代表会議3
開国してからもうすぐ半年が経とうとしていた。
どの領地の都市にも既に多くの様々な種族の人々が住み始め、それなりに町として発展してきたところ。
まあ、町自体は既に出来上がっていたから、後は人が入ってくるだけだったんだけど。
といってもまだそれぞれの領地に町がひとつしかなくて土地が余っている状態。
土地の開発は大公たちが必要に応じて進めることだろう。
そして今日は、女王である私と大公たちによる代表会議という名の報告会が行われる。
ちなみに3回目。うん。なんだか感慨深いものがあるね。私とノワールとブラン、3人だけの国が短期間でよくここまできたものだよ。
出席者は大公とその側近兼補佐1名と護衛2名のみが参加できる。
記録は魔道具によって行われるので記録する人もいない。
女王である私側の出席者は側近にセルジュ。護衛はもちろんノワールとブラン。
クロードは大公なので私の側近としては別枠だし、それ以外に人がいないという現状です。
まあ、どうしても人数をそろえなくちゃいけないわけではないから、側近としての役割はクロードがしてくれるので無理に参加しなくてもいいんだけど。
「ではこれより、代表会議を始めさせていただきます。進行は宰相であるクロード・フォン・メグレスが務めさせていただきます。」
クロードの会議の開始の宣言と挨拶に他の出席者も頷いた。
「それでは早速、各現状報告から始めましょう。まず外務卿からお願いします。」
「はい。ではわたくしからご報告させていただきますわ。まず資料をお配りしますのでそれをご覧ください。」
レティシアの補佐の人が資料を各大臣に配った。もちろん私にも。
「こちらの1枚目の資料にのっている国々がポラリス王国と国交を結びたいなどで使者を寄越してきた国々ですわ。シェルフィールドは既に同盟を結んでおりますので、除外してありますけど。」
資料を見ると小国や自治領を含めを数十を越える国と地域が載っている。
どれも比較的近い国で国の規模はそれぞれだった。
「まだ開国から半年くらいしか経っていませんからこれからも増えると思います。遠い国はポラリス王国に着くまでも時間がかかるでしょうし。」
「遠い国もうちと国交を結ぼうとするか?」
ゴードンがレティシアに聞くと「間違いないでしょうね。」と答えた。
「そもそもこの国のある海域は誰も到達することのできない幻の場所とされてきました。そんなところに国が突然できたのです。なにかしらの接触はあると思いますわ。」
私はいまいちピンとこないけど、みんなレティシアの言葉に頷いているのでこの場所に対して同じ意見なんだろう。
でもそれの一番の原因は海竜の珊瑚だと思うけどね。
「人間至上主義の国は今のところ様子見のようです。申し込んできた国々は全く差別がないとはいえませんけど、比較的ましなところばかりですから。」
うちは国の重鎮に人族以外の種族が多いのだ。
そんなところに人間至上主義の国が仲良くしましょうなんて喧嘩売ってるとしか思えないもんね。
「あとは移民の受け入れ要請がいくつか。これは後で陛下の方に資料をお渡ししますわ。」
「分かった。移民は基本受け入れる姿勢で考えてるから。あと、他国の使者との面会の日取りもクロードと検討しておくよ。」
「分かりました。わたくしからは以上ですわ。」
レティシアは微笑むと報告を終えた。
最初から仕事がどんどん増えていく報告ばかりでちょっとめまいがする。
いや、レティシアもきちんと仕事をして回してくれるから文句はいえないんだけど。
「では次、公部卿お願いします。」
「儂からは陛下から提示された列車の運用について報告させてもらう。今から配る資料には列車について陛下と相談してまとめたものだ。目を通して欲しい。」
列車については私があったら便利そうだなーと思ってゴードンにちょろっと話したら、ゴードンがその気になってしまったのだ。
なんか気に入ってしまったらしい。
「列車についてはその資料にある通りだ。それぞれの都市と王都を線路で結ぶ。ほとんどの経路は王都を経由する必要はあるが、それでも早く互いの移動ができて便利になる。物流も盛んになるはずだ。」
ゴードンの説明を聞きながらみんな資料を読んでいる。
これを事前に知っていたのは、私とクロードとゴードンと、魔導列車を造りたいのでその協力が必要なエレオノーラくらい。
「俺と宰相閣下とミザール公は既に了承したので3つの都市は魔導列車の運用は決定している。なので各公にも検討してもらいたい。」
「持ち帰るまでもないですな。これにのらなければ領主としての資質を疑われるところです。」
セリオンさんの言葉を皮切りに全ての大公が魔導列車の運用に賛成した。
一度領地に持ってかえって話し合うかと思ったけど即決だったな。
まあ、国ができたばかりの今ならデメリットもないし反対する理由もないだろうけど。
全員の賛成を得られたことで詳しい書類などは後日配布するということでゴードンは報告を締めくくった。
「では次は文部卿。お願いします。」
「うむ。」
エレオノーラは抑揚に頷く。可愛らしい見た目とは裏腹にどこか威厳があるように感じる。
けど隣のバトラーさんはハラハラしている様子。心配症なのかな?
