チビドラゴン再び!と旅立ちの決意
『王よ。妾はシーサーペントやら海竜と呼ばれる者ですじゃ。お会いできて光栄ですじゃ。』
朱凰に乗って海辺までくるとシーサーペントが感激した様子で迎えてくれた。
そこまで待っていてくれたなら早く会いに行けば良かったかも。
なんか申し訳ないです・・・。
『王はドラゴンの卵を孵されたとか。さすが妾の待ち続けた王ですじゃ!』
「あ、ありがとう・・・。」
そしてさっきからずっとノワールに私のことを聞いている。
その度に褒めてくるので凄く恥ずかしい。
いや、城の中で迷子になったことまで褒めなくていいから!
それ褒めることじゃないから!
『ぷぷ、自分の城で迷うとか。ぷぷぷ。』
朱凰は隣で肩を震わせながら笑ってるし。
いや、あの城広すぎだから!
私悪くないから!
というか、ノワールめ。
そんなどうでもいいことまで教えなくていいでしょ!
後で覚えておきなさい・・・。
私が一人で恥ずかしさに耐えていると、ふとシーサーペントが
『と、ところで王よ。鎧にもドラゴンたちにも名前を与えたとか。本当なのですじゃ?』
「え?あー、うん。そうだよ。」
そうなんですよ。
私もう二人と五匹に名前をつけたんだよね。
これって凄いよね?
もう名付けマスターを名乗っていいんじゃない?
そんなのあるか分からないけど。
『ず、ずるいのじゃ!わ、妾にも名を授けてくだされ!』
「げっ。」
キラキラした期待に満ちた目でおねだりされて私は思わず後ずさる。
え?また名前考えるの?
『ダメなのじゃろうか・・・。』
「ッ!そ、そんなことないよ!私を誰だと思っているの?この名付けマスターに任せなさい!」
『なんと!さすがは妾の王なのじゃ!』
わー!
何言ってるの私!
でも、ずっと私のこと待っていてくれたみたいだし、ここでダメとか言ったらなんか凄くかわいそうだよね?
それにあんなにキラキラした目を向けられたらもう断れません・・・。
「えーと、あまり期待しないで欲しいな、なんて・・・。」
より一層キラキラ輝く瞳が私に無言の言葉をかけてくる。
あ、無理ですか。そうですか。
頑張って考えます。ごめんなさい。
えー、何にしようかな?
海竜っていってたし、他のドラゴンたちと似たようなかんじでいいかな?
色だと青蘭に若干かぶっちゃうから、琥珀や柘榴みたいに宝石の名前にしようかな?
「じゃあ、海に関係もある宝石、珊瑚にしよう!」
『おお!珊瑚とは!ありがとうございますじゃ王よ!ずっと大切にしますじゃ!』
うん、喜んでくれたみたいで良かった。
ちょっと名前をつけたら大きくなるんじゃないかと心配になったけど、そんなことはなかったみたいだね。
「じゃあ珊瑚。これからも海の警備をよろしくね。あ、遭難者はちゃんと保護してあげて。」
『了解した。妾に任せて欲しいのじゃ!』
こうしてシーサーペントの珊瑚に会うことができた私はまた朱凰に乗ってノワールたちと城に帰った。
私たちが戻ると既にブランと琥珀は戻ってきていた。
翡翠と青蘭のお留守番組も一緒にいる。
「早かったんだね、ブランたち。ところでこんなところで何してるの?」
「陛下お帰りになられたのですね。いえ、実はドラゴンたちは大きすぎて城の中には入れませんし、どうしたものかと考えていまして。」
「あ、そういえばそうだね。外にいてもらうことになると思うけど、屋根がないのもかわいそうかも。」
そうなのだ。
ドラゴンたちは大人の姿になってしまったため、もう城の中には入ることができない。
となると、外にいるしかないけど野ざらしの状態にも抵抗がある。
まだ少ししか一緒にいないけど、空を飛んだりしたことで、既にドラゴンたちにそう思うくらい愛着がわいている。
「我が思うに、ドラゴンたち用の休むところを造った方がよいのではないか?」
「そうだね。・・・ドラゴンたちがちっちゃくなれれば問題ないんだけどな。」
『べつになれるぞ?』
「「「え?」」」
予想外の朱凰のちっちゃくなれるという言葉に私たち三人は驚く。
というかなれるの?本当に?
『今の俺たちならそのくらい問題ないぜ?』
そういってポンッと煙がでたと思ったら、抱き抱えるにはちょうどいい大きさになったあの愛らしい人形バージョンの朱凰の姿が。
「キャー!チビドラゴンだー!可愛い!!」
チビドラゴンの姿はもう見れないと思っていた私は嬉しさのあまり朱凰を抱きしめる。
他の二匹のことを忘れて・・・。
『ちょ、ちょっと!なにしてるのよ朱凰!あんたはさっきまで花梨と一緒にいたんだからあっちいってなさいよ!』
『そうですよ、朱凰。あなたばかり不公平です。』
そういって翡翠と青蘭もポンッと小さくなり、小さい翼をパタパタさせて私に飛びついてくる。
か、可愛いすぎる!
この姿で私の取り合いをされるとたまりません!
しかもなぜか硬い鱗も小さくなるとぷにぷにしてるから抱きしめても痛くないんだよ。
私は思わずだらしない顔でニマニマしてしまう。
琥珀も柘榴も小さくなり、琥珀はブランに抱き抱えられ、柘榴はノワールの肩に乗っている。
あ、それいいな。
肩乗りドラゴン。
もう最高ですね!
小さくなったドラゴンたちは問題なく城の中に入ることが可能になり一緒に食事をとることになった。
さて、久しぶりに私が作ろうかな?
