役所の職員と奴隷商再び
貨幣の設定を変更しました。
また来ちゃいましたシェルフィート王国!
最近来すぎな気もするけどこればっかりはしょうがないよね。
転移で来ているけどちゃんと門から通ってお金も払っているので許して欲しい。
「普通女王自ら来るのはおかしいんだがな。しかも護衛もなしで。」
クロードがじと目で私を見てくるけど仕方がないことなんだ。
私が目指している女王はフットワークの軽い庶民派女王だから。
そんなこと言ったら絶対怒られるから言わないけど。
「まあ、今回は俺に声をかけたから大目にみるが。」
おお!ありがとうございますセルジュ様!
おかげで怒られずに済みました!
クロードの言葉に私はセルジュを拝まずにはいられなかった。
「・・・なにを拝んでいるんだ?」
「ああ、いやなんでもないよ。それより早く行こう!」
クロードの変なものを見るような視線から目を反らしつつ、足早に町の中を歩く。
「・・・で、どうすれば従業員ゲットできる?」
「・・・まさかなにも考えずに行動していたのか?というか従業員をアイテムみたいに言うんじゃない。」
クロードにペチリと頭を叩かれる。
あの、私って一応女王でしたよね?
自分で一応って言っている時点でアウトだと思うけど。
まあ、べつにいいんだけどね?
「じゃあどうする?片っ端から声をかけていく?」
「やめなさい。大騒ぎになる。一応お忍びなんだからな。」
うーん、それもそうか。
やっぱり伝手がないのは色々不利だな。
いっそホムンクルスでも召喚するかな?
・・・いや、できるだけそれは止めておこう。
気づいたときには町中ホムンクルスだらけとか怖すぎる。
必要最低限にしよう、そうしよう。
「役所の職員って何人ぐらい必要だと思う?」
「そうだな。人数は多い方がいいが、移住してきた人をできるだけ雇いたいからまずは受付けする人がそれぞれ4人くらいで考えればいいんじゃないか?」
「4人って人数的に足りるの?」
「もちろん足りないが人数制限をして少しずつ解放するから大丈夫だと思う。働く場所の紹介に役所の職員も追加した方がいいだろうがな。もしものときは商業ギルドが人手の貸し出しをしているから頼んでもいい。もちろんそれは俺の考えだから陛下は好きにしていいさ。」
なるほど、クロードはできるだけポラリス王国の方で直接人を雇いたいわけか。
たしかに最初は人が少ないだろうしそこまで人手もいらないかも。
人が増えてきたら忙しくなるだろうからそれまでに十分な人数を雇う必要があるだろうけど。
「分かった。最初は試験的な人の受け入れだから私も役所の職員はそのくらいにしておくよ。そうと決まればどうやって人を雇うかなんだけど・・・」
「職員の募集をするか、奴隷を買うか、だな。」
知り合いもいないしクロードの言うとおり選択肢としてはそんなところかな。
しかしポラリス王国では奴隷制度禁止を決定したからね。
もちろん奴隷から解放して雇うなら問題はないんだけど、その場合解放した人がここで働きたくないといえば帰してあげないといけない。
それを考えれば普通に募集を呼び掛けて面接した方がいい。
ちょっと時間はかかるだろうけど。
「よし、じゃあ募集を呼び掛けて・・・」
私がそういいかけたとき大きな2台の粗末な荷車がやってくるのが見えた。
「なに、あれ・・・?」
私が見て驚いたのはその馬車に乗っている亡霊のように生気のない人たちだった。
「あれはおそらく奴隷になったものたちだろうな。きっと隣の国から売られてきたんだ。」
「あんなに痩せ細ってる。あの奴隷たちはどこから来たのかな?」
「隣のデルベント王国はあまりいい噂を聞かない国だが、奴隷もその国から多く流れてきている。あの奴隷たちもきっとそうだろう。」
デルベント王国ってブランの出身国だよね?
私もちょっとだけ行ってみたけど、たしかに人々は貧しそうな暮らしをしていた。
町に入ったら全然そんなことはなかったけど格差が激しい国なんだろうか?
