ギルドの誘致と橋の建設
私は冒険者ギルドと商業ギルドの人に会うためクロードとシェフィールド王国に来ていた。
今日はブランが護衛で私のお世話にシルキーとセルジュも来ている。
シェフィールド国王に挨拶をしたところギルドの職員を王宮に招いて会談の為の部屋を用意してくれるということだったのでお言葉に甘えることにした。
シェフィールド国王には本当に色々とお世話になっている。
クロードの妹の件でも力になってもらったしね。
お礼にと思ってチョコレートを献上した。
これからうちで生産するお菓子ですという宣伝もばっちり。
まあ生産するエレオノーラの領地はシェフィールド王国からしたら一番奥の領地になるんだけどね。
それはともかく海を挟んではいるけどうちとは一番近い国だしこれからも仲良くしてもらいたい。
「ポラリス女王陛下。商業ギルドの方がいらっしゃいました。」
「分かった。お通しして。」
最初に会談するのは商業ギルドだ。
冒険者ギルドとは午後からになっている。
「失礼いたします。」
入ってきたのはふくよかで穏やかな印象の男だった。
「お初にお目にかかります。シェフィールド王国で商業ギルドのギルドマスターをしておりますアイザックと申します。お会いできて光栄です。」
アイザックというギルドマスターは自己紹介をして私に礼をした。
「初めましてアイザックさん。私はポラリス王国女王、カリン・キタガワ・ポラリスと申します。」
初めて新しい(?)名前を名乗ったー!
というか今さらだけど無駄に長いよこの名前!
「おお。女王陛下の正式なお名前を初めて知りました。ご無礼をお許しください。」
そりゃあ昨日決まったばかりだからね!
「いえ、大丈夫ですよ。私も初めて正式な名前を名乗ったものですから。それよりも今回はポラリス王国に商業ギルドを設置したいというお話でしたが。」
私が話をきりだすとアイザックさんはこくりと頷いた。
「はい。ぜひともお願いしたくお伺いしました。失礼ですがポラリス王国には商会がひとつもないということでしたので、商業ギルドが商会の呼び込みをお手伝いいただけるかと思います。」
それからアイザックさんは色々と商業ギルドを設置することの利点を述べていった。
うん、確かに商会がひとつもないうちでは商業ギルドがあると日用品を販売しているというし、商会を呼び込んでくれるというのは助かるけど。
「商業ギルドに加盟しなければ商売できないようにすることの利点はなんでしょうか?」
「は?そ、それはほとんどの国がそういう仕組みになっておりまして」
「つまり、特に利点はないと?」
私がそう聞くとアイザックさんは慌てて首をふって否定した。
「そんなことはございません!商業ギルドが商品の仕入れの便宜を図ることができますし、商会同士の繋ぎをすることもあります。」
うーん、それって商業ギルドに会員費を払い続けてまで商業ギルドに所属する魅力はあるのかな?