今日はドラゴンたちの希望により、お肉料理です。
といってもブランがほとんど終わらせちゃうし、私は味付けだけをしたんだけどね。
でも味付けって一番重要だよね?
「いただきまーす!」
私の言葉が合図になり食べ始める。
こっちにきてもやっぱり染み着いた習慣はやめられないよね。
ドラゴンたちは私の「いただきます」に不思議そうな顔をしている。
チビドラゴンたちがコテンッと首を傾げる姿は凄く癒される。
あ、でも柘榴だけは気にせずに食べてるけど。
私は自分の味付けに満足しながら、美味しいお肉と幸せを噛みしめた。
食事を終えると私たちはのんびりと時間を過ごした。
王様っていっても特にまだ国として機能してないから暇だし、ブランとノワールも騎士っていっても警戒するようなことはなにもなくみんな暇なんだよね。
・・・でもそろそろ動き始めないとね。
私は今まで国の運営を何も考えなかったわけじゃない。
色々考えた結果、どうするにしても他の国に行ってみなければ始まらないという考えに至った。
それは決して異世界旅行に行きたいという理由からではない、よ?
・・・コホン。
でもどちらにしろそのために不可欠なものがある。
それは、交通手段。
この国は島国だから他の国に行くには船か空を飛んで行くしかない。
最初は船を作ろうと思っていたんだけど。
ちょうどいいときに仲間になったドラゴンたち・・・。
これはもう他国に行ってもいいよってことだよね!
そう解釈した私は早速他国に行く計画を練り始めた。
「二人とも聞いて欲しいの。」
みんなでくつろいでいたときに真面目な声をしたものだから二人は何事かと眉をひそめた。
いや、ノワールは顔に変化があったわけじゃないけど。
「私、他国に行こうと思うの。」
そう言った私をぎょっとした顔をして見るブランと考えこむ様子のノワール。
例え二人にどんな反応をされようとこれは決定事項だ。
「い、いけません、陛下!陛下自ら他国に赴くなんて!危険すぎます!住民の募集なら私がしてきますから!」
ブランが慌てた様子で反対してくる。
けど私の意思は固いのです!
「ブラン。私はここから出たことはないし、この世界のことも何も知らない。だから外の世界を知る必要があるの。確かに外の世界は危険なのかもしれない。でも世間知らずの人間が立派に国を運営できるとは思えないのよ。たから私は外の世界に行く。」
私の決意が固いことを知り言葉を失うブラン。
多分彼も私の言葉に反論することはできないのだろう。
「確かに我が主のいうことにも一理あるかもしれぬな。外の世界を知ることは良いことだ。」
「ノ、ノワール!」
「ただし、外は危険だということもまた事実。外の世界には魔物もおるし、悪意を持った人間もいるだろう。」
ブランとノワールの否定的な反応に予想はしていたものの少し肩を落とす。
王様になったんだから分からないでもないけど、二人ともちょっと過保護すぎるんだよね。
もう少し信じてくれてもいいのに。
「我が主よ。この国は我が主がいなければ成り立たぬ。代わりなど存在しないのだ。そのことをゆめゆめお忘れなされるな。」
「・・・分かった。」
失念していた。
ノワールはずっと王がこの国に現れるのを待っていた。
そしてたまたま私が王になってやってきたわけだけど。
私が死ぬということは再びノワールは王を失うということ。
神様がちょっと前にできた大陸だって言ってたけど、実際にはノワールはここで何百年も待っていたらしい。
神様とは時間の感覚が違うのだろう。
もし私が死んだりしたら・・・。
「ノワール。私はあなたをまた一人にはさせないから。」
「・・・ふふ。承知した。」
ノワールは私の考えに賛成してくれた。
ブランはまだ渋い顔をしているけど、特に反論はしてこない。
きっと分かってくれたんだと思う。
「よし。では我が主よ。早速旅支度を始めようではないか!」
「え!まさかノワールも行くつもりなの!?」
ノワールの言葉にぎょっとする私。
いやいやなんで不思議そうに首を傾げてるの!
「もちろんだとも。我が主をお守りするのは我の役目であるからな。当然であろう?」
いや、有難いけどこんなごつい鎧が歩いてたら普通に目立つよ!
怖いし、みんな驚くよ!
「安全面を考えたらノワールにも同行してもらった方がいいんでしょが、確かにこの姿では怪しまれてしまいますよね。」
「外套を羽織れば問題あるまい?」
「「問題大有りだよ!」」
ノワールは鎧で出歩くのは普通だとか思ってないよね?
完全にここまで立派な鎧はアウトだよね?
「絶対にどこかの騎士かと思われて警戒されるやつだよ。これじゃあ普通の旅人や冒険者で通らないよ。」
「確かに冒険者の中には軽装のものをつけている人もいますが、ノワールほどのものとなると国でも上の者に限られてくるかと。」
やっぱりそうだよね。
鎧を脱ごうにもノワールは鎧が本体だからな。
・・・中身ってどうなっているんだろう?
「「・・・。」」
おそらく同じことを考えたらしいブランは私と同じくノワールをじっと見つめている。
ノワールはなぜ自分が二人に見られているのか分からず戸惑って私たちを交互に見る。
「「・・・。」」
・・・この世の中には知らない方がいいことが一つや二つはあるのだろう。
そう納得した私とブランは互いに目を合わせてぎこちなく微笑む。
大丈夫。
例えノワールの中身がどうなっていても私たちの仲間であることに変わりはない。
分かっている、分かっているんだけども。
その疑問に気づいてしまったら、どうしても気になって仕方のない二人なのだった。