開国の準備と代表会議2
役所の職員たちを雇って数週間、職員たちも新しい生活に大分慣れたようだった。
仕事内容は一応マニュアル本を渡したけど、しばらくの間は私とクロードが仕事を教えていた。
本当は女王と宰相がするような仕事ではないけど、まあ他に誰もいないんだから仕方ない。
「役所も形になってきたね。大公のみんなも頑張っているみたいだし。ちょっとだけ様子を見に行っているけどちゃんと立派な町が出来上がっていたよ。」
「まあダンジョン機能で反則技を使っているようなものだからその分早く出来上がるだろうな。」
書類を確認しながら私が話すと、同じく書類仕事をしていたクロードが答えた。
クロードの言うとおり通常では考えられないようなスピードでそれぞれ町が出来上がってきている。
私の直轄地である王都とクロードの治めるメグレス領にはあまり人がいないけど、他の領地では知り合いを呼んだりしているので少し人が増えてきている。
意外なことに今一番人口が多いのはエレオノーラのミザール領だ。
エレオノーラの復活は吸血鬼たちの間で広まっていて、声をかけただけで多くの吸血鬼たちが集まってきたらしい。
エレオノーラは吸血鬼たちにとって伝説のような存在なんだとか。
本当は凄い人だったんだね、あんなんだけど。
それにしてもこの書類、なかなかなくならないんですけど。
「ねえ、あと開国するのに必要なものってなにかな?」
私がちょっと休憩しようと思って紅茶を手にしながら聞くと、クロードは手をとめずに答える。
「そうだな。最低でも宿と食堂は必要だ。今その為のこちらで店を開きたい希望者と国営の宿の職員を選考している。それが終われば開国もすぐそこだろうな。」
「はい!私もそれしたい!」
「却下。それよりもその書類仕事の方を終わらしてくれ。ただでさえ役所の準備に時間をとられているんだ。・・・はい、これも追加だ。」
クロードが私の机に追加の書類をどん!っと置いた。
「まだ増えるの!?せっかくこれだけ終わらせたのにー!」
「これでも俺の方でほとんど処理しているんだ。ほら、泣き言言ってないでさっさとする。」
「ヴヴ~~・・・。」
書類仕事から解放されるのはまだまだ先のようだった。
ある日、再び代表会議が開かれ、私を含め大公たちが王宮の会議室に集合していた。
「ふ、ふ、ふ。諸君。ついに、ついにこのときがやってきた!」
大公たちも真剣だけど期待に満ちた顔で私の次の言葉を静かに待つ。
そして私は喜びを胸に拳を突き上げた。
「書類からの解放のときだ!」
がくっ!×7
大公たちが脱力したようにカクンと傾いた。
なんかみんなテレビでよくありそうなリアクションになっている。
ゴードンに至っては椅子から転がり落ちていた。
どうしたら背もたれのある椅子から転がり落ちることができるのかは分からないけど、面白いネタリアクションありがとう。
・・・え?ネタじゃないって?
眉間を指で押さえたままフリーズしていたクロードが早々に復活すると、深い、それは深いため息をついた。
「クロード。そんなに深いため息をついたら幸せが逃げちゃうよ。」
「誰のせいなのか考えてもらいたいですね。それよりもなんですか、書類からの解放のときって。」
「いやー、私の今の素直な気持ちがつい出てきてしまって。」
あはは。と笑う私を見てクロードはもう一度ため息をついた。
「そもそもこれからも書類仕事はありますから。むしろ増えます。」
「なん、だと・・・!」
クロードの言葉に思わず絶句してしまう。
おお、私の異世界旅行計画が・・・。
大公たちを見るとほとんどの人がこちらを見て苦笑している。
でもゴードンとエレオノーラは白目を剥いていて二人の口から魂が抜けているような幻覚が見えた。
うん、良かった。仲間がいた。
でもゴードン、さっき私の言葉にオーバーリアクションしていたはずなのになぜその反応なのかな?
