください!」

「ジアゼパムに同じ」

「よっし、やるよー!」

「はーい!…こういうノリも楽しいな、って」


「それではもう一度おさらいするので、今呼んだ生徒はそれぞれのデバイスカラーの紋付羽織を受け取って、寮に戻ってブレザーを脱いで羽織を羽織って、30分後に集合すること。司会はフルニトラゼパム。出演メンバーはメチルフェニデート、ジアセチルモルヒネ、アルプラゾラム、フェンタニル、メサドン、ケタミン。座布団運びは四ヒドロキシ酪酸、テトラヒドロカンナビノール、ジアゼパム、トリアゾラム、エチゾラム、リルマザホン」

 生徒達が、それぞれのデバイスカラーの羽織を取りに行く。羽織には黒い特進科のマークが付いている。

「今呼ばれなかったメンバーは、先に大教室Bに行っていなさい。以上、解散!」


 ***


30分後 私立薬師寺学院特進科校舎 大教室B


 司会者席には黒字で『毒品ドゥーピン』と彫られた見台が置かれており、舞台上にはマイクが置かれている。吊り下げられた提灯には回答者の名前が中国語で書かれており、時計の下あたりの位置に『毒品』と書かれた額が飾られている。

『毒品』とは中国語で『麻薬』、つまり特進科の生徒を指す。


 上手からケタミンが登場し、下手しもてに行く。そのようにして残りのメサドン、フェンタニル、アルプラゾラム、ジアセチルモルヒネ、メチルフェニデート、四ヒドロキシ酪酸も登場していく。テトラヒドロカンナビノール以下は控えている。

 大喜利メンバーがデフォルトで用意されている2枚重ねの紫色の座布団に座った後、司会者であるフルニトラゼパムが登場し、席に着いた。


「えー、それでは私立薬師寺学院特進科大喜利を開催します!司会はオレ、C16H12FN3O3・フルニトラゼパムが担当するぞ!よろしくな!」


 フルニトラゼパム。デバイスカラー及び紋付の色は橙色。

 ベンゾジアゼピン系の睡眠導入剤の一種である。

 投与量ベースで最も強力なベンゾジアゼピン睡眠薬の一つとされており、日本の精神科治療薬のうち過剰摂取時に致死性の高い薬の3位である。

 麻薬及び向精神薬取締法で第二種向精神薬に指定されている。


「では、麻薬及び向精神薬取締法で規制されている皆様方のご挨拶からどうぞ!」


「C13H16ClNO・ケタミン‬です。よろしくお願いします」


 ケタミン。デバイスカラー及び紋付の色は青紫。

 アリルシクロヘキシルアミン系の解離性麻酔薬である。

 性質上、低用量帯では呼吸を抑制しない大きな利点がある。世界保健機関による必須医薬品の一覧に加えられているが、乱用薬物でもある。

 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律の処方箋医薬品・劇薬、麻薬及び向精神薬取締法で麻薬に指定されている。


「C21H27NO・メサドンです。よろしくお願いします」


 メサドン。デバイスカラー及び紋付の色は青。

 オピオイド系の合成鎮痛薬である。

 代謝されるのが遅く非常に高い脂溶性を持つため、モルヒネ系の薬剤よりも持続時間が長く、ジアセチルモルヒネの解毒や維持療法の際は1日に1度のみの投与で済む。

 麻薬及び向精神薬取締法で麻薬に指定されている。


「C22H28N2O・フェンタニルです。よろしくお願い致します」


 フェンタニル。デバイスカラー及び紋付の色は緑。

 オピオイド系の合成鎮痛薬である。

 効果はモルヒネの100~200倍と言われ、最も強力な鎮痛剤として使用されている。

 麻薬及び向精神薬取締法で麻薬に指定されている。


「C17H13ClN4・アルプラゾラムっす。よろしくお願いしまーす」


 アルプラゾラム。デバイスカラー及び紋付の色は空色。

 ベンゾジアゼピン系の短期間作用型抗不安薬および筋弛緩薬の一種である。

 米国で最も処方され、かつ最も乱用されているベンゾジアゼピンと言われており、彼の断薬はその深刻な反跳と離脱症状のため特に困難であるとされている。

 麻薬及び向精神薬取締法で第三種向精神薬に指定されている。


「C21H23NO5・ジアセチルモルヒネです。よろしくお願いします」


 ジアセチルモルヒネ。デバイスカラー及び紋付の色は青緑。

 オピオイドの一種であり、基本的にはヘロインと呼ばれる。

 兄であるモルヒネよりも脂溶性が高いため、血液脳関門を彼より容易に通過することができる。多幸感も依存性もトップクラスで、『麻薬界の女帝』と呼ばれている。

 麻薬及び向精神薬取締法で麻薬に指定されている。


「C14H19NO2・メチルフェニデートです。よろしくお願いします!」


 メチルフェニデート。デバイスカラー及び紋付の色は白。

 精神刺激薬の一種である。

 特進科に転級する前に『リタリン騒動』と呼ばれる騒動の火種になったことがあり、それ以降は流通管理委員会が設置され、流通が厳格に管理されている。

 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律の処方箋医薬品・劇薬、麻薬及び向精神薬取締法で第一種向精神薬に指定されている。


「続いてはですね、過量投与で痙攣や意識障害が起きる座布団運びのご挨拶どうぞ!」

「C4H8O3・四ヒドロキシ酪酸です。よろしくお願いします」


 四ヒドロキシ酪酸。デバイスカラー及び紋付の色は薄紫。

 ヒドロキシ酸の一種である。

 中枢神経系の抑制効果を持ち、多くの国で違法ドラッグとして規制されているが、ナルコプシーや不眠症、うつ病の治療効果がある。

 麻薬及び向精神薬取締法で麻薬に指定されている。


 挨拶が一通り終わった。


「ここで普通は座布団10枚の賞品のキーワードを言ってから本題に入るところだが、賞品なんてものは用意できてないんだと。まあ松本先生の思いつきだしな。…ってこれ何時間やるんだよ…」

「そうね…2時間としましょうか。その間に出動要請がかかった生徒は、羽織を着ている場合は脱いでから治療室に行きなさい。途中休憩を挟んで20問ずつね」

「なるほど。じゃ、ルール説明な。えーと…」

 フルニトラゼパムは、松本製の台本を読み上げる。

「最初にオレが出題するから、答えを思いついたメンバーは手を挙げろ。で、オレが指名したら機知を利かせた答えを返してくれ!良い答えや面白い答えをくれたら座布団1枚または2枚をやる。けど!」


 バン!

 フルニトラゼパムはその平手を以って見台を叩きつけた。


「下ネタ、座布団の状況をネタにする、川柳や都都逸の問題で字余りを起こす、フリップ問題において活かすべき文字または語句を活かさない、オレの合いの手を飛ばす、答えを噛む、あるいは忘れる…など、オレが良くないなーと判断した場合は座布団を最低1枚没収!人間やオレを馬鹿にしたり、舞台上で馬鹿なことを延々とやったりするなら大量に持ってくけど文句言うなよお前らが悪い!」


「…いつものフルニトラゼパムね」


 こうして、1日限りの大喜利大会が幕を開けた。

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