ポラリス王国いよいよ開国!
ポラリス王国開国当日。
シェフィールド王国とポラリス王国の国境である橋には既に朝早くから多くの人が押し寄せていた。
前日から並んでいた者もいたほどだった。
しかしポラリス王国の入国検査は条件が厳しいことが広告で知らされていたので、自分は無事に入国できるだろうかと不安に思っている者も多かった。
特に他国の諜報員たちはその思いが強かった。
また国境を越えるにはどこであってもわりと高めの税金がかかったり、荷物の検査があったりして簡単に国境を越えないようになっている。
冒険者になれば国境を自由に行き来ができるので国境には冒険者の数が多かった。
そしていよいよ国境が解放される。
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さあ、やって参りました開国の日!
きっと橋の向こうにはポラリス王国に来るために多くの人が押し寄せていることでしょう!たぶん!
うん、本当にそうだといいんだけどね。
ポラリス王国側の橋の入り口には実は門があって入国検査をする場所もとってある。
実はあの橋横幅が広いんだよね。
だから検査をしてくれる人たちの休憩するための建物とかある。
門は開いている時間が決まっていて、朝の9時から夕方の6時までだ。
それ以外は許可をとるか、緊急時しか出入りできない。
そしてもうすぐ朝の9時だ。
ポラリス王国の玄関口になるのはレティシアの治めるアルカイド領。
橋の門を抜けるとなんとそこはアルカイド領の都市。
国境を抜けたらすぐ都市に入るなんて普通はあり得ないけど、アルカイド領は人魚たちが多く住む町だ。
だから海に面した町のためこういった形になっている。
実際、アルカイド領は他の領に比べると海に沿って一番海に接している面積が広い。
人魚の種族は他の種族と比べるとどの種族とも友好的な種族だ。
そのためレティシアが外交担当になったし、ポラリス王国の玄関口もアルカイド領がいいと考えた。
しかし国境を越えてすぐ都市があるのは危険じゃないかと思ったんじゃないだろうか?
でも本当はそんなことはない。
国境のこの門はかなり頑丈でなかなか破ることはできない、というか不可能に近い。
ドラゴンたちがブレスを放っても大丈夫な強度にしたからね!
あと橋がある方の海は珊瑚の常に見張っている場所でもあるため、海竜が護衛をしてくれていようなものだ。
さらに門にはゴーレム君たちが1日中見張りをしてくれている。
うん、自分で説明していてもなんかここが一番安全な気がしてきた。
というわけでポラリス王国にきた人は必ずアルカイドを通ることになる。
もし真っ直ぐ王都まで来るとしたらアルカイド領の次にメグレス領を通って王直轄地まで来るのが最短距離。
つまりは、今日開国したとしても王都まで来るには数日はかかるんです!
「というわけでアルカイドに行きます!」
「却下。」
「何故だ!」
クロードにアルカイド行きを反対され私は膝をつく。
「女王がふらふらと出歩くものじゃない。警備にも不安があるしな。」
「大丈夫だよ!ちゃんと変装していくし!」
「そういう問題じゃない。」
クロードの冷たい言葉に私は肩を落としながら仕方なく諦める・・・わけがない!
「クロード。私は誰にもとめられないよ。転移!」
「ちょ!」
クロードが慌てて私の手を掴もうとしたけど、それより早く転移をする。
ごめんね、クロード!
ちょっと様子を見てくるだけだから!
「仕事からの脱走の捨て台詞をさも格好いいように言うな!」
・・・なんか聞こえた気がするけどきっと気のせいだよね!
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9時になった。
シェフィールド王国側の橋が解放され多くの人がなだれこむ。
そしてずっと誰も渡ることのできなかった海の上を歩いていることに感動しながらしばらく進むと少しずつ開いていく大きな門が見えてきた。
自然と人々の進みが早くなる。
この先はどうなっているのだろうか?
