ホタテ売りの少女?いいえ、ホタテ売りの女王です!
冒険者たちと別れた私はポラリス王国の玄関であるアルカイド領の町をぶらぶらと歩いていた。
前日までは考えられないほど人が溢れ活気に満ちていて人魚の住人たちも張り切っているようだった。
今日来た人たちは見るもの全てが珍しそうにキョロキョロしている。
まるで田舎から上京してきた人みたいでちょっと面白い。
まあ町の建物とか風景が珍しいんだと思うけどね。
町並みだけで観光地になりそうだ。
人のいない町はなんだか寂しかったからやっぱり人が大勢いると賑やかでいいね。
それだけ治安も悪くなるかもしれないけどそれは仕方がないと思っている。
しかーし!そのために色々準備してきたから防犯はばっちりなのだ!
少し説明すると交番を作って人魚族の衛兵が常に対応できるようにしている。
これだけだと他とあまり変わらないように見えるけど、驚くべきなのはそこに設置されている私考案、エレオノーラ作成の魔道具の数々。
被害者の記憶を映し出す魔道具や探し物を見つけるための魔道具などなど、二人で調子に乗った結果凄い数の防犯グッズができてしまった。
衛兵による見回りもしているし安全だと思う。
これで問題があったら色々改善していく予定だ。
まあこんな感じで町の様子を見て回っているところなんだけど、なにかが足りないような気がするんだよね。
私は歩きながらしばらく考えた結果あることに気づいた。
そうだよ!露店がないよ、露店が!異世界っていったらやっぱ露店でしょ!
たしかにまだ店も少なく募集しているところで露店はない。
これから増えていくだろうとは思うけど思い立ってしまったらこれは行動しなければ!
そして私は早速行動を開始したのだった。
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「はい!いらっしゃい!いらっしゃい!美味しい大粒のホタテだよ!身がぷりっぷりで美味しいよ!」
えー、私は今露店でホタテを売っています。
なぜ私がこんなことをしているのかといいますと、町に露店がないことに気づいて、でもみんな忙しそうだったから、だったら自分でやればいいんじゃね?ってことで自分でテントと網焼きの道具を準備して露店を開いてみました。
港町っていったらやっぱり海鮮でしょ!ってことで私の好きなホタテをチョイス。
味つけは醤油バター。
ちょっと控えめにすることがポイントです。
ホタテの貝を全てとり片方の貝にホタテの貝柱をのせてバターを少しのせて醤油も少しちょろり。
貝がお皿変わりなのでとってもエコ。
火を起こして網にのせてホタテが固くならないぐらいに火を通す。
香ばしいバター醤油の香りが広がって客を引き寄せる。
予想以上に人が集まってちょっとひびっております!
まあ他に露店がないからだとは思うけど。
店もいいけどこういう露店って匂いも届きやすいしとっても美味しそうに見えるんだよね。
目に入るとちょっと寄ってみようかなって思っちゃうし。
「お嬢ちゃん!それとってもいい匂いがするな!」
「へい、いらっしゃい!これはバター醤油で味つけしたホタテで美味しいよ!ひとつ食べていって!」
「お嬢ちゃん!俺にもひとつくれ!」
「私にもおくれよ!」
「はい!たくさんあるから順番に並んで!じゃないと売らないからね!」
私がそう言うと我先にと集まっていた人たちが慌てて並んで行列ができた。
うん、美味しいものの力は絶大です。
「な、なにをしているのかしら。」
「あ、美人が来たと思ったらレティシアじゃん!どうしたの?」
ホタテを売っていると噂を聞いてきたのかレティシアが露店までやってきた。
人魚族の人が見にきて何人かが私の顔を見てぎょっとしていたからたぶん来るだろうなとは思っていたんだけど。
「どうしたの?ありません!部下の話を聞いて来てみればへい、じゃなくて花梨様が露店を開いているなんてなにを考えているのですか!?」
「わざわざ忙しいところ来てくれたの?ありがとね。」
「忙しいと分かっているならこんなことなさないで下さい!」
レティシアの言葉に肩をすくめる。
みんなが忙しそうだったから自分で店を開いたのに逆効果だっただろうか?