「おや、こちらをずっと見ている方がいると思ったらこの前来ていただいた方々でしたか。」
私たちが奴隷たちをずっと見ていたせいか奴隷を連れていた商人が話しかけてきた。
この前といっても最近でもない気がするけど、アネットたちを買った奴隷商で私たちの接客をしていた人だった。
「お久しぶりでございますね。」
「お久しぶりです。よく私たちが分かりましたね?」
「ええ、あれだけ大きな商売でしたから。うちは値段の高い奴隷を基本的に扱っておりますので何人も買っていかれるお客様は少ないのですよ。といってもお嬢さんはフードをかぶっていらっしゃいますからそちらの男性を見て分かったのですが。」
なるほど、それなら私たちを覚えていても仕方ないか。
しかもそれを覚えていて商売人の顔で話しかけてきたということは、また買ってくれないだろうかと考えているんだろう。
「それでこの人たちはやはり?」
「はい。新しく買い入れてきた奴隷たちですよ。いかがです?私が選んできたのでそれなりに顔は整っていますよ。」
早速商売を始める奴隷商人。
荷車には女性だけでなく男性もいた。
たしかにやつれてはいるけど全員顔が整っていてそういう人たちだけ連れてきたんだろう。
魔眼で見た限りでも悪人はいないし、むしろみんな心が綺麗な人たちみたいだ。
こんな人たちが奴隷になってしまったのは心苦しいと思う。
でもわざわざ大金を払って奴隷を買わなくても募集すれば条件はいいから集まるだろうし私としてはあまりメリットはない、けど・・・。
私の反応がいまいちだと思ったのか奴隷商人は更に売り込みをする。
「この奴隷たちはですね、みんな健気な奴隷たちなんですよ。生活の苦しい家族のために自ら身売りし「全員買います!」て・・・は?」
一瞬「やった!」というような顔をした奴隷商人だったけどすぐに「あれ?」というような顔になった。
「ぜ、全員・・・?」
「はい、全員です!」
「いや、でも16人もいるんですよ?」
奴隷商人が確認するように視線を向けてくる。
16人ってことはそれぞれひとつの役所に8人ということになるかな。
予定の2倍になるけどどうせ後から募集するつもりだったんだし大丈夫だよね?
もしクロードが予定の人数だけでいいなら私が引き取ればいいんだし。
仕事はいっぱいあるからね!
「ちょっと待て。もし奴隷を買うにしても全員は多すぎる。というか募集する方向でさっきいいかけただろ。」
「いいのいいの、もう決めたことだから。これもなにかの運命だって。」
ここであったのもなにかの縁。
ゴードンやカミロたちだって行き当たりばったりで出会って仲間になったんだから。
この人たちに同情してしまったのはあるけど、それは彼らの決意に対して失礼だから口にはださない。
それにそういった選択をしている人は他にもいるだろうし。
私は女王になったといっても小国だし他の国の政治に対して口を挟める立場でもない。
そんな私にできることはせめて生活に困らないで生きていけるような豊かな国をつくることぐらいだ。
「はあ。分かった。人数が多くて困ることはないし俺もそれでいい。募集の手間も省けたしな。お金はあるのか?」
「もちろん!」
もしものときのためにお金はいっぱい持ち歩いているんだよね。
収納魔法に仕舞ってあるから盗られる危険もないし。
「それでは白金貨4枚になります。」
・・・財布的には大丈夫たけどいきなりこの金額を払うと金銭感覚が麻痺しそうだわ。
一旦奴隷商に行った後奴隷たちの身なりを整えてもらった。
あと奴隷契約があったんだけど断った。
奴隷となった人を解放するのは犯罪奴隷以外は持ち主の自由だからなにも問題ないはずだ。
それじゃあ奴隷の意味がなんちゃらかんちゃら言われたけど値段はそのままでいいといって諦めさせた。
ちょっと不服そうだったけど手間が省けたんだしいいと思うんだけどね。
全員連れてこられたばかりだったのでまだ奴隷がつける首輪みたいなのもつけていなくてちょうどよかった。