単に商業ギルドが全ての商業を牛耳る結果になるだけだと思うんだけど。
私の反応がいまいちなことに慌てたのかアイザックさんが必死に利点をあげていく。
「それにですね!違法な商会に商売をさせないということもあります!」
お!それは有難いかも。
たしかにそれなら商業ギルドを設置する価値があるよね。
「分かりました。商業ギルドを設置いたしましょう。ただし条件が2つあります。」
「じょ、条件ですか・・・?」
一瞬ほっとした顔をしたアイザックさんだったけど条件と聞くとまた緊張した顔になった。
「はい。商会や行商人、店を構える人が商業ギルドに加盟することは必須にしていただいても構いません。しかし、露店だけは除外して欲しいのです。」
「それは露店は商業ギルドに加盟していなくても開くことができるということでしょうか?」
アイザックさんが理由が分からず不思議そうに聞いてきた。
「そうです。その日暮らしをする貧しい民に会員費は払えないでしょう?」
私がそう言うとアイザックさんはきょとんとしたあと朗らかに笑いだした。
「なるほど。たしかにそれは女王陛下のおっしゃる通りでございますな。しかし好き勝手に露店を出すと収拾がつかなくなるかと思いますが。」
「露店は許可制にします。露店をだしたいときは町の役所に申請してなにを販売するのか答えて国の許可をもらいます。このときお金はかかりません。露店をだすためのルールを説明して露店をだす場所を振り分け、許可証を発行します。」
私がちらりとクロードに目配せするとクロードは頷いた。
クロードは私がなにも言わなくても分かってくれてとても助かる。
「なるほど、それなら露店の統率ができますな。いやはや、女王陛下の聡明さと民を思うお気持ちには感服いたしました。」
アイザックさんはニコニコとしてお世辞をいってくれるけど露店の許可を緩くしただけでそんな大層なことじゃないと思うんだけどな。
「それでもうひとつの条件とは?」
「はい。私が直接許可をだした店は除外して欲しいのです。」
「そ、それは・・・」
アイザックさんの顔が青くなる。
まあ、これを認めたら国と商業ギルドが真っ向から対立することになるもんね。
でも私はそんなつもりはない。
それなら最初から商業ギルドを受け入れない方がいいもんね。
「大丈夫ですよ。私が直接許可を出すのは特別な場合のみです。例えば国営の宿とかですね。それから私自身店を構えておりまして、しかし私が商業ギルドに加盟するのは無理があると考えての条件です。」
「女王陛下が店を、ですか?」
「はい。色々試したいことがありまして。」
「そういうことでしたら問題ありません。他の国でも国営の宿はありますし。さすがに王自らが店を経営しているところはありませんが、大雑把に言えばそれも国営ともいえなくはありませんしね。」
アイザックさんは驚きつつも納得してくれた。
他の国でもさすがに国営の店は商業ギルドに加盟しなくても大丈夫だったみたいだ。
私が許可をだした店はそれを示す印を表示することで決定した。
まあその印があれば私関係の店ということでちょっかいをだしてくることもないだろう。
「あとこれはお願いなんですが、引退した方で商業について詳しい方を何人か紹介していただきたいのです。できるだけ優秀な方を。」
「そうですね、分かりました。心当たりが何人かおりますので声をかけておきましょう。」
アイザックさんは「女王陛下は勉強熱心なんですね。」とか言っているけどなんか誤解されている気がする。
まあいいけど。
「では商業ギルドのポラリス王国本部を王都に設置し、7つの都市に支部を設置するということで、よろしくお願いします。」
アイザックさんと商業ギルドについての話し合いを終え、後日ポラリス王国にギルドを建てる場所を見に来るということで帰っていった。
ふー、なかなか疲れたけどこれでまた一歩前進したかな。
次は冒険者ギルドだ。頑張ろう。
午後、冒険者ギルドと会談があったんだけど商業ギルドとは違ってあっさりと終わってしまった。
冒険者ギルドのシェフィールド王国のギルドマスターはテオバルトさんといってがっちりした体のいかにもベテランの冒険者といった感じだった。
もう引退しているらしいけど。
厳ついけど豪快に笑う元気な人だ。
冒険者ギルドの話は、もちろん冒険者ギルドをポラリス王国に設置したいということだった。
冒険者ギルドは独立した存在であることを説明され、冒険者が自由に国境を越えられる許可が欲しいということだった。
私も冒険者ギルドはそういうものだという認識だったので了承する。
商業ギルドと同じく王都にポラリス王国本部を設置して7つの都市に支部を設置することになった。
ポラリス王国は平和で魔物はあまりいないから仕事がないかもしれないといったら、護衛依頼や薬草の搾取があるから大丈夫だといいつつちょっとがっかりしている様子だったので、まだ未踏のダンジョンがあることを教えてあげた。
それを聞いたテオバルトさんは凄く大喜びをして、ちょっとテンションがおかしくなってしまったので驚いたけど。
この様子だと迷宮都市に冒険者が押し寄せそうだな。
せめて他の都市に珍しい薬草とか植えるようにしよう。
というかゴブリンとか弱い魔物もちょっとは野に放つべきかな?
