魔法少女はつらい職業なんですよ
みんな初めまして! 私の名前は伊藤咲。
どこにでもいる花の女子高生! 勉強はそこそこできて、おしゃれにも敏感で毎朝、金髪でツインテールの髪を整えているの!
好きな人は同じ学校の先輩。
恋も勉強も一生懸命な私だけど、なんと日々、魔法少女として魔物と戦っているの!
「咲! 大変なのだ! 魔物が出現したのだ!」
私に魔物が出現したことをお知らせしてくれたこの翼が生えたハムスターの出来損ないみたいな生き物はハムろう。
いつも私のことをサポートをしてくれる、魔法少女のお助け役みたいな存在なの!
「ハムろう。そうか、魔物が出たんだね! それじゃ、警察に任せて私は寝るね!」
「オイオイオイオイオイ。何言ってるんだお前」
「あれれ〜? 語尾変わってるなー。演技だったのかな?」
するとハムろうは私の周りをピュンピュンと飛び回った。
「いいから魔物を倒してに行くのだ! 魔法少女は愛と平和の為に戦うのだ」
「はーめんどくさいな......こんなことなら、魔法少女なんてならなきゃよかった」
三ヶ月前、ハムろうが突如、私の前にやってきて、「僕と契約して魔法少女になるのだ!」とかほざいてきた。
あの時、昼寝の最中だったので、頭がボヤーっとしていた私は脳死のまま、契約書にサインしてしまった。おかげで魔物を倒してこいと魔物が発生するたびにハムろうに急かされる毎日である。
家を出てから魔物の出現場所に到着した。でっかい筋肉質の全身に黒いタイツを羽織った人みたいな魔物が建物を手に持っているハンマーでどったんばったんぶち壊していた。
「待ちなさい!」
私は叫んだ。すると、魔物がこちらを一瞥した。
「なんだ? お前」
「変身!」
私の体が光に包まれてた。
「戦えー正義の魔法少女ーその名はー魔法少女ー咲ー」
ハムろうがクソ音痴な声でテーマソング(笑)を歌い始めた。下手くそな歌である。耳障りなのでやめて欲しい。
およそ三十秒後、変身が完了した。魔物は律儀にも待ってくれていた。
ちなみに変身後の姿はピンク色のコスプレイヤーがきていそうな魔法少女っぽい衣装である。具体的にどんなのかっていうのはご想像にお任せする。
ちなみに結構、露出が多い衣装だよ?
「魔法少女サキ、見参! さぁ、魔物! 何かしらに変わってお仕置きよ! それじゃ、ハムろう武器ちょうだい!」
しっかりと決め台詞を言い、ハムろうに武器を要求した。さすがに、丸腰で戦う魔法少女はそうそういないだろう。
「了解なのだ! これを受け取るのだ!」
すると、ハムろうが異次元のゲートを発生させ、そこから武器を取り出した。
私は武器を手に取った。
その武器はなんと、鉄パイプだった。
「これでやつを叩くのだ!」
「おめぇよぉ? こんなので戦えってか。ああん?」
「仕方ないのだ! 最近、魔法少女協会から支援額が減らされたのだ!」
最初の頃は魔法の杖だのもらってたのだが最近はこんな武器ばかりである。
「仕方ないな! 行くぞオラ!」
私は鉄パイプで魔物を撲殺しようと試みた。勢いよく魔物の脳天めがけて鉄パイプを振り落としたが、鉄パイプは曲がってしまった。
「そ、そんな! 鉄パイプはホラーゲーム、『静岡』で定番の武器って言われていたのだ! だからホームセンター、オールサンデーで買ってきたのだ!」
ハムろうは鉄パイプを買ってこようと思った経緯を話し始めた。
どうせなら、バイオテロが舞台のゲームを見て、ロケットランチャーとか、ショットガンとか購入してきて欲しかった。
「ハムろう! 何か、他にいい武器はないの?」
魔物はハンマーで私を潰そうと攻撃してきている。ギリギリのところで避けている。
