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最近の専属侍女ってみんなこんな感じですか?

 代表会議から数週間前・・・


 私は軍を組織するにあたって、どのように編成するか?軍を誰に任せればいいのか?人の募集は?など色々考えていた。


「まず人手が足りないんだよなー。そもそも軍のノウハウを知る人がいないから優秀な人材が欲しいところだけど。」


 今この部屋にいるのは私と専属侍女のシルキーのみ。

 クロードはクロードで宰相の仕事が忙しいし、セルジュは筆頭執事なので宮中の管理も担ってくれていて二人とも多忙なのだ。

 単に人手不足のせいでもあるんだけど。


 だからいつも一緒に仕事をしているわけではないため、現在私は一人で軍編成計画について頑張っている。

 クロードに計画を見せる前にある程度形にしていないと厳しい審査ですぐ却下されてしまうため私も必死なのだ。


 なぜこんなにも私がサボることなく頑張っているのかというと


「名前を聞いただけで震えあがるような最強の将軍たちをつくりたい・・・!」


 拳を握って己の願望を口にするとシルキーの呆れたような視線がつき刺さった。


「妙に気合いが入っていると思えば、そんな下らないことを考えていたんですか。」


「下らなくないよ!格好いいじゃん!こういうのはロマンだよロマン!」


「ロマンで国の軍をつくるのは王としてどうかと思うのですが。」


 チッチッチ。わかってないなあシルキーは。

 ロマンを追い求めるからこそ、やる気も出てよりいいものが出来上がると思うんだよね。

 その証拠に私はこんなにもやる気を出して仕事をしているんだから。


 そう考えれば国民にもできるだけ自分のやりたい仕事をやってもらいたい。

 この世界の人たちは昔のように親の仕事をそのまま引き継ぐというのが多い。

 それ以外だと仕事に就職するのさえ困難になる。技術も知識も場所さえも親から子へ引き継がれるものだからだ。

 だからそれを越えてサポートできる学校の設立は私の中で最重要事項だった。


 報告は受けているけど、後でエレオノーラに学校の進捗状態について詳しく聞いておこう。

 軍を設立するとなれば、士官学校とかも必要になるはずだから。


「でもやっぱり一番の問題は人材不足なんだよね。」


 将軍になれるだけの人材というのはなかなかいるものじゃない。そういう人たちは他の国でも重宝される。

 わざわざうちに来てくれるとは思えないし、そもそもそんな貴重な存在、国が手放さないだろう。

 もし来てくれたとしたら私はスパイを疑うね。


「こんな到底実現不可能な野望を抱いているようでは、軍の編成完了など夢のまた夢ですね。」


 シルキーは私がクロードたちに向けて一生懸命作っていた資料・・・

 ではなく、現実を無視して半ば遊び半分で考えた理想の『私の考える最強軍団』の構想を書いた紙を見ていた。


「いやちょっとなに見てんの!?」


「なにって『私の考える最強軍団(笑)』ですが?」


「いやー!やめて言わないで!冗談で面白半分で書いただけだから!」


 私が胸の痛みに悲鳴をあげ慌ててシルキーから紙を取り上げようとすると、いつも表情を変えないシルキーがふっと優しげな笑みを浮かべて


「大丈夫ですよマスター、いえ陛下。誰しもそんな年頃はあります。右眼になんか封印されているんですよね?」


「いやしてないから!年頃の病気じゃないから!」


 ぐふっ。わざわざ呼び方をマスターから陛下に変えたところが地味にシルキーの意地の悪さが窺える。

 ああ、シルキーのせいで心が痛いよぅ。(涙)


 私がうちひしがれてしなびれた野菜のようになっているとさすがにシルキーも可哀想に思ったのかポンポンと肩を叩いてくる。


「元気出して下さい。」


「元気なくさせたの君だけどね?」


「もう今さらではないですか。ここは思いきって黒歴史を量産しましょう。きっと何年後かには楽しい笑い話になりますよ。」


「こいつフォローする気さらさらねぇな!」


 そして何年後かに私を笑い者にするつもりだよこの人。いや悪魔?

 シルキーにも少しは良心が痛むとか落ち込んだ人を慰めるとか、そんな気持ちがあるのではないかと期待した私が馬鹿だったのだ。


「前から思っていたんだけどシルキーってドSなの?」


「いえ、ただ思ったことが素直に口から出てしまうだけです。」


「なお悪いわ!」


 私は悲痛の思いを持って叫ぶ。

 これまでかけられてきたシルキーの毒舌の数々が心からの本心とか考えただけでめまいがするんですが。


 シルキーとの会話を思い出して頭を抱えている私をよそに、シルキーは持ったままの紙をヒラヒラさせて話す。


「まあですが、これの規模を縮小させれば陛下のロマンとやらもそこそこ形になるのではないですか?名前はともかく、構想自体は悪くないと思います。」


「いやだからそれを実現させたいというわけではなくてですね・・・」


「となりますと、やはり一番の問題になるのは陛下のおっしゃる通り将軍となる存在ですね。」


「あのー、話聞いてます?」


 私の訴えを無視して話を進めるシルキーに恐る恐る声をかけるけど。

 一応、私あなたの上司なんですけど。部下に無視される女王って一体・・・


 落ち込んでいじけた私は心の潤いのためにとりあえず執務室に置いてあるお菓子をやけ食いした。

 やってられっかコンチクショー!こんなときでもブルーノお手製のお菓子がおいしーよー!