あ、いやゴブリンは害にしかならないからどうせなら美味しい食料になる魔物とかにしよう。
ダンジョンまでにはいかなくても、魔物がいる森や湖や洞窟とかそれぞれの領地にも設置して、決められた範囲から出られないようにすれば危険はないはず。
ダンジョンじゃないからドロップ品はないけど、魔物の素材は手に入るしなかなかいい考えじゃないかな?
まあ、それはともかく冒険者ギルドの話も無事に済んで私も安心した。
あとはシェフィールド国王に話をしていよいよポラリス王国の解放も目前だ!
私は冒険者ギルドとの会談を終えた後、しばらく休憩して時間があるときでいいので話をしたいと国王に会談を申し込んだ。
すると国王はちょうど時間があるということだったのですぐに会ってくれることになった。
「お疲れ様だったな、ポラリス女王。無事話も済んだようでなによりだ。それで話があると聞いたんだがなにかあったのかね?」
「はい。折り入ってシェフィールド国王にお願いがございます。」
「お願い?」
そう、このお願いはポラリス王国においてとても重要なことだ。
受け入れてもらえなければポラリス王国の移民の受け入れが難しくなるぐらいに。
「実はポラリス王国とシェフィールド王国の間に橋を架けたいのです。」
「なんと!?」
国王はかなり驚いたのか、王様らしからぬちょっと間抜けな顔になってしまっている。
「し、しかしだな、川に橋を架けることはよくあるが海に橋を架けるのか?とてつもなく大きな橋になると思うんだが。」
ちょっと困ったような顔をして話す国王に私は肩を落とす。
「やっぱり駄目ですか?」
「あ、いや、駄目ではないんだが、むしろそうなればこちらとしても有難い。」
「本当ですか!?」
「あ、ああ。しかしそんなことが可能なのか?かなりの人手と金と時間がかかると思うが、それだけしても完成するかどうか。こちらとしても援助したいんだが、あいにく復興も完全ではないし、帝国のせいか物資も集まらない。そんな状況で力になれるかどうか。」
「ああ、大丈夫です。許可と橋を架ける場所を確保していただければあとはこちらで準備いたしますので。数日で完成するかと。」
「あれだけの規模をか!?」
国王は信じられないとぶつぶつ呟いている。
たしかにダンジョン機能のおかげで数日で完成するのは凄いことだと思うけど、王様曰く、あれだけの規模の橋自体がこの世界には存在しないらしい。
私からすればそれより長い橋は日本にたくさんあるのでそこまで驚かないんだけど。
「それにしてもそこまでして橋を架ける必要はあるのかね?もちろんあったらそれは便利なんだろうが、採算が合わないのではないかな?」
「ポラリス王国は島国ですから橋がないとなると船で渡るしかありません。しかしシェフィールド国王がご存知のようにあの海域はとても危険なのです。」
「そうか。シーサーペントか!」
「いえ、あの子は問題ありません。あのシーサーペントと呼ばれているものは本当は海竜、ドラゴンの仲間でポラリス王国の守り神的存在なのです。本来のシーサーペントは他にいます。」
「なんと!あれはドラゴンだったと!?道理でシーサーペントを倒したことのある冒険者が海に出ても逃げ帰るわけだ。」
そ、そんなことがあったんだ。
よかったー!珊瑚が倒されなくて!
「あの海域は海竜が頂点に存在していますが、それ以外に凶暴な海の魔物も多く存在しています。もし、海を渡るのであれば海竜に護衛されながら渡るしかありません。」
「そ、それは・・・」
国王も難しい顔をして黙りこんだ。
それでは多くの人が渡れないことは理解しているのだろう。
「よし、必ず橋を完成させてくれ!」
「はい!もちろんです!」
私が帰った次の日、完成した巨大な橋の報告を聞いてシェフィールド国王の叫び声が王宮に響き渡ったという。
「数日って言ったじゃないかー!!」