「このままでは話が進まないので会議を始めたいと思います。」
クロードが仕切り直しをするように言葉をかけ会議が始まる。
復活したゴードンとエレオノーラもさっきのはなんだったんだというぐらいにピシッと背筋を正し、真剣な顔になる。
こういうところはさすがなんだけどな。
「これまで開国に向けて様々な準備を進めてきました。それぞれの領地に個性のある立派な町ができていると思います。そしてようやく開国まで残り一週間となりました。今回は最終調整のための会議を行います。」
そしてそれぞれの活動報告が行われた。
他の領地ではもう既に生産活動を始め、銭湯も開いているらしい。
宿や食堂も少しだけど開店している。
王都でもクロードが採用した店が準備していて国営の宿ではセルジュとアネットの厳しい審査を通った人が働いている。
国営の宿は高級宿なんだって。
お客さんはまだいないけど。
うちには優秀な部下がたくさんいるから私がその場に立ち会わなくても大丈夫なんだよね、ちくせう。
実はもう商業ギルドも冒険者ギルドも準備バッチリだったりする。
ギルドの人たちは橋を渡って移動してきた。
一度にあの人数をドラゴンで運ぶのは大変だからやっぱり橋を造って良かったと思う。
まあ私の転移の魔法でも良かったんだけど、私が迎えに行くのは駄目だとみんなに止められたんだよね。
建物は向こうの要望を聞いてこちらで用意したので荷物を運ぶだけで早く準備が終わったそうだ。
法律についても細かく詰めていった。
人種差別は処罰の対象とか、学校のこととか、子供は国を挙げて保護することとかポラリス王国独自の法律もある。
税金については私はあまり知らないのでほとんどクロードとローランが決めている。
シェルフィート王国より少しだけ高いそうだけど色々無料で利用できる施設があるからそれを考えれば格安らしい。
病院は私は無料でいいと思ったんだけど、それだと病気や怪我をしても無料で治療を受けられるから大丈夫と楽観視してしまうそうなので、子供は無料で大人は安くで治療を受けられることにした。
他の国では医者はいるそうだけど、平民はなかなか治療を受けられないうえに受けられたとしてもお金持ちだけでかなり高額が必要になるらしい。
きっと治療を受けられなくて亡くなっていった人が大勢いるんだろうな。
それを聞くと一般の病院を建設して良かったと思う。
「最後に陛下からお言葉があります。」
開国に向けての細かい調整の話し合いも終わり進行をしていたクロードが私に話をふる。
私はみんなを見渡してから話を始める。
なんかみんな身構えているけど、今度はちゃんと話しますよ?
「これまでみんなよく頑張ってきてくれたと思います。みんなのおかげでここまでくることができました。ありがとう。最後に開国に向けてみんなに忘れないで欲しいことは、私たちが目指す国は他種族共存の国だということです。今はそれぞれの種族で活動をしていますが、それは準備にすぎません。それぞれが造るみんなの為の町を造って欲しいと思います。困ったことや相談したいことがあれば遠慮なく言ってください。できるだけ力になります。それでは開国まであと少しみんなで頑張りましょう!」
私の言葉に大公たちも応えてくれる。
私はちょっとした満足感を覚えてクロードの方を向いてにっこり笑う。
クロードも私の方を見てにっこり笑い
「そのドヤ顔さえなければ百点だったんだがな。」
「・・・。」
ふっ、最後の最後にやっちまったぜ。
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そのころシェルフィート王国ではポラリス王国の開国の広告が貼り出され、人々の噂の中心となっていた。
この広告はきちんとシェルフィート国王に許可をとって行っていて、貼り出してくれたのもシェルフィート王国の衛兵だったりする。
これはシェルフィート王国がポラリス王国との親交が深いことのアピールにもなっていた。
シェルフィート王国はポラリス王国唯一の友好国であり、ポラリス王国のドラゴンという戦力はとても魅力的だった。
今はまだ知られていないが、ポラリス王国はとても豊かな土地なので貿易もこれから行われていくことになる。
ちなみにシェルフィート国王へお詫びの品として献上したチョコレートは王族からとても高評価を得て、シェルフィート国王はすでに輸出の約束を勝ち取っていた。
ドラゴン騒ぎやいきなりドデカイ橋ができたことで、無理もないが、ポラリス王国は既に他国からも注目を集めていた。
元々未踏の場所であった珊瑚の守ってきた果ての海と呼ばれている海は、ロマンを求める冒険者や研究者、新たな土地を求めた国の兵までもが繰り出しては返り討ちにされた幻の場所であった。
そんな場所に新しい国ができたとなっては注目されないはずがなかった。
しかし、開国の通知はシェルフィート王国にしかされていないし、ポラリス王国に行くためにはシェルフィート王国を必ず通る必要があるため、シェルフィート王国と交流がなかったり仲の良くない国はポラリス王国に行くことすら難しくなる。
シェルフィート王国はレザラム帝国ほどではないが大国であり強硬な手段もとれないため、これを機にシェルフィート王国へ交流を求める国や、関係を改善しようとしている国が増えることになる。
また他種族共存の国であることが大々的に広められ、それまで不遇な扱いを受けてきた一部の種族たちにとっての希望となった。
それを耳に挟んだ獣王国は必ずポラリス王国と親交を図ろうと動き始める。
一方で、獣王国と敵対しているレザラム帝国や、人間至上主義の国々などはそのことに頭を抱えていた。
他種族共存のポラリス王国と友好を結ぶことは不可能に近く、しかしレザラム帝国を返り討ちにしたため下手に敵対することもできない。
とにかくそれらの国々は情報を得ようとスパイを送ることになる。
後日、スパイが片っ端から追い返されさらに頭を悩ませることになるとは知らずに。
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「エレオノーラ、例のものできた?」
「もちろんなのじゃ!頼まれていたものはバッチリなのじゃ!」
エレオノーラは完成した魔道具を自慢気に見せてくる。
「名付けて、『嘘まる分かり君』なのじゃ!」
「名付けちゃったのかぁ・・・。」
自慢気にぺったんこの胸を張る伝説の吸血姫さん。
なんか色々残念だ。
「むふふ、なかなかの自信作なのじゃ。」
「おお、それは凄い。」
エレオノーラの自信作ならかなり期待できそうだ。
「もちろんなのじゃ。なにせ一晩寝ずに考えたのじゃ!」
「自信作って名前の方かい!」
魔道具じゃなくてまさかの名前が自信作なんて。
ネーミングセンス私より悪いんじゃないだろうか?