そして私たちは無事人手をゲットし、人目のないところで転移をしてポラリス王国へと帰還したのだった。
「はい!到着です!」
私たちはポラリス王国の王都に転移した。
いきなり転移させられた人たちは回りの景色が一瞬で変わったことに驚きの声をあげていた。
ここがどこだか分からず怯えている人もいる。
まあ私たち以外一人誰もいないし不安になるのも分からないでもないけど。
でもローランが桜を植えたのにならって私も王都にカリンの木を植えてみたからちょっとは華やいで見えると思うんだけどな。
桜がとても綺麗だったから私もしてみたくなったんだよね。
カリンの花はなかなか可愛らしくて綺麗なので満足している。
「ここはポラリス王国という新興国です。みなさんにはこの国で働いてもらうことになります。働く場所と仕事内容に関しては仕事場に移動してから説明しますね。ではなにか質問があればどうぞ。」
私の適当な説明にクロードがなにか言いたげに見てくる。
だってなんて説明すればいいか分からないし相手が聞きたいことから答えればいいと思ったんだよ。
連れてこられた人たちは顔を見合せ困惑した様子だったけど、しばらくすると一人の女性がおずおずと手をあげた。
「あ、あの、なぜ奴隷契約をしなかったのでしょうか?」
おおう、そうきたか。
「それはみなさんに奴隷としてではなく職員として働いてもらいたいからです。もちろん職員寮もありますしお給料もでますよ。」
私の言葉に全員が驚きの声をあげる。
まさか奴隷になってこんなことになるなんて思わなかったんだろうな。
でもこの人たちは奴隷じゃないし、もしかしたら今まで以上に裕福になるかもしれないよね。
「そ、それならどうして私たちを買ったんでしょうか?・・・い、いえ!不満があるとかそういうわけではないです!」
「ああ、うん。とくに理由はないけど纏まった人手が早く欲しかったから、かな?」
私の答えに首を傾げていたけど、とりあえずは納得してくれたみたいだ。
「ではまずはみなさんの仕事場に移動しましょう。」
私たちが到着したのはもちろん新しくできたばかりの役所。
中に入ると落ち着いた雰囲気でちょっとしたテーブルや椅子なども置いてある。
イメージとしてはギルドのカウンターを参考にして造ったけど植物などを置いたり室内を明るくしたり工夫して居心地がよい空間になっている。
階段を上がると会議室もある。
「ここは役所です。みなさんにはふたてに別れてここともう一ヶ所の役所で働いてもらいます。そこもここと全く同じ建物なのでまとめてここで案内しますね。仕事内容はあとで説明するのでまずは職員しか入れない寮の方へ行ってみましょう。」
私たちはカウンター内に入り職員たちの仕事用の机を通りすぎて奥の部屋へと進む。
ここは住み込みでも大丈夫なように職員たちの生活の場になっている。
入ってすぐは食事をとる場でもある共有のダイニングキッチンがあり、そこから右側が女性棟、左側が男性棟になっている。
トイレ、シャワーなども完備。
大部屋ではなく、ちょっと狭いかもだけどちゃんと鍵つきの個室もついている。
もちろん個室にはベッドや机や椅子、タンスなどもついているからすぐに住めると思う。
「ここがこれからみなさんに暮らしてもらう職員寮です。食事は自分たちで作ってもらうことになると思います。もちろん外食でもいいんですけど今は店はないので。部屋は自分たちで決めてもらって構いません。必要なものがあれば用意するので言ってください。みなさんには役所の制服を着てもらうことになるので後で服のサイズを測らせてくださいね。あとは・・・なにか質問はありますか?」
一通り説明を終えると私はちょっとした達成感を覚えた。
職員寮も自慢の出来なので満足してもらえるはず。
そう思ったけど回りの反応がいまいちで私は「あれ?」と首を傾げた。
「あ、あの、本当に私たちがここに住んでもいいんですか?」
「え?もちろんだけど気に入らなかった?個室が狭かったかな?」
「いえ!そんなことありません!むしろ立派すぎて戸惑っているというか・・・」
んー?そうかな?