ちゃんと役所に届け出も出したというのに。
「とにかく急いで露店を閉めて私の屋敷に来て下さい。」
「えー、せっかく繁盛しているし、まだこんなにホタテ余っているのに。」
「そんなことはいいですから!そもそもどうして露店を開こうなんて思われたのですか!」
「聞いてくれるか!レティシアさん!」
私は目をくわっと開いてレティシアの方を見る。
もちろんホタテを焼きながら。
「私は町を見て回っているとあることに気づいたのだよ!」
「は、はあ・・・?」
「あれ?露店がない。どうしようか?そうだ!なければ自分で開いちゃえばいいじゃない!ということに!」
「いや、おかしい!おかしい!おかしい!」
レティシアは首をぶんぶんとふっておかしいを連呼する。
むう。レティシアだけじゃなく後ろの人たちまで首をふって全力で否定されてしまった。
「まあレティシアも食べてみてよ。美味しいよ。」
「たしかにいい匂いですけれど、それより!」
「はい!」
私は焼きたてのホタテをレティシアの口に放り込んだ。
「あ、あつ!はふはふ。・・・あ、美味しい。」
レティシアの反応に私はニヤリと笑う。
新鮮なホタテにバター醤油の組み合わせが美味しくないはずないからね!
「・・・は!こ、こんなことでは誤魔化されませんわ!」
「じゃあもうレティシアはホタテはいらないんだね。」
「・・・もうひとついただきます。」
少し恥ずかしそうに答えるレティシアに私は新しく焼いたホタテを渡してあげる。
それにしても凄く美味しそうに食べるけどバター醤油味が気に入ったのかな?
私はそう考えて、いいことを思いつきわざとらしくため息をついた。
「はぁー。もしこのホタテを全て売り切って好評だったらレティシアにこの味付けを教えてあげようかと思ってたんだけどな。」
ピクリ!
「でも今すぐやめろって言われたからしょうがな・・・」
「よし!花梨様!このホタテをすぐに売り切ってしまいましょう!さあボンヤリしている暇があったらさっさとホタテを焼いてください!」
「え、いや、ちょっと・・・」
「口を動かしている暇があったら手を動かす!」
「は、はい!」
レティシアの有無を言わさないような視線に慌てて背筋を伸ばして返事をする。
自分で誘導したとはいえちょっと理不尽じゃないだろうか。
それに一応私、あなたの上司なんですけど。
あ、いやなんでもないです。
仕事しますからそんな顔で見ないでください。
私は慌ててレティシアから視線をはずしホタテを焼き始める。
・・・ホタテを大量に仕入れたのは失敗だったかもしれない。
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「はー、売り切った。もっとのんびり売るはずだったのにどうしてこんなことに。」
私はレティシアの美人スマイルのおかげもあってあっという間にホタテを売り切ることができた。
なかなかの好評だったのはいいんだけど、ホタテを焼きすぎて疲れてしまった。
もう当分はホタテを見なくてもいいかも。
「やりましたわね、花梨様!」
いい笑顔のレティシアに酷使させられた文句を言いたいところだけど、たきつけたのは私なのでしぶしぶ口を閉ざす。
夢でホタテが出てきたらどうしてくれるんだ、まったく。
「花梨様、お約束のもの忘れていませんね?」
「うん、そんな素敵な笑顔で迫ってこなくてもちゃんと教えてあげるから。」
顔を近づけてくるレティシアを押し返しながらそういうとレティシアは満足そうに笑った。
「それなら結構です。ところで今さらですがこんなところにいてよろしいのですか?公務の方が忙しいかと思っていたのですけど。よくクロードがお許しになりましたね。」
「あー、うん。ちょっと視察に来たんだよ。」
私が目をそらしつつそういうとレティシアはジト目を向けてきた。
「・・・今日のところは早く帰られた方がよろしいかと思います。」
「私も実はそう思うんだけど、なかなか帰りづらいというか、クロードが怖いというか。」
「それならこんなことをなさらなければよろしいでしょうに。」
レティシアの言葉に私がぐっと拳を握りしめて否定する。
「いいや!たとえ大きな試練が待っていたとしても私は行かなくてはならないのだ!」
「つまり、たとえクロードの説教が待っていたとしても花梨様は公務をさぼると。」
「平穏な道を進むくらいなら、私は茨の道を選ぶ!」
「大人しく公務をするくらいなら、花梨様はクロードの説教コースを選ぶと。」
「そうともいう!」
「そうとしかいいません。」
レティシアは鋭いつっこみをすると深くため息をついた。
「片付けはこちらでしておきますから花梨様は早くお帰りになってくださいな。こちらまでとばっちりを受けるのは遠慮したいですから。」
「その手があった!」
「ありません。」
「は、はい。」
私は王宮に帰るのを憂鬱に思いつつも仕方がないので片付けをレティシアに任せとぼとぼと帰路につく。
といっても転移を使うと一瞬で着いてしまうので歩いたって意味はないんだけど。
今初めて転移の魔法をつくったことを後悔したよ。
そして私は魔法を発動してクロードの待つ王宮へと転移したのだった。
そのあと王宮には謎の雷が落ちたらしい。