キラキラした目で感想を聞いてくるエレオノーラに言葉がつまる。
名前はともかく頑張って作ってくれたから傷つけるようなことは言えないし。
「パ、パンチのあるいい名前だと思います。」
私が出来る限り笑顔で答えるとエレオノーラが満面の笑みをした。
あ、今ので良かったんだ。
「そうかそうか、パンチのある名前とはなかなかこの名前の良さが分かっておるのじゃ!」
はい、そりゃもう。
この名前の破壊力ならあの新しい巨大な橋も一発で壊れそうだと思います。
名前ひとつでこれだけ破壊力があるとやっぱりエレオノーラはある意味大物なんだと理解する。
ついでにこの前仲間だと思ったことも訂正しておこう。
「それでエレオノーラ。この魔道具の説明をして欲しいんだけどな。」
「分かっておるのじゃ。この魔道具は要望通り嘘を見分けることができるのじゃ。裁判と入国の検査に使うと聞いたから多めに作っておいたのじゃ。手をおいて『はい』か『いいえ』で答えると嘘をついたときに赤く光るのじゃ。」
これは地球でいう嘘発見器みたいなものだ。
私はこれを元々裁判で利用しようと思っていたんだけど、入国審査のときにも使えるんじゃないかと考えた。
まず犯罪者の入国はお断りだ。
嘘発見器ならリストにない犯罪者や持ち込み禁止のものも見つけることができる。
密輸とか絶対できないだろうな。
それに他種族差別をする人もポラリス王国では入国できない。
さらに諜報員、つまりスパイも入国が拒否できるのだ。
べつに隠していることでなければ情報をもって帰ってもらっても構わないけど、レザラム帝国や人間至上主義国などの敵対しそうな国はできるだけ入国してもらいたくない。
私は安全第一でいくのだ。
というわけで入国の検査に新しい魔道具『嘘まる分かり君』が導入されたのだが、これが世間で話題を呼ぶことになるのはまた別のお話。
神様「ヤッホー!ひっさしぶり!みんな大好き美少女神様、略してかーちゃんだよー!」
花梨「いや、どう頑張って略してもかーちゃんにならないから。」
神様「そんな細かいこと気にしないもんねー!」
花梨「いや、全然細かくないから。最近大人しくしているかと思えばなにしにでてきたのさ。」
神様「ふ、ふ、ふ。どこかで私の写真を求める声がする!これに応えなきゃ神じゃない!」
花梨「いや、誰も求めてないから。むしろなくてほっとしているぐらいだから。」
神様「見よ!このために新調した一眼レフ!へい!パシャ!もういっちょパシャ!くるっと回って、あいたっ!」
花梨「うざいからやめなさい。というか一眼レフで難なく自撮りするなんてびっくりだわ。」
神様「花梨にチョップされようと神様だからね!このくらい簡単なのさ!」
花梨「まさかの神の力の無駄使い。世界中の神様に謝ってきなさい。」
神様「私にはみんなに私の可愛い写真を届ける義務、が・・・ってなんでシルキーがここに!?」
シルキー「ずいぶんと楽しそうですね。なにをなさっているのですか?」
神様「あ、いや、これはその・・・」
シルキー「世界中の皆様に迷惑ですから水の中に顔を突っ込んで大人しくしていてください。」
神様「世界中に迷惑ってひどくない!?というか水の中に顔を突っ込んだら死にはしないけど息ができなくて苦しいんですけど!」
シルキー「ああ、そうですか。ではゴミ箱の中でいいですよ。」
神様「なお酷いわ!」
シルキー「とりあえず大人しくしていてください。これは没収しますので。」
神様「ああ!私のおNewの一眼レフが!頑張っておこづかい貯めたんです、許してください!あーちょっと待ってってば~!」
花梨「・・・神様っておこづかい制なの?まさかおこづかいあげてるのってシルキーじゃないよね?やっぱりシルキーさんって最強だわ。」




