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王都を探索・・・ではなく視察をする

 開国から約1ヶ月。

 私はクロードの監視の元、日々公務に励んでいた。


「追加の書類だ。」


「え、また増えるの?ちょっと休憩・・・は、いらないです。はい。」


 クロードの視線に私は目を逸らしつつ書類を読んでサインをする。

 しかし、最近は大人しくしていたから、もうそろそろ外に出て書類からではなく自分の目で国の様子を見たいところだ。


「・・・はぁ。今日1日だけだぞ?」


「え?」


 驚いてクロードを見ると苦笑して私を見ていた。

 今日1日って?


「国の様子を見たいんだろう?最近は頑張っていたから多目に見ようと思っていたところだ。視察も大切なことだからな。」


「本当!?ありがとうクロード!そろそろ抜け出そうと思っていたところなんだけど、クロードの方から許可してくれて良かった!」


「え。」


「じゃ、行ってきまーす!」


「あ、ちょっと護衛は連れて・・・!」


 私はすぐに転移をすると私が王都に確保しておいた何軒かの建物の内のひとつに転移した。

 これなら急に転移で現れても人目もないし騒ぎにもならない。

 この建物は私が趣味で店を経営するために確保しておいたものだけど、こんなことにも使えるのは便利だ。

 隠れ家として私用の部屋を作るのもいいかもしれない。


 そういえば、転移をする前にクロードがなにかを言っていたような・・・?


 ま、いっか!



 私はアイテムボックスから着替えを取り出し、出歩いても目立たないような簡素なワンピースに着替え、髪と瞳の色を変えることのできるエレオノーラ作の魔道具を身につけると外へと飛び出した。


「おおー!結構人がいる!」


 外には物珍しそうにキョロキョロしながら歩き回っている人がほとんどで、人であふれかえっているというほどはいないけど、1ヶ月しかたっていないことを考えればなかなかの進歩じゃないだろうかというぐらいの人はいた。

 商売人はさっさと場所を押さえておこうと思ったのか、早めに王都に来ている人も多いのだとか。

 まあ王都っていえば人が一番集まるところだからそれは正しい判断だと思う。


 さて。町の様子はだいたい分かったところだし、役所にでも行ってみようかな。



 私は町や人の様子を見て回りながら役所を目指して歩いた。

 役所の前まで来ると思っていたよりも人が多くて驚いた。

 まあ、王都を目的に来たなら最初に役所に行っておかないと住民登録や店を開くこともできないからね。


 扉を開けて役所の中へ入ると、職員たちが対応に追われている様子が見える。

 役所のシステムが珍しいのか、職員に色々質問している人が多い。

 職員の説明によって戸籍に感心の声を上げている人もいた。

 うん、みんなちゃんと頑張っているみたいでなにより。

 後で差し入れでも持っていってあげよう。


 私は仕事の邪魔をしないように少し様子を確認すると役所をあとにした。

 あの様子だとポラリス王国の住民になってくれる人も多いようだから今は人が増えることを期待しておこう。


 探索、じゃなくて視察をしているけど、まだそんなに見て回るところは少ないな。

 今のところ問題はおきていないようだし。

 町は私が一気に建てたから建物が余っている状態だった。

 それでも新しい店は開いていたし、露店を開ける区域には露店が出ているそうだ。

 ちょうどお昼くらいなので食事のできそうな店に入った。

 熊亭という店だそうだ。

 熊のお肉でも出るのだろうかと考えていると「いらっしゃい」と奥から女性がやってきた。


「こんにちわ。食事をしに来たんですけど。」


「はい。お食事ですね。こちらのお席にどうぞ。」


 たぶん女将さん?に案内されて席につくとメニューを渡されたのでなんの料理があるか一通り見てみた。


 この世界では紙は比較的高価なものだけど、私は国民に気軽に使ってもらいたいと思って紙の大量生産を行った。

 だからポラリス王国では安価に平民でも紙を手に入れることができるので、ポラリス王国の店ではメニュー表のように紙が利用されている。

 他国ではあまりない光景だそうだ。

 ちゃんと平民にも紙が行き届いて利用されていることが分かって安心した。


「えーっと。このチキンステーキとサラダをお願いします。」


「チキンステーキとサラダですね。少しお待ちください。」


 女将さんはにっこり笑って厨房の奥に戻っていった。

 メニューを伝えている声がここまで聞こえてきて思わず元気な人だなぁと苦笑してしまった。


 待っている間見渡してみると昼時だからか、結構多くの客が食事をしていてなかなか繁盛しているみたい。

 みんな笑顔で楽しそうに食事をしていてなんだか平和でこちらまで嬉しくなってくる。


「ああ。うまいなここの食事は。香辛料がふんだんに使われているし、まるで貴族になった気分だぜ。」


「この国ではこんな食事が当たり前だからな。ほんと、この国に来て良かったよ。」


「これじゃあ、他の国には戻れないな!」


「ああ。全くだよ!」



「うーん!美味しい!甘いものが普通に食べられるなんて幸せ!」


「他の国じゃあとても高価でなかなか食べられないものね。」


「うんうん。お菓子のレシピが本屋に売ってあったから思わず買っちゃったよ。自分で作れるなんて考えたこともなかったけど、見たこともない美味しそうなお菓子がいっぱい載ってたよ!」