未知の世界が広がっているかもしれない。
大きな期待をしながら人々はついにポラリス王国の国境へとたどり着いた。
門には武装した門番らしき人魚族が待っていた。
どうやら検問のようだった。
「ポラリス王国に入国希望の者はこちらに並んでくれ。入国基準に達しない者は入国ができないので注意するように。」
門番の言葉に少し動揺する人々。
犯罪者かどうか確認することはあっても、入国基準が定められている国など聞いたことがない。
「俺は冒険者だ。冒険者は自由に国境を越えることができるはずだ。通らせてもらうぞ。」
一人の冒険者がギルドカードを提示して入ろうとすると門番がそれを止める。
「誰であろうとポラリス王国の住民でないものは検査を受けてもらう。検査といってもこの魔道具に手をおきながら質問に答えてもらうだけだ。それ以外は他の国と変わらない。これは冒険者ギルドがポラリス王国に設置するときの条件となっていることなので冒険者でも関係ない。検査を受けない場合は入国を諦めてもらうことになる。」
門番の言葉にしぶしぶ引き下がる冒険者。
冒険者ギルドが認めていることなら自分にはどうにもできないことが分かっているのだ。
「では最初の者、この魔道具に手をおいてくれ。」
一番先頭にいた男が少し緊張しながら手をおいた。
「質問には、はいかいいえで答えてくれ。あなたは犯罪者だろうか?」
「いいえ。」
魔道具になんの反応もない。
「次だ。あなたは人間以外の種族を差別することはあるだろうか?」
「え?いいえ。」
門番の質問にざわめく人々。
まさかそんなことを質問されるとは思っていなかったんだろう。
他種族平等の国とは聞いていたがここまで徹底しているとはと驚いている。
おそらくあの魔道具は嘘を見分けるものなのだと予想できた。
列に並んでいた何人かが顔をしかめた。
魔道具がなんの反応を示さなかったのを確認した門番は男に通ってもいいと許可を出す。
「問題なし。身分証はあるか?なければ銀貨3枚だ。」
先頭の男は銀貨3枚を渡した。
「たしかに。滞在期間は一週間だ。それ以上滞在したいときは町の役所に行って追加料金を払ってくれ。ちなみに追加料金は大銅貨2枚だからな。」
銀貨3枚は国境を越えるときの税金なので高くなっているが、滞在料金は大銅貨5枚だ。
身分証がある場合は滞在料金は必要ないが、身分証のない場合は滞在料金が必要になってくる。
これはどこの国でも同じことだった。
「それではようこそポラリス王国、人魚の町アルカイドへ!」
最初の一人がポラリス王国へと入国した。
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検問で質問が行われ、入国できるものやできないものが一喜一憂しているとき、既に入国を果たした何人かはアルカイドの町並みに驚きを隠せず呆然としていたのだった。
「なんだこれ。こんな町見たことないぞ。」
普通の港町とは違う地球の南国リゾートをイメージして造られたこの町は、中世の異世界の人々が見たことがない風景なのは間違いない。
実は橋からは国の内部が見えないようになっていた。
ポラリス王国全体は強力な結界が張られているためだ。
綺麗な海に解放的な南国風の建物、そして歩く人魚たち。
国境を越えてきた全員がその光景に目を奪われていた。
しばらくそこで立ち止まっていたが、後ろがつっかえてきたことに気付き慌てて動き出す。
まず全員が宿を探し始めた。
アルカイドには人魚が経営する宿が多いが、レティシアが声をかけた人間の経営する宿が3軒、国営の高級宿が1軒ある。
レティシアが多くの人魚を連れてきたので結構な人数の人魚がいて、この日のために店を準備しているものが多くいたので意外なことに店は充実していた。
ポラリス王国にきた人は全員がここを通ることになることを考慮してのことだった。
ここを素通りしていく人もいるかもしれないが、この町を見れば滞在したくなるだろうとこの町に住んでいる人の全員が自信を持っていたのだった。