「安心するのだ! いざという時のためにもう一つ、オールサンデーで買ってきておいたのだ!」
異次元のゲートから再び武器が出てきた。
私は武器を受け取ると、なんの武器が確かめるとそれは丸太だった。
「以前、ネットでみたことがあるのだ! 丸太はとある島で絶大な活躍を果たした武器だと書いてあったのだ」
こいつにネット環境を貸し与えたのは大失敗だったようだ。
「こうなりゃ糞食らえだ! くらえ!」
両手で丸太を持ち、魔物の顔面めがけて攻撃した。
しかし、丸太はあっさりとバラバラに砕けてしまった。
「そ、そんな! 丸太まで通用しないのだ!」
逆にこいつは通用すると思ってたのだろうか。
「もういい! ハムろう。こうなりゃ必殺技でこいつを倒す!」
ビシッと魔物を指差し、そう宣言した。
「バカいうななのだ! 必殺技は負担が大きすぎるのだ! 下手すれば自分の命の危険性すらあるおのだ!」
説明口調でハムろうは必殺技を使うことに難色を示してきた。
「それでも......これしか方法はない!」
「いや、正直にいうと、必殺技を使われると建物やらなんやらいろいろ壊れますよね? 上から色々と怒られるのでできれば勘弁してください。ほんま」
ハムろうがマスコットキャラとしての役割を忘れ、素の話し方になったが、気にしない。
「神よ。愛と平和のために我に力をお授けください。魔法少女としての力を我にお貸しください。そう、ラブアンドピースのために!」
そう唱えると、私の背中には翼が生えた。ちなみに唱えている間、魔物は律儀にも待ってくれていた。
いやぁ、良い(笑)魔物で助かった。
魔物のはるか上空に飛び、地上に手を向けた。
「マジカルファイアー!」
必殺技名を叫ぶと、大きな爆発が起きた。
「うわーなのだー!」
ハムろうが叫んでいる。いっそ、爆発に巻き込まれて消滅して欲しいのだが、そううまくいかないよな。
魔物の気配が消えた。どうやら、魔物を倒すことができようである。
周りは焼け野原と化してしまったが。でも、死傷者ゼロだし良いだろう。
そして、次の日。
「咲! あと、十枚始末書書くのだ!」
「とほほ......」
魔物との戦いで甚大な被害を出してしまった私は始末書の作成に追われていた。
なんでも、魔法少女協会に負担してもらうためには始末書をたくさん書かなきゃいけないらしい。
「だいたい、建物とか景観を壊さず、魔物を倒そうってのがまず無理なんだよ。魔法少女なんだからもっと大目に見てくれても良いのに」
私は不満を呟いた。
「そうは言っても、書かないと修繕費をこっちで負担することになるのだ! それに、武器の支給額も減らされるのだ!」
「ハムろう。武器を買うときは私にも相談してね。もう鉄パイプとか丸太は勘弁。本当、勘弁」
というか、魔法少女自体が勘弁したいと思ってきた。辛いし、大変だし。
そう思っていたとき、あるニュースが目に飛び込んできた。
「続いてのニュースです。先日、都内の某所に怪物が発生しましたが魔法少女が撃退しました。現場にいた人の声を聞いて見ましょう」
インタビューされていたのは、私の好きな先輩だった。
「魔物と魔法少女が戦っているのを遠目から見てました。一生懸命、戦っていて感動しました! とても素敵な方だったと思います」
「せ、先輩......!」
私の胸がキュンとした。
「咲! また、魔物が発生したのだ! 場所は秋葉原らしいのだ!」
「分かった! すぐ行くぞ! 全てはラブアンドピースのために!」
「お! なんか珍しく今日はやる気がすごそうなのだ!」
私は魔物の場所へと向かっていった。
愛と平和の為に魔法少女の私は今日も戦う。