「陛下は軍の指揮はどうなさるおつもりですか?」


「モグモグ・・・うん?」


 やけ食いしているのを停めて顔をあげるとシルキーと視線ががっちりと合う。

 あれ?なんだかシルキーの視線が冷たくなっていくような・・・?


「こ、こほん。基本的に王が命令権を持ち、直接な指揮は王が任命した将軍が行う。日々の訓練の他は防衛、魔物の駆除、災害救助を行って、戦争は王の許可なくできないようにする。後々は王の他に軍の命令権を持って統括する元帥をおきたいところだけど、これは王族の仕事にしたいんだよね。」


 真面目に答えるとシルキーの視線に温かみが戻ってきた。


「そうですか。今王族は陛下しかいませんから元帥は置かないということですね。」


「まあ今のところ規模は大きくしないつもりだからね。置かなくても大丈夫だと思う。私も命令権と任命権を持つだけで直接指揮をするわけじゃないし。」


 そもそも軍の指揮とかわからないし。


「上が王だけとなると将軍の立場がかなり高いものになりますね。」


「将軍は何人かおいてそれぞれ軍を任せるつもりだよ。軍同士で牽制して勝手に暴走することがないように。とはいえ人選は重要だよね。信頼できる人じゃないと。」


「しかし例え募集したところでやってくるのは優秀な人物は他国の紐付きでしょうね。」


「そうなんだよねえ。」


 あー。やっぱり軍を安心して任せられる人がいないのが問題だ。

 純粋にポラリス王国のことを思ってくれたり、忠誠心がある人なんて基盤のない新興国にはなかなかいないだろう。元々住んでいた人がいないから故郷の愛着なんてないのだ。


 ブランだって助けた私に恩を感じてくれてはいるけど、その根底には裏切られた祖国への恨みがある。

 紐付きではなくとも、そういう人を下手に戦争が専門の要職につけたりすると他国との亀裂を生むことになるだろう。


「うぅ。助けてシルエモン・・・!」


「誰ですかシルエモンって。」


 なにいってるんだこいつといわんばかりに怪訝な顔をして私を見るシルキーを見て、地球ネタが通用しないことに悲しみを感じる。


「ですが人材については私に心当たりがあります。」


 シルキーはそう事も無げにいってのけた。

 まさかの発言に私は思わずガバッと顔をあげる。


「え?本当にいってる?今冗談ですとか言ったら普通に怒るよ?」


「冗談ではありません。陸軍4と海軍と空軍にそれぞれ1人ずつ将軍が必要で、全部で六人の将軍が欲しいのですよね。」


「いや、だからそっちは遊びのやつでこっちが本当の計画書・・・」


 さっき取り返して隠したはずの遊びで書いた私の黒歴史(笑)をシルキーはまたいつの間にか手にしていた。

 というかいつまでそのネタ引きずるの・・・?


「敵がその姿を見ただけで絶望し、存在だけで見方を鼓舞する軍の旗頭。たった一人で戦況を左右するほどの強者で国を守護する守護者であり、敵にとっては恐怖の代名詞。しかし、野心はなく従順である。そんな人材を求めているのですね?」


「いや違うけど?」


 強い将軍がいいなあとは言ったと思うけど、誰もそこまでは言ってないよ?しかもどこにそんな人材がいるのよ。しかも6人。

 というかもうそれ人じゃないよね?


「この計画書に書いてある条件に合う希望通りの人物を探してまいります。」


「本当に人の話聞かないな!」


 自信満々にそういうけど絶対そんな人いないと思うよ!


「大丈夫です。私に心当たりがあります。」


「は?え?本当に?」


「はい。私は優秀な専属侍女ですので。主の望むものは何であろうと、例えそれが人であろうと用意してご覧にいれます。」


 シルキーは完璧な礼をして無表情ながらもそう言ってのける。相変わらず表情からは読み取れないけど、その姿からは自信に溢れているようにみえた。


「ほえー。最近の優秀な専属侍女って凄いんだね。」


 私が感心してそういうとシルキーの固い表情がちょっと崩れたような気がした。そんな気がするだけだけど。


「私にもプライドがありますので。ではしばらく休暇を頂きたいと思います。」


「あーうん。そうだね。まあでも無理しなくていいから。正直難しいと思うし。」


「問題ありません。私にお任せください。」


「わかった。ずっと働き詰めだったからついでにゆっくり休むといいよ。」


「お気遣いありがとうございます。」


 私はその時、例え人材が見つからなくても休もうとしないシルキーの休暇になればいいなーとそんな軽い気持ちでいた。


 しかし私はこの時に人材集めをシルキーに任せたことを激しく後悔することになる。




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