「妾からは学校についてじゃ。建物や施設に関しては完成しておる。教師については募集中じゃが小学部だけなら簡単な知識を教えるだけじゃから集めるのもそこまで大変ではないのじゃ。問題は中学部と大学部じゃろう。なかなか教師集めに苦労しておるのじゃ。だから小学部、中学部、大学部があるが、まずは小学部から始めた方がよいじゃろう。小学部なら早ければ来年から、遅くとも再来年には開始できると思うのじゃ。」
うん。やっぱり専門の先生が必要な中学と大学は教師集めが大変らしい。
色々な人の協力を得てスカウトしているけど、まだ開始には時間がかかるかも。
「エレオノーラ。もし可能なら、専門の先生が確保できた学科だけでも開始できないかな?」
「うむ。確かに少しずつ学べる学科を増やしていく方向でも問題ないと思うのじゃ。それなら中学と大学も予定より早く開校できるのじゃ。」
他の人たちにも意見を聞いたところそれで問題ないということだったので、徐々に学科を増やしていく方針になった。
学校はなるべく早く始めたかったから意見がまとまって良かった。
「次は医務卿。お願いします。」
「はい。私からは各都市に設置された病院についてご説明いたします。施設は既に建設されておりましたので、陛下から紹介された医者の方々を配置し、現在病院は順調に経営されております。医者は各都市に一人しかおりませんが、今のところ人口も少ないのでなんとかなっておるところです。しかしこれから人口が増えていくことを考えますと、いくら医者が優秀であることを考慮しましても手が回らなくなるでしょうな。医療者の育成が急がれるかと。」
「うむ。学校の医学部の学科は最優先として急ぐのじゃ。」
「よろしくお願いいたします。」
エレオノーラの返事にセリオンさんは笑顔で頷いた。
やっぱり医者が広い都市に一人だけっていうのも少ないよね。だからといってホムンクルスばかりっていうのもなあ。人に医学の知識は身につけて欲しいし。
まあ、この世界には回復魔法とかあるので怪我はすぐに治っちゃうし、医学が発展していないのはそのせいでもある。
回復魔法で病気までは治せないしやっぱり必要ではあるんだけど、手術とかしても回復魔法で後は治せるから入院期間は短くなる。
それを思えば病気の負担もこの世界では少なくなると思う。
「あとはこの前陛下にご相談いただいた保険についてはもう少し時間をいただけると。」
「ああ。うん。すぐにできるものでもないからまとまったら報告してほしいな。」
「かしこまりました。」
保険については私が以前セリオンさんに考えて欲しいとお願いしていた。
さすがにこの短い期間では難しかったみたい。
まあ私も病院のことが落ち着いてからとは思っていたんだけど。
「私からは以上です。」
「ありがとうございました。次は法務卿。よろしくお願いします。」
「俺からは各都市で裁判所の設置が完了したことを報告する。それから、裁判員としてそれぞれの種族から一人ずつ選考してもらいたい。これは種族による審判の不利がないようにするためだ。もちろん、俺の部下として働いてもらうことにはなるが。」
「ええ。それで問題ないでしょう。」
全員の賛成が得られたため裁判員はそれぞれの種族から最低一人は選ぶことになった。
「現在、決まった法律を文章化して法典の作成中だ。完成したら配布する。」
うん。やっぱり法律を文章として残すのは大切だよね。
エレオノーラが印刷の道具を作ってくれたから量産はできるけど、やっぱり最初は手書きになってしまう。
パソコンがあればいいけど、さすがにそれはないからね。
「では最後に財務卿。お願いします。」
「はい。この半年で積極的に移民の受け入れを行った結果、予想以上の民が増えました。人頭税は一年ごとに払いますので今はまだ徴収はできませんが、入市税は多くの人が訪れているため既にかなりの額になっています。詳しくはこちらの資料をご覧ください。」
配られる資料には細かく税金の収支出支が記載されていた。
うん。さすがローランだね。
「ほう。これは見やすい。」
「ええ。陛下からいただいた本を参考にいたしました。」
え。そうなの?
どうりで見たことがあると思った。
異世界でも同じ書き方かと思ったけど違ったみたい。
「うぬぬ。やはりアルカイド領は収支が飛び抜けておるのじゃ。」
「玄関口ですもの。しばらくは仕方ないですわ。そのうち落ち着くとは思いますけど。」
「やはり入国する場所がここだけなのは大きいですな。仕方ないことではありますが。」
うん。たしかにアルカイド領だけ収支が凄いことになってる。
入国するためにはここを通るしかないから仕方ないけど。船で入国するのはこの海域では危険すぎるからね。
レティシアの言うとおりそのうち落ち着いてくるとは思うけど、しばらくは他の領との差が大きいことになるかも。
「でも入国税自体はアルカイド領ではなく国に入っている。今は人口比率がアルカイド領に偏っているけど、そのうち他の領にも人が増えればそこまで大きな差にはならなくなると思う。」
まあそれでも有利であることには変わらないけどね。
まあそんなこんなで配られた資料を確認しつつ話し合いは進み、各大臣からの報告は全て終了した。
あとは私の報告会かな!