その予想は的中し、ほとんどの人が宿をとっていた。
中にはダンジョンを目指す冒険者や吸血鬼の弟子入りを目指す錬金術師などもいてその町に向かって行ってしまったが。
ひとつの人の集団が人魚の宿にたどり着いた。
全員が検問を通っているのでもちろん他種族に偏見を持っている人は一人もいないため、人魚の宿にも普通に宿泊する。
「いらっしゃい。宿泊ですか?」
人魚族の美女が笑顔で話しかける。
人魚族は美形が多いのだ。
ちょっと気分が上昇した男たちが我先にと宿をとる。
「俺は10日宿泊するぞ!」
「俺は15日だ!」
男たちの意味のない戦いが始まった。
「はーい。1日で大銅貨2枚で、朝食と夕食はプラス銅貨4枚で用意できますよ。」
全員が朝食も夕食も頼む。
人魚たちの作る魚料理は美味しいことが知られているので全員が楽しみにしているようだった。
人魚たちは生魚を食べるが、他の種族は決して生魚を食べることはない。
人魚秘伝の調理方で調理した魚でなければお腹を壊してしまうからだ。
生魚に忌避感を覚える人が多いのは事実だが、人魚の調理した生魚を食べたある有名な料理評論家のような人物が絶賛して広めたので、最近は怖いけど生魚を食べてみたいと思う人が増えてきたのだった。
無事に宿をとることのできた人々はアルカイドの町へと観光しに出掛けていった。
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「おー!結構な人が来てるー!」
私が王宮を抜け出してきたときには、もうアルカイドには多くの人が訪れていた。
しかし開国初日ということで人数制限をしているから、それがなかったら町は人でぎゅうぎゅうになっていたかもしれないな。
こうして人がたくさんいるところを見るとやっぱり嬉しくなる。
王都なんか人いないしね。
実は王都は異世界というよりガラスを多く使った現代風に仕上げたんだけど、人が誰もいないからなんとも寂しい感じになっている。
魔法と科学の融合した都会になっているので、来た人たちはみんな驚くと思うんだけど。
「ねえねえ。ちょっとそこのお嬢ちゃん。」
私が肩をたたかれて振り替えるとそこには6人の冒険者パーティーがいた。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
そういって話しかけてきたのは弓を持った女性だった。
こういうのをアーチャーっていうんだっけ?
というか私お嬢ちゃんと言われるほどの見た目でもないと思うんだけど。
「どうしました?」
私が笑顔で答えるともう一人の女性が銭湯を指差した。
こちらは身軽な格好でたぶんシーフというやつだと思う。
私が女だからか四人の男性は少し距離をおいてこちらを見ていた。
「これはなんの建物なのかしら?」
「ああ、これは銭湯という公衆のお風呂ですよ。」
「銭湯?」
二人の女性は首を傾げる。
予想はしていたけどこっちの世界には銭湯はないんだろうな。
「お風呂って物好きの貴族が使っているものじゃなかったっけ?」
「そうなんですか?この国では誰でもお風呂に入れるように公衆のお風呂が造られているんですよ。この国の人はタダで、それ以外の人は銅貨5枚です。」
「え!?銅貨5枚!?」
「お風呂って凄い値段がしたと思うんだけど。」
二人の驚いた様子に設置した私としてはちょっと鼻が高くなる。
「ぜひ一度行ってみてください。体が綺麗さっぱりして凄く気持ちいいですよ。髪を洗うためのシャンプーや髪がさらさらになるリンスというのもあって自由に使えますから。」
「「それ本当!?」」
おお、女性二人の食い付きが凄いな。
やっぱり髪がさらさらになるというのは女性にとって見逃せないことなのかもしれない。
これは商売になるかも。
「そういえばお嬢ちゃんの髪、凄い綺麗よね。」
「これは絶対に行かないといけないわね!教えてくれてありがとう!」
そして二人の女性は私と話を終えると待っている男性陣のところに戻って行った。
あの人たち、銭湯を気に入ってくれるといいな。