「本当!?今度私にも見せて!」


「分かったわ。じゃあ一緒に作ってみる?」


「賛成!」


 聞き耳をたてて話を聞いているととても楽しそうな会話が聞こえてくる。

 どの人もポラリス王国のことをよく思ってくれているみたいで、みんな笑顔でこの国のことを話している。

 なかには私のことを誉め称える声もあってものすごく恥ずかしくて照れてしまう。

 そういった声には人族以外の人たちが多いから、やっぱり人族以外の人たちは苦労してきたんだなあと思った。

 差別意識のある人は入国はお断りしているから、人族以外の人も思い思いに自由に過ごすことができて、もうこそこそ生きる必要もない。

 多種族共存を目指して良かったと改めて思うよ。


「お待ちどうさま。チキンステーキとサラダですよ。」


 しばらくすると料理を持って女将さんがやってきた。

 運ばれてきた料理は香辛料が使われていてとてもいい匂いがして凄く美味しそう。

 サラダにも私が発信したドレッシングがかかっていて、エルフたちが生産してくれている生の野菜がより美味しく食べられるようになった。


「凄く美味しそうですね!」


「そういってもらえて有難いです。これも女王陛下のおかげですよ。ここには最近来たのですが、とても美味しい食材が安く仕入れることができるんです。商売もしやすいですしね。」


 女将さんの言葉にちょっと照れてしまうけどここで照れたら不思議に思われるよね。

 平常心、平常心。


「そ、そうですか。良かったですね。ここでの暮らしはどうですか?」


「とても居心地がよくて住みやすい国ですよね。みんな生き生きとしてますし、私たちも毎日楽しく働いています。この国にくる決断を早くして良かったと思っているんです。お客さんも最近こちらに来たんですか?」


「ええ。まあ、そんなかんじです。」


「そうですか。ポラリス王国はいい国ですからね。それじゃあ、ごゆっくり。」


 笑顔で女将さんは厨房へと戻っていく。

 女将さんとの話を終えてせっかくなので冷めないうちに料理をいただこう。

 一口サイズに切り取って口に入れると鶏肉が柔らかくて肉汁があふれる。

 香辛料もよくきいていてとても美味しい。

 野菜はみずみずしくてドレッシングがよく合っている。


 料理を完食をしてほっと息をついた。

 うん。凄く美味しかった。

 日本ほどバリエーションは多くないけど、味が劣っているということはなく、現代日本の食事で舌の肥えている私にとっても満足できる味だった。

 町の人の声を聞くこともできたし、視察の結果も満足できるものだったしね。


 もっと住みやすくて居心地のよい国にしていけたらいいと思えた。



 料金を支払って熊亭を後にした私は色んな店を周り王都の視察を終えた。

 城の人たちのお土産を雑貨屋などで忘れずに買いこみ、クロードの機嫌が悪くならないうちに早めに帰ることにした。

 クロードを怒らせると後が怖いからね。

 それにまだ大公たちの領地の視察もしたいから、クロードを怒らせて視察を却下されたら目も当てられない。


「というわけでただいまー!」


 お土産を手に執務室に転移した私の目の前には仁王立ちしたクロードの姿が。


 あ、あれ?

 早めに帰ってきたと思うんだけどな。

 特に問題も起こしてないし、今回はお忍びでこの前みたいに目立ったこともしてないはず。

 それなのに気のせいかクロードはご機嫌ななめ?


「えっと。あの」


「お帰りなさいませ。陛下。視察は楽しかったですか?」


 いつもと違う丁寧な言葉に、顔だけにっこり笑顔のクロード。

 あ、これ怒ってらっしゃるわ。目が笑ってないもん。


 問題は私に、クロードを怒らせるようなことをした身に覚えがないことなんだけど。


「ところで女王陛下はどなたと視察に行かれたのでしょう?」


「うん。あはは。えっと、ひとりだったり、しなかったり・・・?」


「なるほどなるほど。一国の女王陛下ともあろう方が護衛もつけずに一人で飛び出していかれたと。」


「あー、えっと。なんといいますか。・・・あ、お土産はありますよ?」


 クロードの目が極寒のスマイルに耐えられなくてお土産を目の前につきだすと、クロードは更ににっこり笑って


「正座。」


「・・・はい。」


 お土産の効果も虚しく、この後の説教は数時間にも及んだのだった。

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