たしかに自慢の出来だけど豪華でもないしむしろ質素だし。
あー、でも設備は立派かもしれない。
「私たち奴隷になったはずだったのにこんなに厚待遇でいいのかな?」
そう呟く人たちは驚きと嬉しさと戸惑いと色んな感情が混ざったような顔をしていた。
「もしみなさんがそう思うならそれに見合うだけの働きをしてください。しかしその前に確認したいことがあります。」
そう言って言葉を区切ると全員が少し不安な表情をして私の言葉を待つ。
「みなさんはここで働きたいですか?」
私の言ったことが意外だったのか意味が分からずポカーンとした顔になった。
私はそれがちょっと可笑しくて少し笑って話を続ける。
「みなさんはもう奴隷ではありません。この国は奴隷制度を禁止していますからね。もし故郷に帰りたいというなら止めません。自分たちで決めてもらっても大丈夫です。」
奴隷じゃないんだから無理に働かせることはできないし、嫌々働いてもらっても困るからね。
故郷に帰りたいならそれでもいいし。
でもさすがに家まで送れって言われても困るけど。
せいぜいシェルフィートの王都までかな。
私がそんなことを考えていると一人の女性が口を開いた。
「私はご主人様に救われました。たしに家族のことは心配ですが恩人に恩を仇で返すようなことはできません。一生懸命働きますのでここで働かせてください。」
他の人たちも同じ考えのようで全員が口々に感謝の言葉とここで働く意思を伝えてくれた。
全員がそう言ってくれるとは思ってなくて驚いてしまった。
何人かは故郷に帰りたいという人もいるかと思ったのに。
「ありがとう。全員ここで働いてくれるって言ってもらえて嬉しいです。けど、その、ご主人様じゃなくて花梨と呼んでください。」
「かしこまりました花梨様。」
あー、まあそれでもいいか。
一応名前を呼んではいるし。
「えっと、それじゃあ次は組分けをしますね。仕事のことは今日は疲れていると思うので明日以降にします。」
早く部屋を割り当てて休んでもらいたいからね。
今日のところは食事をとって明日から頑張ってもらいたい。
女性11人に男性5人なのでまず男性を王都が2人で迷宮都市を3人にした。
迷宮都市は冒険者が多くなるだろうし男性が多い方がいいよね?
女性は全員料理はある程度できるということだったのであとは申し訳ないけど適当に分けた。
人数的には同じなので問題はないはず。
ひとまず王都組に待ってもらって迷宮都市組をそちらの役所の方へ連れていく。
「部屋は先ほど言ったように自分たちで決めてください。今日は私が準備してきた料理を食べてくださいね。食事の後は自由にしてもらっても構いません。」
そういって私は収納魔法に仕舞っておいた料理をテーブルに並べる。
どれもブルーノが料理本を見て試作した料理だ。
研究意欲があるのはいいけど量を考えず作りすぎで食べきれないほどあるんだよね。
まあ今回はそれで助かったんだけど。
「こ、こんな豪華な料理、食べてもいいんですか?」
テーブルに並べられた美味しそうな様々な料理を見て目を丸くして恐る恐る尋ねる。
「もちろん。たくさんあるから好きなだけ食べてね。余った分はあの魔道具に入れておけばいいから。じゃ、私は戻るから!」
「え!?魔道具!?」
驚くみんなをおいて私は王都の役所へと戻る。
そこでも同じように説明して料理をおいたら私はクロードと一緒に王宮へと戻った。
王都組の人たちも迷宮都市組の人たちと同じような反応だった。
みんなの驚いた顔を思い出して思わず笑みをうかべる。
あんなに死んだような顔をしていたのに元気になったみたいで良かった。
私の顔を見てやれやれというような反応をするクロードにはちょっと不服だけど、そんなことよりエレオノーラに役員のスタンプを作ってもらわなければ。
明日も忙しくなりそうだ。




